26.再会
ブルーウルフのことと、イビルラットの報告を終えて、ギルドカードを更新し終わった私たちは数日休みを貰った。冒険者なので好きに休みを取ることはできるのだけれど、今回のこともあり「休むように」と言われたのだ。
イビルラットについては一度調査をしてから討伐依頼を出すか考えると言っていた。
疲れていることもあり、長居することなく宿へと向かった。もちろん、向かう宿は『エノコログサ』。シルビアさんのお母さんである、マーシャさんの宿だ。
「こんにちは」
「はいはい、いらっしゃい」
リカルドが声をかけると、食堂の方からマーシャさんの声が聞こえてきた。扉を開いてやって来たマーシャさんは、私たちを見て少し安心したような顔をした。冒険者の中には、依頼の仕事を受けて帰ってこない人もいる。マーシャさんもそんな人を何度も見て来たのかもしれない。
そして、グレンさんを見てからシンシアさんを見て嬉しそうに微笑んだ。
「おかえり」
「ただいまニャ!」
右手を上げて元気に答えたシルビアさんにグレンさんが小さく笑った。再開するといつもこうなのかもしれない。
いつから会っていないのかは分からないけれど、マーシャさんは少し涙ぐんでいるように見える。
「あんたは、この街にいるなら毎日とは言わないけど会いに来なさい。それに、出る時は声をかけなさい」
「ごめんニャさーい」
シンシアさんはルクスの街にいてもマーシャさんに会うことはあまりないらしい。ということは、依頼を受けて街を出る前に会ったのはいつなのだろうか。以前心配している様子だったから、長い間会っていなかったのかもしれない。
「どうせ、グレンくんの借りてる部屋に転がり込んでたんでしょ!?」
「正解ニャ」
グレンさんはこの街に部屋を借りているようで、マーシャさんのいい方からすると、よくあることなのかもしれない。
それにしても、男性の部屋に転がり込んで大丈夫なのだろうか。いくら仲間であっても、異性だ。
お互いが良ければいいのかもしれないけれど……。マーシャさんも知っているみたいだし。
「え、なに? あの二人ってそういう関係だったの?」
「さあ?」
ノアさんが小声でリカルドに尋ねているけれど、リカルドにも分からないらしく首を傾げている。
多分この二人は、ただの仲良しなのだと思う。恋人未満、友達以上なのだろうけれど、付き合ってはいない。よく一緒に依頼を受けたり、いつも一緒にいることによってそう見えるだけなのだろうと思う。
私はそう思うだけだけど。
「それで、部屋に泊まるのかい?」
「はい!」
突然話を振られて驚いたリカルドは大きく返事をした。
「ノアちゃんとノエちゃんは二人部屋であとは一人部屋かい?」
「そうです」
「グレンくんは?」
「泊まります」
返事をしたのはノエさんだった。ノアさんとノエさんはいつも二人部屋なのかもしれない。マーシャさんはグレンさんに宿泊するのかを尋ねた。
部屋を借りているのなら、宿泊の必要はないのだけれど、グレンさんも宿泊するらしい。全員連泊で、それぞれ七日分の料金を支払い鍵を受け取った。部屋はこの間と同じ。偶然なのかもしれない。
シルビアさんは、どうやら自分の部屋があるらしくお金を支払うこともなければ、鍵も受け取ってはいなかった。
昔から宿屋をしていれば、部屋があって当然なのかもしれない。
階段を上がり、それぞれが部屋に向かう。リカルドとノアさん、ノエさんは階段を上がって右へと向かった。私とグレンさんは左。
しかも、私の部屋は一番奥。突き当りには窓がある。グレンさんも一番奥の部屋で、私の部屋の正面だった。軽く手を振って部屋に入るグレンさんに頭を下げて部屋に入る。
部屋の中は変わらず綺麗で、掃除が行き届いている。ウエストバックをテーブルに置いて、戦斧を壁に立てかけてからある場所へと向かう。
それは、部屋の右側にある扉。実はそこはシャワールームになっているのだ。疲れているけれど、まずシャワーを浴びたかった。
扉を開いて小さい脱衣所で【無限収納】を開いて着替えを出した。
*
シャワーを浴びてさっぱりした私は、夕飯をどうしようかと考えていた。食堂で食べてもいいのだけれど、先ほど宿に入って来た時、食堂は騒がしかった。もしかすると混雑しているかもしれない。
食堂は宿に宿泊していなくても利用することができるため、わざわざここまで食べに来る人もいるのだろう。
一度食堂で食事をしてみたいけれど、魔族である私が行くと空気が悪くなってしまうことは分かりきっている。
この街の人は私になれてきているけれど、旅をしている商人や冒険者にとっては私がいたら落ち着かないだろう。
今日も【無限収納】から取り出すことにして、明日の朝食は食堂に行ってみよう。
早めに行けば人も多くはないだろう。
そう考えていると、扉がノックされた。前回は警戒もせずに扉を開いて、グランツさんに少し怒られた。なので今回は扉の外にいる人の気配を探った。
それは知っている人の気配だった。警戒する必要はない。
「どうしました?」
「突然ごめんニャー」
ノックをしたのはシルビアさんだった。その格好は先ほどとは違い、シンプルなものに変わっていた。こう見ると、誰もシルビアさんが冒険者だとは思わないだろう。
今はエプロンもしているから、食堂の手伝いをしているのかもしれない。それなのに、私の元に来るということは急ぎの用事なのだろう。
食堂は忙しそうだったから、シルビアさんも長時間離れていることができないに違いない。
「食材が足りニャくニャってきたから買ってきてほしいニャ」
「分かりました」
「メモとお金はグレンに渡しているから、二人に任せたニャ!」
そういうシルビアさんの後ろにはグレンさんが立っている。グレンさんも冒険者とは思えないシンプルな格好をしている。
二人で買い物に行って、私が荷物を【無限収納】に入れればいいのだろう。きっと荷物の量が多いのだ。
シルビアさんは足早に食堂へと向かって階段を下りて行った。
「じゃあ行くか。リカルドたちは食堂で手伝っているらしい。武器は持たなくていいぞ。その格好で問題ないか?」
この世界ではワンピースを着ている人はいない。私が魔族領で注文して作ってもらったのだから。
初めて見る格好に戸惑っているグレンさんだったけれど、問題はないので頷いて街へと向かった。




