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23.名物はない

 一度視線を感じてからは、それ以上視線を感じることはなかった。私が建物内にグレンさんと一緒にいることを確認して満足したのかもしれない。それなら、覗いていたのは不審者ではなかったのだろう。グレンさんもしばらく窓の外を見ていたけれど、何も言わなかった。

 それからグレンさんは、先ほどと同じようにソファに横になった。今度は眠っているようで、小さな寝息が聞こえている。

 オアーゼとヴィントも一度目を覚ましたので、影の中に入ってもらった。出していても問題はないけれど、ずっとくっつかれていて暑苦しかったので仕方がない。あの様子だと、しばらくは離れてくれなかっただろう。

 テレビなんか存在していないので、暇になった私も少し眠ろうかと考えていた。その時、玄関の扉が開かれた。


「ただいまニャ!」


 元気よく入って来たのはシルビアさんだった。けれど、建物から出た時と変わらず荷物は何も持っていない。お土産になるようなものはなかったのだろうか。

 続いて入ってきたリカルドたちも何も持っていない。ノアさんは少し不満そうなので、もしかすると気に入ったものがなかったのかもしれない。


「おかえりなさい」

「めぼしいものは何もニャかったニャ」


 そう言ってグレンさんが寝ているソファに遠慮なく座ろうとするシルビアさん。寝ていることに気がついているはずなのだけれど、声をかけるか考えてしまった。

 けれど、グレンさんはシルビアさんの声で目を覚ましたのか、シルビアさんが座れるようにと足を上げた。その隙にシルビアさんはソファに座った。そして、グレンさんは気にせずシルビアさんの膝に足を下した。


「この村には名物もないのね」

「旅行でここに来る人もいないみたいだから仕方ないのかもしれないわ」


 私の左右に座ったノアさんとノエさんは、少しがっかりしているみたいだった。

 村にあるお店を覗いても、置いてあるのは食料や調味料だけで、クッキーなどのお菓子もなかったという。

 それでもシルビアさんは楽しそうだ。


「久しぶりにグレン以外の人と一緒に行動できて嬉しいニャ」

「悪かったな、いつも一緒で」

「別に悪いニャんて言ってニャいニャ」


 いつも一緒ということはプライベートでも一緒にいることが多いのかもしれない。それほど二人は仲がいいのだろう。

 楽しそうに話をしている二人を見て、そういえば【鑑定】していなかったことを思い出した。

 リカルドたちは会ってすぐと言ってもいいくらいの時に勝手に【鑑定】させてもらった。だから、今回も勝手に【鑑定】させてもらうことにした。きっと、ばれないだろう。

 まずはシルビアさんから見させてもらうことにした。


【名前】シルビア・ハイト

【種族】獣人

【年齢】二十四歳

【武器】片手剣

【レベル】三十二

【個人ランク】C

【パーティランク】D 『青い光』

【依頼記録】成功 三十八/失敗 零


 思っていたよりもレベルが高くて驚いた。リカルドよりレベルが高くても三十くらいだろうと思っていたけれど、想像よりも少し高い。マーキスさんから臨時で加わってほしいと頼まれるだけはあるのかもしれない。

 シルビアさんは、常に右手に盾を装備している。力持ちらしいので、私と同じ斧使いかと思っていたけれど、そうじゃないらしい。力持ちなのは、偶然なのだろう。

 次はグレンさんを【鑑定】する。


【名前】グレン・ツァーベル

【種族】鳥人

【年齢】二十二歳

【武器】銃剣

【レベル】三十四

【個人ランク】C

【パーティランク】D 『青い光』

【依頼記録】成功 四十/失敗 零


 銃剣。この世界では珍しい武器だ。ゲームをしていても、最後に入手しようと思えばできるという武器だった。でも、使い慣れた武器を変えてまで銃剣を使おうとは思えず、クリア後に入手していた。

 ゲーム内では使っている人は一人だけいた。それは、ゲームでのグレンさんだ。この世界でも銃剣を持ち歩いているのはグレンさん以外に見たことはない。

 グレンさんの銃剣は、彼が寝転がっているソファの近くの壁に立てかけられている。

 手を伸ばせば届く距離に置いていないのは、ここが安全だからなのかもしれない。安全だと思っていなければ、寝息をたてることもないだろう。

 レベルもシルビアさんより高く、パーティの中では私を除けば一番高い。しかも、依頼の成功数も一番多い。

 グレンさんってすごいんだな、と思っているといつの間にかシルビアさんとグレンさんが私を見ていた。

 どうしたのだろうと思っていると、二人は何故か同時に笑みを浮かべた。

 なるほど。これは、私が【鑑定】していたことに気がついたのだろう。何も言わないのは、見られても困るものじゃないから。もしくは、私も知らないうちに【鑑定】されていたからかもしれない。


「明日には、ルクスの街に向かうわよ! もう、ブルーウルフもいないから依頼は終わったしね」


 何もないこの村にはもういたくないのだろう。ノアさんは誰かが帰りたくないと言っても、この様子だと帰るだろう。ルクスの街に戻るにも三日はかかるので、早く村を出たいのだと思う。そして、街で少しゆっくりしたいのだろう。

 この様子だと誰も帰らないという選択肢はないようだ。


「それなら、今日は早めに休まないとな」


 そう言うと、グレンさんは起き上がってソファから降りた。何をするのかと思って見ていると、キッチンに向かって行った。


「晩飯は何が食べたい?」


 どうやらグレンさんが作ってくれるらしい。その言葉を聞いた瞬間、全員の目が輝きだした。

 この反応を見ると、グレンさんは料理上手らしい。料理のリクエストをするのを黙って聞いている。

 材料を買わずにすむものをいくつか作るつもりらしい。私もリクエストを聞かれたけれど、「グレンさんの得意な料理」と答えた。グレンさんの料理を食べたことがなかったので、得意な料理を食べたかったのだ。

 少し困っていたようだけれど、「それなら、あれだな」と小声で呟くと料理をはじめた。


「楽しみだね」


 リカルドに言われて頷いた。手伝いは必要ないらしく、邪魔にならないようにと誰もキッチンに近づくことはなかった。

 そして、夜。食べた料理は、この世界に来て一番おいしいものだった。グレンさんが私に作ってくれたのは鶏もも肉の照り焼き。ノアさんとノエさんにはキノコがメインの料理だった。

 城で食べてた料理もおいしかったけど、グレンさんの料理が一番おいしいと思えた。鶏もも肉の照り焼きは前世でも食べていたため、食べなれていたからそう思ったのかもしれない。でも、本当においしいのだ。

 またいつか作ってもらえる機会があれば、リクエストしてみるのもいいかもしれない。

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