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第八話『予定外のエンカウント?』




 どうしよう。

 妹二人がとてもわかりやすく不機嫌だ。

 二人に付き合って土日を家でダラダラ過ごす予定だったのに、二人揃って約束をドタキャンしてきたのだ。しかも、一つ屋根の下で生活する兄妹なのにだよ? 

こんなにも哀しいことはあるまい。


 もう昼過ぎだというのに、千弦ちゃんは自室から一歩も出てきてくれないし……。美琴ちゃんも家事をキッチリ終わらせた上で、ボクに何も言わずに外出してしまった。

 だからというか、久々に……リビングには、両親二人とボクという光景が広がっていた。二人が言うには、妹達が生まれる前日以来らしい。

 確かに、ボクの覚えている頃からの思い出には、いつも妹達の姿があった。リビングへ行けば二人揃って遊んでいて、ボクはいつもソレに混ぜて貰っていたのだ。


「いや……う~ん。むしろ、強制的に巻き込まれていた。って感じじゃなかったかなぁ……。拓斗が帰ってくる度に、美琴も千弦も目の色を変えて「お兄ちゃん、お兄ちゃん」って」

「父さん、流石にソレは思い出を美化し過ぎだよ。あの二人にお兄ちゃんっ子な一面なんてないって。女の子二人の間に、わざわざボクの入る隙間を作ってくれていたんだよ。とても優しい良い子達だ……」

「お母さんも、お父さんと同意見なんだけどなぁ~……」

「はいはい、二人が仲良しなのは知ってるから……。それより、今日はデートに行かなくていいの? 休日を合わせては、いつも二人だけで出掛けていたじゃないか」

「まぁ、こんな状況じゃ……ね」

「たまには親子水入らずの休日でもいいでしょう?」

「別にいいけど、美琴ちゃんと千弦ちゃんはそれぞれに休日を謳歌してるよ。わざわざ、ボクに気を使わなくても、二人で楽しんできていいんだよ?」

「でもほら、今朝から何故か……あの子達不機嫌みたいだし。ボク達が眠った後に何かあったのかい?」

「アナタ達が喧嘩なんて、珍しいこともあるものね。反抗期ってものなのかしら? お母さん、息子達の成長を喜ぶべきなの? それとも仲裁した方がいい?」

「そもそも喧嘩じゃないからね……」


 喧嘩ではないけど、確かにこんなにもあからさまに妹達が不機嫌を表に出したことはない。

 ずっと一緒にいれば「今日はちょっと機嫌が悪いな~」とか、なんとなく察することは出来たが、それでも今回ほど長続きせず、大抵はボクと遊んだりボクで遊んだりして発散している。

 今回そうできないのは、その不機嫌の原因がボク自身にあるからなんだろう。

 まぁ、それならそれで、二人にも代案くらいはあるだろう。美琴ちゃんはコミュ力高いから、リア友と遊ぶなりショッピングするなり。千弦ちゃんはネットの知り合いと楽しそうにしているし、一緒にオンラインゲームでもやっていればその内……。

 要するに、ボク一人だけが暇をしているのだ。

 美琴ちゃんが掃除を含めた家事全般を終わらせてしまったので、そういうので時間を潰すことも出来ず、だからと言って夕食の準備には早すぎる。

 というか、今日の当番は「たまには母さんがやる」と言って聞かない……。

 ボクのリア友達は揃って遠出しているらしく、今から合流するとなれば日もくれてしまう。


 唯一残された『彼女に会う』という選択肢も、昨日断ってしまった手前、「やっぱり遊ぼう」なんて言ってしまっては、自分の都合で相手を振り回す嫌なヤツみたいで……なんか嫌だ。


 ゆえに、現在進行形でひまなのである。

 ゲームでもつけようかな?

 といっても、パーティーゲームは一人でやっても退屈だし、ロープレやシミュレーションは、ボク一人で進めちゃうと妹二人が怒っちゃうしな~。

 パズルゲーは千弦ちゃん、音ゲーは美琴ちゃんの専売特許で、ボクはあまり得意じゃないし……。

 やめた。ゲームはやっぱり二人が一緒の時にするとしよう。

 さて……また振り出しだ。


 いっそのこと、ボクも散歩がてら外に出てみようか?

 多少蒸し暑いかもしれないけれど、新たな発見とかあるかもしれないし……。


「なぁ、拓斗……二人が不機嫌な理由に心当たりはないのかい?」

「いつも二人と一緒な拓斗なら、何か知ってるんじゃないの?」


 そりゃまあ、理由そのものズバリなんで……なんて言えないわけですけど……。

 二人にはまだ、ボクに彼女が出来たことを話してはいない。

 ……というか、それこそ当然なのだ。

 だって、彼女側の罰ゲームが原因で短い期間だけど男女交際することになりました。なんて、実の親に言えるわけないだろう?

 まぁ……罰ゲームやら、期間限定やらを隠してなら、説明出来なくもないのだが、それだと二人を騙しているようで心苦しい。

 言ってしまえば、コチラは人助けの延長でやっているつもりなので後ろめたい事なんてないはずなんだけど、なんだか悪いことをしている気がして……なんとも言えない。

 そして、その交際が原因で妹達が不機嫌です。とも言えないでしょ……。


 だから心配する両親には悪いけど「そういう時期なんだよ」って事にしておく他にないのだ。


「父さん、母さん。心配しなくても二人ともすぐに元通りになると思うから、今はそっとしておいてあげてよ」

「……ふむ」

「そうね」

「サチ……」

「亮一さん。二人に一番近い拓斗がこう言っているのだから、きっと大丈夫よ」


 ちなみに、父さんの名前は亮一りょういちで、母さんの名前は幸恵さちえ。父さんだけは、母さんの事をサチと呼んでいる。以上、補足説明終わり。


「共働きで忙しい私達の代わりに、拓斗が二人をいっぱい愛してくれて、母さん達とっても助かってるし、とっても嬉しいのよ♪ いつもありがとう」

「もう……。そんなの、二人のお兄ちゃんなんだから当たり前だよ。礼を言われるようなことじゃないって」

「はは、拓斗はやっぱり『お兄ちゃん』だね。これからも二人を頼むよ……」

「それこそ言われるまでもないって」


 そう。言われるまでもなく、ボクには二人がとても大切な存在なのだから。


「それじゃあ、家にいても暇だし外に出てくるよ」

「あ、じゃあ、お小遣いをあげようか。店に入るならいくらか必要だろう?」

「それはアレかな? 暗に、妹二人にプレゼントでも買ってきてさっさとご機嫌をとってこいっていうやつ?」

「拓斗……、お父さんの純粋な厚意を、そんな曲解して受け取らないでおくれ。ボク悲しいよ……」

「悪かったって! でも、別に出かけるっていってもただの散歩程度だし、今サイフの中にある分だけで十分足りるよ。そもそも、これまであまり使ってないし」

「ダメよ~。お金はちゃんと使わないと。経済が滞っちゃうんだからぁ」

「そう言われても、ボクが欲しいものって……だいたい先に妹達が買っちゃうから、ボクが買う必要がないんだよね……。使っても精々、家族へのプレゼントか、自販機で飲み物買う時くらいかな……? たまに、学校の購買でパンとか買うけど、良心的な価格だし……」

「欲がない子だね……君は」

「その分、妹達のために使ってあげてよ。美琴ちゃんの猫グッズコレクション……最近は、猫科動物全般に目がいってるみたいで、虎とかライオンでも喜ぶし、等身大人形とか結構値が張るから。千弦ちゃんはパソコンのパーツとか喜ぶよ。最近欲しいパーツがあるってぼやいてたしね」

「なるほど、妹に持っていかれたわけか……」

「変な言い方しないでよ」

「ごめんごめん、それじゃあいってらっしゃい。車には気を付けるんだよ」

「わかってるって……。いってきます」



 さて、宛も用もなく散歩することわずか5分程度。



「あら? もう妹さん達との用は済んだのかしら? マイダーリン」

「あ……」


 マイハニーと遭遇してしまった。某有名RPGでもあるまいし、外出して数分でエンカウントするなんて……。

 誘いを断った翌日の真っ昼間にコレである。もう気まずさがハンパないっていいますか……。


「偶然だね神宮寺さん。こんにちは」

「ええ、偶然ね秋澤くん。こんにちは」

「その服とても似合ってるね。白のワンピースが神宮寺さんの黒髪と相まってよく様になってるよ。清楚で可憐な印象の強い神宮寺さんにはぴったりだ。その髪飾りも昨日の物とはまた違った華やかさがあるし、唇のそのグロスも良い色してる。昨日は気付かなかったけど、この香りは香水ってよりはシャンプーなのかな? とても落ち着く良い香りだ。こんなにも綺麗な人がボクの彼女だなんて、彼氏として鼻高々すぎてまるで夢みたいだよ」

「あら嬉しいわマイダーリン。そしてびっくりだわ。アナタにそんなお世辞を言う知能があっただなんて」

「ひどい言われようだね神宮寺さん。そんな事より神宮寺さん。ボクは今から君に『一生に一度のお願い』というものを使ってみようと思うのだけど、言ってみていいかな?」

「こんな公共の場で何を言うつもりなのかしら、私ドキドキしちゃうわ。きっと、私の想像もつかないような熱烈で凄い要求をされてしまうのね。出来れば二人きりのいいムードとシチュエーションで聞きたかったけれど、わがままは言わないことにするわ。アナタからめんどくさい女だなんて思われたくないもの」

「それじゃあ、遠慮なく言わせてもらうけど」

「どうぞ」

「今すぐ全力で逃げてしまってもいいかな? いいよね? 応えはまた今度聞かせていただくとするよーっ!!!」


 逃げました。

 だけど、走り出すのが一瞬遅かった。

 ボクがUターンする前に、神宮寺さんの持っていたショルダーバッグの紐がボクの首に巻き付いていたのだ。


「……うぐっ……じ、神宮寺さん……これ、一歩間違えれば大惨事になりかねないからね」

「ごめんなさい拓ちゃん。寂しくてつい引き留めてしまったの。他意はないわ。こんな私を許してくれる?」

「引き留めたことよりも、そうするための手段に問題があると思うんだ。命に関わるからね? ボク以外には絶対にしちゃいけないよ?」

「当然でしょう? 私がアナタ以外の他人を引き留める事なんてないもの。逃げる獲物は追わぬ主義なの」

「だったらボクも見逃してほしかったよ神宮寺さん。それと、ボク相手でもあの手段での捕獲はもうやめてね」

「ならそもそも逃げないでくれるかしら? 追うなんて無駄な事に労力を割きたくないの。可愛い彼女のお願いだもの、聞き入れてくれるわよね? マイダーリン」

「……悪かったよ」


 ようやく拘束を解いてくれた神宮寺さんは、特に不機嫌を表情に出すでもなくジッとこちらを見つめてくる。

 睨まれてる?

 それとも、ボクの顔に何か付いてたりするのかな? たしか、ボクは外出前にハーゲンを食べたけど溢したりしてないし、行儀悪く急いで食べたりもしていない。

 何も付いてないよね? ……あ、ちょっと自信なくなってきたかも……。


「……えっと、何かな? そんなにジッと見つめてきて……」

「…………。あ、ごめんなさい。アナタに会えたのが嬉し過ぎてつい見惚れてしまっていたの。気に障ったのなら謝罪するわ」

「これまたド直球なお世辞だね。素直によろこんで良いものか迷うところだけど、とりあえずありがとうと言っておくよ」

「信じてくれないの? 今週の土日は用事があって会えない彼氏。せっかくの休日なのに一人ぼっちで憂鬱なまま出掛けていた私。そんな二人が、まるで恋愛ドラマのように運命的な出会いを果たす。恋に恋する乙女ならキュンキュンして当然のシチュエーションだと思うのだけど?」

「そうだね、『まともな恋仲』なら、そういう反応になるのかもしれない。ボクも別に君を嫌っているわけでも苦手としているわけでもないから、こういう状況でなければ素直に喜べたかもしれないね」

「あら、何か問題でも起きたの?」

「断られた翌日に外で暇そうにしている彼氏を見付けたら、君はどう思う?」


 普通、怒る……とはいかぬまでも、不機嫌になるなり、憤りを感じたりはするだろう?


「仲良くなるチャンスが巡ってきたと喜び勇んで話しかけるわ」

「…………普通、怒らない?」

「私に普通な反応とやらを期待しているの?」

「出来れば……」

「酷いわたっくん! 私が誘っても「先約がある」って断ったくせに、こんなところでフラフラ暇そうにしてるなんて……。嘘つき! ありえない! 最低! 女の敵っ!!」

「…………」

「…………」

「……えっと……」

「ご所望通りめんどくさい普通な反応というものをしてみたのだけれど、ご感想は?」

「ごめんなさい、違和感しかありませんでした」

「でしょうね。私のキャラじゃないもの」

「それとさっきからさりげなく、ボクに対する個称にバリエーションを効かせるのをやめて貰えないかい? せめてどれか一つに絞ろうよ」

「じゃあ、一番気に入っているマイダーリンにするわ」

「人前でその呼び方はやめてください。恥ずかしすぎて死んでしまいます……」

「……ふぅ、仕方ないから、たっくんにしておいてあげるわ」

「ソコは妥協点じゃないよ? 妥協点にさせないからね? せめて、拓斗くんにしてくれないかな……。この要望を呑んでくれるなら、ボクも君を下の名前でーー」

「拓斗くん」

「…………」

「どうしたの拓斗くん? さぁ、契約通り私はアナタを拓斗くんと呼んだのだから、アナタも私を美月ちゃんと呼んでちょうだい。さぁ、please call me」

「発音が素敵だね」

「ありがとう。でも、今欲しい言葉じゃないわね」

「…………」

「言っておくけれど、アナタが呼ぶまで何時間だって待つわよ? 重い女でごめんなさい」

「……はぁ……、み……美月」

「……っ」

「その、ちゃん付けは……勘弁してください」

「そうね。アナタの慣れない感じの呼び捨ても、存外に悪くなかったわ。キュンキュンしちゃった」

「……それは、よかったよ」



 彼女のその言葉が本心なのか、ボクにはわからない。

 喜んでいても、怒っていても、その変化が限りなく面に出ない女性なのだ。

 無表情とか無愛想とか、そういうのとも違うような……ふわりと自然な笑みなのに、どこか不自然に感じてしまう。

 なんだかとてもミステリアスな女性ひとなのである。

 なんだろう。

 わかりやすい言葉でいうなら、経験の差? 人としての品格? なんていうか……レベルが違うっていうか……。神宮寺さんはボクなんかよりも、遥か高嶺にいるような……。わざわざボクに合わせているって感じ。

 お姫様が身分を隠して平民との恋人を演じてる、みたいな?


 昨晩まで話すこともなかった彼女の、何故こんな関係になってしまったかというと……


 当然だけど、話は昨晩まで遡ることとなる。





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