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宵に沈む「恋」なれば、  作者: 青葉 ユウ
-- 第2部 --
53/96

◇13-5:求めているもの


 ラティラーク王国では、聖霊の加護を持つ可能性があると判断した場合は早急に国王への謁見を願い出ることとされている。

 加えて、聖霊の加護を悪意を持って利用することを禁ずるとも定められていた。


 祈りの力を国の庇護下で公平に国民へ届けるためでもあるし、聖霊の加護がある者の意志を守るためでもある。


 そして()()()()()今回の件は、このどちらにも当てはまる可能性が高い。



「聖霊の加護がある方の目星はついたのですか?」


 遠方巡回前後での魔導騎士団棟の雰囲気に特段変わった様子はなかった。

 しかし、魔導騎士団長のルイスは毎日棟外へと赴いているし、セシルはつい先日まで別任務についていた。


 聖霊の加護に関連するものは魔導騎士団の管轄である。

 それなのに上層部しか動いていないということは、まだ確証が揃っていない証拠ではないだろうか。



「おおよそはね。貴女の護衛隊長を借りさせてもらったおかげで、ほぼ黒に近づいた」


 許可をしたつもりはない。

 なんて、心の中で幼稚な不満を吐き捨てる。


「……残りは確固たる証拠のみ、ということですね」


「彼らも馬鹿じゃあない。警備体制が厳重でね。一人は忍び込ませることができたけれど、ほら。丁度社交シーズンも終えて自領に戻っているだろう?」



 黒幕は貴族。

 そして、王族直轄の者を一人忍び込ませるのが限界となると。


(――――最低でも伯爵以上かしら)


 この推測は当たっている。

 声に出していないのに見透かされている。


 エリアスの伏せた瞼からこちらを見通す眼光が、リディアを確信へと変えていく。


「使用人として潜り込んだ者も監視が厳しくて身動きがとれないようでね。手も足もだせない状況なんだが、リディア嬢はどうしたら良いと思う?」


(どう、って?)


 何故それを私に聞くのだろうかという疑問を呑み込んだリディアは、適切な返事が出てこず、ひとまずエリアスを見返した。

 リディアからの視線に気づいているはずなのに、洗練された所作でティーカップを口元に運び、ゆっくりと味わうエリアスが口を開く様子はない。


(私()()、どうするか)


 エリアスが聞きたいことは、そういうことなのだろう。


 ただ単に対策を練るのであれば、リディアに聞く必要はない。

 祈祷師になったばかりのリディアよりも長年の経験を積んだ魔道騎士団長や副団長が妥当だ。それにリディアが知らないだけで、エリアスにとって価値のある話し合いができる者は他にも一定数はいるはずである。


 それなのに、エリアスはわざわざ給仕を下がらせて、こうしてリディアに問いかけた。

 実際幻の薬(レヴェリア)の話題へと変えたのはリディアだが、イグレス領での話題になれば自ずとベルナール領へと変わっていくことは目に見える。たとえリディアが口を出さなかったとしても、エリアスが話題を移したに違いない。



(言い換えると、祈祷師という立場だから言えること。それを殿下は求めているんだわ)


 なんらかの形で祈祷師に関わってほしいという思惑があるのだ。

 状況を一変させる方法をエリアスは既に考えていて、それは祈祷師の存在が必要なもの。


 しかし、聖霊の加護がある祈祷師に命令を下すことは王族であっても許されないことだ。

 祈祷師が自ら望んだことか否かは祈りの力の発動で公に証明されてしまう。


 だから、こうして祈祷師の自発的な意見を求めている。



 そしてもう一つ。

 なぜリディアなのか、という疑問。


 既に他二名の祈祷師にも同様に尋ねている可能性はある。

 けれど、もしもエリアスが貴族社会を知っている『貴族令嬢から祈祷師になったリディア』だからこそ、自身と同じくする答えを期待しているのならば――


「断れないほどの大きな催しを開く、でしょうか」


「――例えば?」


 明け方の空の美しい色合いをした瞳が満足げに細まる。

 望む答えに辿り着くことができたようだと安堵すると同時に、失敗は許されないという重責がのしかかる。


「私が、祈祷師が餌になれば貴族は喜ぶのではないでしょうか。普段は聖堂や治療院を巡る祈祷師が貴族に祈る機会は限られていますから。ここぞとばかりに集まり、祈祷師に取り入ろうとして、時には値踏みをするのでは?」



 エリアスの真意を予測できさえすれば単純な話だ。

 社交シーズン後に貴族が自領へと戻ったため警備が更に厳重になっている。それならば、再び王都に呼び寄せればいい。


 けれど、黒幕と思われる貴族だけを呼びつけるのは得策ではない。法に触れている自覚がある者は全ての物事から裏を読み取ろうとする。警備が厳重な上、隠蔽工作すらも強固になってしまうと証拠を掴めなくなる。

 小規模な催しも駄目だ。適当な理由をつけて断りやすくしてしまう。


 つまり、断ること自体が惜しまれるほどの、または、断ることで貴族社会から浮いてしまうほどの催しにしなければならないのだ。



 ラティラーク王国の王太子ではそれが叶わない。

 今年の社交シーズンが終わったばかりなのに再び貴族を集めるとなると、それなりの理由がいる。かといって、次回の社交シーズンは約半年後。法に触れている今回の件を放置はしておけない。


 しかし、祈祷師なら可能だ。

 祈祷師は聖女の意志を継いでいる、いわばラティラーク王国に根付く聖霊信仰の主柱だ。

 その祈祷師が各領地を治める貴族に今後の安寧を祈る機会をと望めばいとも簡単に実現できる。


 そういう立場にリディアはいて、発案したからには必ず成功させなければならない。


(貴族のための、貴族を喜ばせる催し。――カロリナさんにとって、そして、フィリスさんにとっても難しいこと)



「うん、いいね。私と同じでよかったよ。今後の計画は後ほど届けさせるから、目を通して何かあればセシルにでも伝えてくれ」


(私が成し遂げる。そのためには……)


 何が必要で、何が足りていないのか。

 それは祈祷師になってから様々な場面で身に染みて感じていたことでもある。


「計画を進める上で、私からお願いがあります。――殿下」



 本当の意味で『祈祷師』になる。

 これは、そのための最大の試練だ。




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