とあるなろう作者のプロファイリング
※自虐ネタなので苦手な方はご注意ください。
「随分と汚い部屋だな……」
「ええ……」
「容疑者のパソコン、スリープ状態になっているようだな。解除してみろ」
「はい。……これは!」
「どうした?」
「『小説家になろう』のマイページが表示されました。……投稿履歴もあるようです」
「『小説家になろう』って……なんだ?」
「人気作品がアニメ化される事もある、日本で一番PVが多い小説サイトです。栗原も投稿していたとは……」
「これは手掛かりになるかも知れんな」
「手がかり?」
「ああ。栗原が投稿した小説からプロファイリングを進めていき、犯人のプロファイリングと照らし合わせれば、奴が真犯人かどうか予想を付けられる筈だ」
「なるほど、さっそく作者分析に掛けてみましょう。ん……殆ど短編ですが、67作品もありますね……。うっ……これだけ投稿して総合3000pt程度ですか」
「それって少ないのか?」
「おおよそ平均値ではあると思いますが、100ptを超えた作品はほとんどなく、1000pt以上は皆無……。直近の作品に至っては0ptも目立ちます。熱心に投稿している割に、あまり人気は無いようです」
「よし、全部読み切るぞ。地道な捜査が真犯人に届く唯一の鍵だ」
「はい……あっ、別名義でR18作品も投稿しているみたいですね」
「それは流石に勘弁してやろう」
「そうですね……」
◇
「なんか……」
「ああ……ラブコメが多いが、どれも設定が妙に捻ってある。あまりにモテなさ過ぎて、普通の恋愛だと移入できないという歪んだ自意識が透けて見えるな」
「ええ……やたらとヤンデレに殺される話が多いです」
「うむ……それに世界が滅びる展開も多い」
「ヤンデレ好き……異常な破滅思考。犯人像とも一致しますね」
「主人公の大半がネガティブ思考なのも気になったな」
「たまにネガティブではないと思ったら、世界を平然と破壊するヤベー奴だったりしますね……」
「犯行現場には、犯行の痕跡を入念に消した跡があった。犯人は破滅思考の暴走によって突発的犯行に及び、必要以上に証拠を消しにかかった。ネガティブに起因する慎重さ、そして破滅的突発性……プロファイリングした犯人像とも一致する」
「係長、見てください!」
「どうした?」
「栗原のペンネーム……相浦アキラ……これです」
「その名前がどうした?」
「この名前、あいうえお順でかなり上の方に来ると思いませんか?」
「確かに。ネガティブな一方で、異様に自己顕示欲が高い。やはり犯人は……ん……電話か。――分かった、すぐ向かう」
「……係長」
「栗原が『どうして全然気付いてくれないんだよ……あの子……てか全然小説人気でないし……もうやだ……』とか泣き呻いているのがネットカフェで見つかった。署で話を聞くぞ」
◇
「相浦! ……あ、違った、栗原! お前は丑の刻参りをする女性を目撃し、一目ぼれした! そして自分に矛先を向けさせる為に、女性のバッグからのど飴を盗み、眼鏡拭きで入念に指紋を消しとり、女性を怒らせる為に自作したサルミアッキ飴をのど飴袋に混入させ、そのまま逃走した! 間違いないな?」
「……はい……ごめんなさい。どうしてもおっかない女性に追っかけ回されたくて……実際追っかけ回されたら絶対嫌だって言うのは分かってるんですが、それでも追っかけ回されたくて……」
「気持ちは分からんでもないが、お前のやったことは最低だ。反省し、罪を償うといい」
こうして栗原は豚箱にぶち込まれ、のど飴窃盗、およびサルミアッキ飴混入事件は解決した……。
……栗原は獄中で喉トレーニングをしたり、ヤンデレ小説を書いたりしつつも反省しているという。
そして一か月後……。
今夜も丑の刻参りの槌音が、署の夜勤当番の耳を和ませている。
身勝手な犯行によって傷ついた被害女性の心も、きっと癒された事だろう。
「――栗原の野郎おおおおおお! 私にクソ不味い飴を食わせやがってええええええ! 豚箱から出たら速攻で角煮にしてやっからなあああああ!」