第五話『……ラブレター(?)』
「それで……なんて書いてあるの?」
「私も気になるよ。その世にも奇妙なストーリー的なラブレターの内容。きっとエピソード的にもお金になる類いのアレだよ。お兄ちゃん、小説にして売ろう」
「兄のホラー的実体験をお金に変えようとしないでくれないかな千弦ちゃん。けっこうマジで怖かったんだからね?」
「コメディ要素盛り盛りにしてね。ちづる~こわいのやなの~」
「ごめね千弦ちゃん。今だけ全力でぶん殴りたい」
「そんなことより! はよ! 内容はよっ!!」
「美琴ちゃんは興味津々だね。他人の書いたラブレターなのに」
「普通ならそっとしとくよ! でも、今回は明らかに特殊じゃん! 同年代の恋バナを何十回も聞かされてきたアタシだって、気になって仕方ないっての!! 野次馬るっての!」
「これで内容が『超超超大好きでぇ~』とか、星マークとかハートマークとかふんだんに盛られた、普通な内容だったらむしろ笑えるのにね~」
「え? ラブレターってそれが普通なの?」
「いやまぁ……拝啓とか敬具とかは書かないけど……、どうなんだろう? アタシも千弦ちゃんも書いたことないしね~。って、それより中身! 内容ぷりーず!」
ワクワクどきどきな美琴ちゃんに急かされながら、その封筒を開ける。ボクだって、気になってない訳ではないのだ。
それに、真っ黒な封筒よりは開封のハードルも低い気がする。まぁ、それとは別の意味でドキドキではあるのだが……。
いざ開けてみると、入っていたのは1枚の便箋と……
「ヘアピン?」
「ん~、見た感じ新品って風には見えないけど……。え? まさか「コレを私だと思って大事にしてね」とか、無理矢理プレゼントを送りつけちゃうヤバい人なんじゃない!? ちょ、お兄ちゃんコレ怖い! 今すぐ返品してきて! クーリングオフも今ならまだきくでしょ!!? きくよねっ!?」
「どうどう……、美琴ちゃん落ち着いて。まずは手紙を読んでから考えるべきだよ。早とちりで相手を傷付けちゃうかもしれないし。ね、お兄ちゃん」
「それって、もう手遅れだよって言いたいのかな? 千弦ちゃん。その論法だとボク、すでにだいぶやらかしちゃってると思うんだけど……」
「だからまず読むべきなんだよお兄ちゃん」
千弦ちゃんもこう言っている事だし、読んでみることにした。内容はこうだ。
『貴方に想いを伝えるべく、幾度も文字にし送らせていただきました。ですが、いくら待てど貴方様から応えをきくことが叶わず。今朝、清水の舞台から飛び降りる覚悟で直接会って、ちゃんと言葉で伝えようともしましたが貴方は逃げ去ってしまいました。』
「「あちゃ~……お兄ちゃん」」
「まだ続きがあるからね。お兄ちゃんを攻めるならその後にしてくれないかな……」
『貴方が警戒する原因はきっと私にあるのでしょう。最初から恋文などという回りくどい方法をとった私が悪かったのです。貴方に落ち度はありません』
「「…………」」
「あー妹達よ。「女の子にこんなこと言わせるなんて……」と言いたげな、その殺傷力高めな『ゴミを見る目』で、この愚兄めを見るのはやめてくださいお願いします」
『おそらく私の覚悟が足りなかったのです。清水の舞台から飛び降りる覚悟程度では足りなかったのでしょう。実際、清水の舞台から飛び降りても絶対に死ぬわけではありません』
「……ん? ん~? なんだか、話の雲行きがあやしくなってきたようなぁ……」
「奇遇だね美琴ちゃん、私も同意見だよ……」
『発想の転換です。私にとってとても大切な想いを伝える大事な機会のですから、それこそ実際に飛び降りる覚悟で挑むべきだったのでしょう。本日、放課後。学校の屋上にて貴方が来ることをお待ちしています』
「「……お、おやおや~……?」」
「…………」
『もしも、19時までに貴方が現れなかった場合は……。PS.私が本日付けていた髪留めをこの手紙に同封しておきます。私のいない学校で私の髪留めを持っている貴方を周りはどういう目で見るのでしょうね? もちろん、他意はありません』
「「…………やっべぇなオイ」」
「え? え、えっ? コレ、えっ? コレ……もしかしてボク……脅迫されてる?」
「お兄ちゃん……私やだよ。間接的とはいえ、実の兄が人殺しだなんて……」
「ちょっ、まっ!!?」
「コレ、けっこうガチっぽいよねぇ~。……お兄ちゃん」
「わかってる! わかってるから!! というか、今何時!?」
「「そうねだいたいね~」」
「ふざけてる場合じゃなぁーーい!! えっと……6時。……6時っ!!?」
家から学校まで、チャリで飛ばしても20分はかかる。しかも、当て付けのようにウチの学校は小高い丘の上にあり……上り坂ばっかりである。帰りは楽なんだけど、行きは地獄である。だから、登校時は1時間近く自転車を手で押している日常。
要するに……死ぬ気で漕げと?
「お兄ちゃんが死ぬ気で頑張るだけで、一人の女の子の命が救われるんだよ? 安いもんでしょ? そうだよねお兄ちゃん?」
「その通りだけど、せめて今、言葉にはしないで欲しかったよ……」
「今晩はお兄ちゃんの大好きな野菜炒めと、赤味噌の御味噌汁作って待ってるからね……。健闘を祈ってるよ……」
「他人事だね……。うん、頑張るよ。頑張ってくるよ」
行くしかないのだから、諦めて全力出撃しかあるまい。
邪魔な荷物は放置して、ボクは家を飛び出した。
「……サクサク、モグモグ……。ねぇねぇ~美琴ちゃーん」
「んん~、ごめん今料理中だから手離せないんだけど~」
「いや、べつに料理しながらでいいよー」
「うぃうぃ~」
「あの手紙、どう思う~?」
「まぁ普通に考えてアレだよね~。なんつーの? めんどくさい系女子的な? 構って構って~って気にして欲しいだけのダルい系? どうせ飛び降りる気なんてないだろうしね~。よっ、おー♪ いい焼き加減~♪」
「あれ? 野菜炒めじゃなかったのー?」
「それはお兄ちゃんの分だけ~。どうせ、お人好しのお兄ちゃんの事だし、わざわざ相手の話を聞きまくって帰るの遅くなるだろうし、先に食べるアタシ達とは別メニューでもいいかな~って」
「待たないんだ~」
「え~? 待つの? いつになるかもわかんないのに~?」
「無理ー」
「だよねぇ~」
「さてさて、死ぬ死ぬ詐欺に対してお兄ちゃんはどう戦うのでしょうかね~……。クッキーうまうま♪」