27.手伝い
グレンさんと二人っきりの行動は初めてだ。ヤエ村の家では二人っきりになったけれど、何かをしなくてはいけないということはなかった。
この世界に来て、ルクスの街をゆっくりと歩いたことはなかったので、正直街の中を武器も持たずに歩くことにドキドキしている。
シルビアさんが私を一緒に買い物に行かせたのは、魔族一人だと絡まれてしまうから、買い物のついでに街を見てきたらいいという心遣いだったのかもしれない。
空は薄暗くなってきているけれど、多くの人が買い物に来ていた。道は混雑していて、騒がしい。
私が魔族だと気がついて何かを言っている人はいるけれど、買い物が忙しくてすぐに私から視線を逸らして買い物を続ける。
「アイ。あまり離れるなよ」
「はい」
ここで離れてしまうと迷子になってしまう。たとえ迷子になっても宿の場所は分かるので、合流することはできる。
でも、迷子になってしまったら時間がもったいない。急いでいるからシルビアさんもお願いしてきたのだろうから、迷子になって合流している時間はない。
けれどこのままでは離れてしまう。
私を見ながらにやにや笑って一人の男性がぶつかったきた。勢いが強くて倒れそうになったのを咄嗟に、グレンさんの腕を掴んだ。
「大丈夫か?」
「ご、ごめんなさい」
「いや、構わない。あいつもわざとぶつかったんだろうしな」
そう言って、顔を後ろへと向けた。すると、小さな悲鳴が聞こえた。それは男性の声で、どうやらグレンさんがまだ後ろにいた男性を睨みつけたらしい。
手を離そうとすると、「また誰かとぶつかると大変だから掴んでろ」と言ってくれたので、そのまま掴んでいることにした。腕を掴んだままだと離れることもないから、大丈夫だろう。
まず最初に立ち寄ったのは、いわゆる八百屋。この世界の野菜は、形が少し異なるだけで、名前も栄養価も変わらない。
キャベツは四角で、レタスは三角。トマトはハート型。ニンジンは星型。
グレンさんはメモを見ながら、購入する野菜を店員に伝えて袋に入れてもらい、お金を払っている。何もしないで立っているだけというのも嫌なので、その袋を私が受け取る。
思っていたよりも重い。
重量感のある野菜を多く購入したから仕方がないのだろう。
「俺が持つぞ」
「いいえ、大丈夫です」
すぐに【無限収納】に入れることにもなるから、私が持っていても問題はなかった。
それに、きっとグレンさんにはかなり重いと思う。
私は魔族で、少し力が強いからそこまで重いと感じない。それに、武器は戦斧。問題なく持てるように力はつけていた。
けれど、グレンさんは私の手から野菜の入った袋を取ってしまった。その瞬間小声で「おもっ」という声が聞こえた。
思わず小さく笑ってしまったけれど、重そうにしているグレンさんから袋を受け取った。
「どうして俺の周りには力の強い女性ばかりがいるんだ」
きっとシルビアさんのことを言っているのだと思う。たしか、グレンさんより力持ちだと言っていた気がする。
たぶん、パーティの中で三番目には力があるとは思うけれど、私とシルビアさんと比べてはいけないと思う。
少し移動して、他の人の邪魔にならない所で袋を【無限収納】に入れる。これで両手が開いて、次の荷物も持てる。
次に向かったのは肉屋。この世界にも動物は存在しているので、動物の肉を購入する。モンスターの肉も売っているけれど、店は別にある。たとえ美味しいと言われたとしても、モンスターの肉が嫌な人もいるから分けているのだろう。
ここで購入したのは牛肉、鶏肉、豚肉、羊肉、山羊肉、馬肉、鹿肉、熊肉。
熊肉があることに驚いてグレンさんに尋ねてみると、どうやら食肉用の熊を養殖している場所があるらしい。
今度機会があれば食べてみたい。生まれて一度も熊肉なんか食べたことない。
店員さんが三人がかりで肉を包み、袋に入れてくれる。肉の量が多いので袋は二つに分けられた。
それを受け取り、金額を聞くとちょっと驚くような額だった。食堂を経営しているとそれだけの額が毎日のようになくなるのだろうと納得した。宿と同じ建物内にあって、経営者は同じだけれど、もしかすると宿屋だけでは生活できないのかもしれない。
「すごい金額でしたね」
肉屋から離れて、お互いに袋を一つずつ持って、歩きながら言うと「いつものことだけどな」と前を見ながらグレンさんは答えた。
もしかするとグレンさんは何度も手伝ったことがあって、買い物にはなれているのかもしれない。けれど【無限収納】が使えないようなので、荷物持ちは別にいたのかもしれない。
きっと、シルビアさんと一緒に買い物してたんだろうな。
次のお店が最後らしく、向かう途中で肉を【無限収納】に入れた。空が薄暗いといっても、気温は少し高い。保冷剤が入っているわけでもないのでこのまま持ち歩いていたら肉が悪くなってしまう可能性もある。
「やっぱり【無限収納】って便利だよな」
羨ましそうに見てくるグレンさんだったけれど、気軽に「使えるようになればいいじゃないですか」なんてことは言えない。
レベルが上がって使えるようになる人もいれば、元々使える人もいる。そして、どんなに頑張っても使えない人もいるのだから。
最後のお店は香辛料が売っていた。香辛料についてはあまり詳しくはないので、グレンさんの後ろについて行く。
メモに書かれている香辛料をいくつか見ているけれど、種類が多くて私にはどれを購入したらいいのかが分からない。
けれどグレンさんは何種類かを見て、すぐにどれを購入するのかを決めてしまった。もしかすると、使う種類は決まっているのかもしれない。
購入する香辛料全てを両手で持って会計へと向かう。香辛料は紙袋に入れてもらい、お金を払って頼まれていた買い物はこれで終了した。
お店の外に出て、香辛料はそのまま持って宿へと戻る。
「そういえば、この買い物代はシルビアが全額出したものなんだ」
「そうなんですか!?」
「ああ。冒険者になったのは、ランクが上がれば依頼料も多いかららしい。自分のお金は宿か食堂の買い出しでほとんど使っちまうんだよ」
父親がいないから、マーシャさんの力になりたかったのかもしれない。ちょっと違うけれど、私も同じ。パパの力になりたかった。
「それで、アイはどこか行きたいとかないのか?」
「今日はこうやってお店を見て回れたので十分です」
「そうか」
私の言葉に、グレンさんは少し嬉しそうに微笑んだ。もしかすると、買い物に付き合わせてしまったことを気にしていたのかもしれない。
私としては、街の中を周りの目をあまり気にすることなく歩けただけで満足だった。




