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第一話『とりあえず、誤解は解いておくべきだろう』





 ボクには二人の妹がいる。

 父さん、母さん、ボク、妹、妹の五人家族。

 穏やかで温和で覇気の欠片もないサラリーマンの父さんと、これまたおっとりとした柔和な微笑みが印象的な母性の塊みたいな母さんの間に生まれたボク等三人。

 平均よりもちょっとだけ裕福な家庭でスクスクと育ったボク達家族、みんな元気です!


 いや、そんな事はさておき……


 今年の春に高校二年生になったボク……秋澤あきざわ 拓斗たくとには、二つ年下の妹が二人いる。

 単刀直入に言葉を飾らずに言うと、その妹達……とても『いい体』をしているのだ。

 誤解しないで欲しい。この場合のいい体とは、胸がデカい、ウエストが細い、いいケツしてる、グラビアとかそういうボンッキュッボン的なアレではない。

 あくまでボクの個人的な主観から理想の体型と言っているだけで、世間一般の意見とはちょっと違う可能性もある。


 一人目の妹……美琴みことちゃんは、世間一般で言うところの『今時の女の子』と呼ばれる生命体。可愛いものが大好きで、特にネコに目がないようだ……部屋はネコグッズで溢れているレベル。

 体型は中々女性らしい凹凸のしっかりとれたナイスバディの部類。胸は80後半らしいが今も健やかに成長中のようで、90越えも夢ではないだろう。そのくせ、お腹周りには無駄な肉がなく、そこから、尻、腿、脚へと続く曲線美はもはや芸術の域である。

 あくまで個人の感想です。


 そして、二人目の妹……千弦ちずるちゃんは、美琴ちゃんとはまた違ったベクトルの女の子である。ミステリアスな寡黙少女……を気取っているが、ソレは外面だけで家の中ではけっこうワガママな末っ子ちゃんだ。

 いや末っ子と言っても、美琴ちゃんも千弦ちゃんも同日同時に生まれた双子ちゃんなのだが……、いつの間にか、姉美琴と妹千弦の構図が出来上がっていた。

 お待ちかねの体型の話に戻るが、千弦ちゃんは……アレだ。……こう、一言で表すと……直線? いや、曲線はあるのか? でも限りなく直線に近い曲線というか……。上から順に……無い、細い、可愛らしい。だが、一言で『貧相』と笑う無かれ! この子、可愛いのだ。

 こう……かまってやらなかった時にふと見せる拗ねた顔とか、ボクの保護欲をガッ!!っと! こう、ガッ!!!!っとやられてしまうのである。

 もちろん個人の感想です。


 とは言っても、やはり兄妹である。

 奴らが生まれた時からずっと一緒のボク達である。

 良いところも悪いところもある程度把握している立派な家族なのである。


 家族を相手に、そういう感情など芽生えるはずもない。

 だから、いくらボクが彼女達を『理想の女性』とのたまっても、シスコンにはならないのだ。




「……ん? えっとぉ……ごめん、話が見えない。ちょっとアタシ、耳やらかしたかもしんないから、大事な部分を聞き逃したかもしれないアタシの為に、もう一回言ってくんない? お兄ちゃん」

「おいおい、何度も言わせないでくれよ恥ずかしい」

「そうだね。何かの聞き間違いだったのかもしれないし、もう一度ゆっくりしっかり、私達に理解できるように簡潔に伝えて欲しいな、お兄ちゃん」

「なんだよ……姉妹揃って、ボクを言葉で辱しめたいのかい? ボクにソッチの趣味は全く無いんだけど」


 休日の真っ昼間からクーラーガンガンのリビングにて、大画面テレビで某大人気乱闘ゲームを三人仲良くプレイしていた矢先の出来事である。

 ボクは一作目からいるピンク色のアレを使用しつつ、落ちているアイテムや奥義技を使用しない縛りプレイ中。

 対する妹二人は、わざわざ一つのコントローラーを二人で使い分け、移動を千弦ちゃん、技を美琴ちゃんが受け持つ二人羽織プレイ。

 最近はオンラインで色んな人と戦えて便利だね、って事で、兄妹で協力してオンラインの知り合いをボコっていた時のお話である。


 話の発端は……たしか、「休日の真っ昼間から兄妹仲良くゲームって、君達ホント仲良いよね~」とかいう、ボイスチャットからの言葉だったかな?

 そこから、「暇なの?」やら「彼氏彼女とかいないの?」やら「ちゃんと青春してる?」的な話題になって、なんだか受け答えが面倒になってきたので、こう言ってやったのだ。


「妹の身体に興奮はするけど、ボクはシスコンではないから」


 ――と。

 ……あれ? 何だか話の前後がくっつかないぞ?

 実の兄が聞かれてもないのに、いきなりこんな言葉をぶっちゃけやがったら、そりゃ妹達もドン引きしてしまうことだろう。

 それ以前に、自身の耳を疑ってるようだが……残念ながら、妹達よ……それは空耳ではないらしいぞ。


 嗚呼、きっと暑さにやられてしまったのだ……。

 あ、今設定温度24度だ!? どおりでちょっと肌寒いな~って思ったんだよっ! これはどっちが犯人だ? 温度下げるなら一言言ってくれよなー……たく。


「ウチの妹達はとっても可愛いから、思春期真っ盛りのお兄ちゃんは薄着の妹にドキドキしっぱなしだよ~……っうお! ぶねぇ……いきなりボム投げんなよ! もうあんま残機残ってないんだよお兄ちゃん!!」

「ちっ、外した……」

「容赦なくフレンドリーファイア狙って来たなオイ」

「お兄ちゃん、それよりも話の続き」

「続きもなにも、今の言葉がすべてだろ~。おい! その足場崩されたら復帰できな――あぁあ~……死んだよ。妹達よ、敵と協力して兄を苛めないでおくれ……」

「はは、ザマァ……♪」

「お兄ちゃんが変なこと言うから悪いんだよ。今更、シスコンじゃないなんて嘘付くから……。私、悲しいよ」

「……えっ? そっちなの!? 普通、興奮してたって方じゃないの!?」

「そんなのアタシでも知ってたし~」

「仕方ないよ。私達可愛いから。お兄ちゃんがそういう、ムラムラ~ってなるのも無理はないよ」

「視線で追ってもなかったのにバレてただと!?」

「女の子の第六感をなめちゃアカンぜぇ~」


 女の勘……おそるべし……。

 いやまぁ、バレてたからどうというわけでもないのだが……。むっ!? 次は設置式の爆弾持ってやがるな! そう何度も兄を欺けると思うなよぉ~……。


「でもなんで今更になって、シスコンじゃないなんて思ってもいない事を言っちゃうのかな? お兄ちゃんはシスコンなのに」

「千弦ちゃん。さも確定事項のように言ってくれているけど、ボクはシスコンではないよ。もちろん、二人の事はとても愛しているがあくまでも家族としての愛だ。今の関係よりも先に行きたいだなんて微塵も考えていない。多少、妹に甘い兄バカである自覚はあるがシスコンではないよ」

「いやいや、お兄ちゃんはシスコンでしょ。何言ってんのかね~この男は。アタシに迫られたら絶対断んない自信あるし。つーか、妹をエロい目で見てる時点でギルティだっての~。やりぃ♪ 回復回復~」

「美琴ちゃんまでそんな事を……。そもそも、美琴ちゃんはボクに迫ったりしない。さらに言うと、ボクは君達をエロい目で見ているけども、それ以外はいたって普通のお兄ちゃんだろう。残念だったな、ソレは毒キノコだ」

「戦略的撤退……あとは任せたよお兄ちゃん。エロい目を否定しない時点でどうかと思う。視姦って近親相姦に入るのかな?」

「妹よ難しい言葉を知っているね~。というか、この会話ボイチャで流れてる?」

「何だかお兄ちゃんがめんどくさそうにしてたから、ちょっと前からマイクは切ってるよ~。向こうにもメッセ送っといた~。……くっそ! 金魚かよテメェ……」

「気のきくようになった妹にお兄ちゃん涙が出そうだよ」

「一生をかけて崇め奉ってもいいよ~」


 三人ともに画面から目を離さない。

 ゲームもまた兄妹のスキンシップなので、全力で楽しくプレイしなくてはいけない。それはボクだけではなく、二人の妹も同じであるようで……目がマジだ。

 今更だけど、二人羽織プレイって器用な事をするよね我が妹達は……。いや、二人三脚プレイかな? 二心一体プレイ? ようは息の合ったプレイである。

 ボクではドチラと一緒にやってもそうはいかないので、同じ兄妹としてちょっとジェラシー。


「さて妹様方よ。そろそろいい時間だし、ボク自ら昼御飯を作ろうと思うのだが注文はあるかね?」

「「えっ!? お兄ちゃんが料理!?」」

「そんなに驚くことかな? ボク、家庭科の授業でも手際がいいねって褒められるレベルには料理に自信はあるけど」

「初耳だよ!?」

「あのお兄ちゃんが家で料理するなんて……」


 サプライズのつもりはなかったのだけど、なんだか驚かせてしまったようだ。たしかに、自発的に家で料理をするのは初めてかもしれない。

 ボク一人の時はインスタント麺や冷凍食品で事足りるし、普段この三人だけになる時は外食か妹達が勝手に作り初めてしまう。その場合、洗い物担当がボクになる。

 おそらく妹達はルーティン的に今日もそうする予定だったのだろう。だが甘いな……。ボクだって料理くらい出来るのだ。


「ちなみに、レパートリーは?」

「常識的な範囲であれば、レシピを検索するなりして調べれば作れる自信はある」

「ああ……これ、失敗するタイプの人間だ。「出来なかったんじゃない、やらなかったんだ」とか言いわけして、自分の無能さを認めようとしないパターンの人だよ……」

「お兄ちゃん……料理っていうは、知識じゃなくて経験で作るものなんだぞ~? 加工済み食品をレンチンするってのは調理に入りません。わかりまちゅか~?」

「なるほど。理解した」

「「……ほっ」」

「君達がボクの料理の腕をなめてることは十分に理解したよ。仕方ない……そこまで言うなら自分の分だけ作るとするよ。二人はいつも通り外で食べてくるといい……。樋口さんを渡しておこう」

「いやいやそういう問題じゃないから!!」

「そうだよお兄ちゃん。そんな変なもの食べてお兄ちゃんの身にもしもの事があったらどうするの? ちゃんとしたもの食べないと健康に悪いでしょ」

「容赦ないね千弦ちゃん……」


 そんなに出来ないと思われているのか……。


「大丈夫だよ。将来は一人暮らしするだろうし、自炊の練習くらいはちゃんとしてる。たまに友人の家で作ったりしてるんだよ? この間の肉じゃがなんて好評で、ボクのおかわり分まですぐになくなっちゃうくらいで……」

「お兄ちゃん、いい夢みたんだね~。でも寝言は寝てから言おうね~」

「事実だよ!」

「お兄ちゃん……妄想の話はいいから、今日は宅配ピザでも頼んじゃおうよ。私、おいしいピザがタベターイ」

「……わかった。二人の昼食は宅配ピザでいいんだね。じゃあボクは何を作ろうかな~」

「「だーかーらぁーー!!」」


 いまだ説得をこころみてくる妹達を無視して冷蔵庫を開ける。

 言葉で伝わらないなら実際に作って見せるしかない。といっても確かに妹達の意見も一理ある。

 ボクだって、普段料理を作らない人が作る料理なんて普通に警戒してしまうだろうし……。必ずしも美味しいって保証があるわけじゃない。

 二人は出来合いものを頼んで、自分の分だけ作るか……。




《20分後》




 妹達の目の前にはシーフードピザとプルコギチーズピザ、対するボクの目の前にはホワイトソースから作ったカルボナーラと自分で揚げたからあげ。

 もうちょっと凝った料理を作ってもよかったのだが、宅配ピザの到着に合わせるとなると時間のかかる煮込み料理なんかは断念するしかなかったのだ。

 まぁ、思っていたより上手く作れたので満足。


「「…………」」

「あのさ、さっきからジッと見つめてきてどうかしたの? 料理中も二人して監視してたし、そんなに心配なのかな? 行程に問題とかあった?」

「「……」」(ジーー)

「とりあえず、食べようか。ピザとか冷めると固くなっちゃうし」

「「「いただきます」」」


 二人の視線を受けながら、カルボナーラを一口。

 ……うん。まぁ……普通に美味しい。変な味はしないと思う。


「……どう?」

「食べれる? 無理してない?」

「普通に食べれるよ。失礼だね……」

「「一口ちょうだい!」」

「断る」

「なんでさー!! ケチケチお兄ちゃん! ケチにいっ!!」

「いいでしょお兄ちゃん。私のピザ、一切れ食べさせてあげるから。今なら『あーん』のサービスも付けてあげるよ」

「人の物を欲しがるのは行儀が悪いよ。君達は君達の料理を食べなさい」

「考え方が古いって! こういうのはシェアって言うの!! お互いに違う料理を頼んで、半分こし合う。これで一人前で二度美味しいっていうじゃーんっ!」

「そうだよお兄ちゃん! 愛する妹達とおんなじものを食べたいと思うのはシスコンとしては喜ぶべき事なんだよ! むしろ、『半分こ』ってだけで特別感が一気に増してだね――」

「ボクは今、カルボナーラとからあげが食べたいな~って気分なの。ピザって気分じゃないんだよ。各自食べたい物を食べる。ほら、ウィンウィンの関係じゃないか♪ あっ、からあげ旨っ! 揚げたてはやっぱり美味しいよねぇ~……モグモグ」

「「あぅ~! ケチぃーー!」」


 まったく、さっきまで言いたい放題言ってくれてたというのに、急に「私も食べたい」なんて言われても素直に頷けるはずもない。


「「…………」」

「…………」

「「………………」」

「………………」

「「…………ぐす」」

「……っ!? ……あぁもう! ホントに一口だけだよ!!」

「「お兄ちゃん大好きー!!」」

「ホントにもう……調子がいいんだからなぁ……」


 美琴ちゃんはボクからフォークをひったくりカルボナーラを、千弦ちゃんは素手で比較的冷めたからあげを。


「ふぁ……。この、お兄ちゃんの白いの……すっごい美味ひぃよぉ……んく」

「おい」

「熱くておっきくて美味しくて……。お兄ちゃんのに、わからされちゃった……」

「君達、料理の話だよね? 料理を食べた感想なんだよねっ!?」

「興奮するかと思って」

「アタシ達がえっちな事言ったら、お兄ちゃん嬉しいかなぁ~って」

「余計なお世話だよ。それで……ボクの手料理はお嬢様方のお口に合ったのかな?」

「悔しい! でも、感じちゃうぅー」

「ビクンビクンっ」

「君達ね……」


 なんだかんだ言って、ボクの言葉も無視して二口目を食べちゃうってことは……まぁ、それなりには気に入ってくれたって事でいいのだろう。

 シスコンではなく兄バカなボクだけど、妹達の喜ぶ顔はやっぱり嬉しいのだ。

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