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宵に沈む「恋」なれば、  作者: 青葉 ユウ
-- 第1部 --
33/96

◆閑話:望んだわけじゃない




 目の前の棚には植木鉢が数個並んでいる。


 それぞれ種類の異なる植物が植えられているが、ほとんどが下葉を取り除いた枝を土に刺してあるだけで、果たしてこれを育てていると言っていいのだろうか。私には道端に落ちている寄る辺もない枝葉をぶっ刺しただけにしか見えない。


 その中でも取り分け異色な鉢植えを冷めた目で見下ろす。



「ほんと、お貴族様の考えてることってわかんない」



 これは今朝方ここを去っていった祈祷師が気に入って育て始めた植物らしい。なんでも大層綺麗な花を咲かせるんだとか。


 私の目には、建物の壁にびたびたと這い上がっていく迷惑な蔦にしか見えない。

 蕾もなければ花なんて一輪も咲いてないじゃないか。

 なぜこんなものに入れ込むのかなんて、ちっとも分からないし、分かりたくもない。



 欠かすことなく水をあげて育ててほしいと、警備塔で任務を続けている魔導騎士の一人から言われた。本当は嫌だったけれど、魔導騎士から“祈祷師様”への信用を向けられると本音を言えるわけもなく、かといって笑顔で引き受けることも出来ず、言いたくない返事の代わりにこくりと首を縦に振った。


 なぜわざわざ祈祷師がやらなければいけないのかと思う。


 使用人に世話をさせないのかと問うと、他の人では同じ植物なのに枯れてしまったらしい。

 また、宵の森にしか自生しない植物で効能も未知なので、無関係の者の目には触れないようにしておくことにしたとの話だった。


 それが、こんなことを始めた祈祷師の護衛隊長をしている魔導騎士団副団長の指示だというのだから、文句は言えないと口を噤んだ。



 花、と言っていいのかわからない植物を育てたことなんてないので、水やりの頻度がわからない。


 魔導騎士に聞いたり書斎で調べたら分かるのだろうけど、今日は全く気力が湧かなくて、適当にあげておけばいいだろうと棚の端に置かれていた水差しで水を撒く。

 多少おざなりなのは大目に見てほしい。



 だって私はどうでもいいし。



 というか、鉢植えごと持って行って、自分で育てればよかったじゃない。



 不満がどんどんのしかかる。

 膨れっ面になるのをやめられない。

 こんな姿を隊長に見られたら、また祈祷師としての品位がどうたらと小煩く咎められるに決まっている。



 こうなった原因は王宮を発つ前に会った、あの祈祷師だ。


 生意気な年下相手にも微笑みを絶やさない、背筋がピンと伸びたあの人。


 遠目から見ただけでお貴族様だと瞬時に理解した。

 それくらい、見様見真似で教養を取り繕った私とは違った。カロリナさんも常に穏やかでいるけど、やっぱり違う。


 そして、セシルがあの人に向ける眼差しが、私へのそれとは異なることにも気づかざるを得なかった。


 悲しみと同時に苛立ちが込み上げて、子供のように我が儘を言ってしまった。不機嫌が態度に出て、八つ当たりをしてしまった。



 だってしょうがないじゃないか。


 生まれはどう頑張ったって変えられない。

 私はダメであの人はいいのは、生まれが貴族だからなんでしょう。だから、貴族の娘を無下に扱うわけにもいかずセシルが護衛になったんでしょう。


 直接そう言われた訳ではないけど、団長に直談判しに行った時にボヤかされた言葉はそういうことだった。




 だから、枯れちゃえばいいのに。



 このよくわからない蔦もあの人も。

 私があんなにお願いしても護衛になってくれなかったのに、あの人の護衛につくことは承諾したセシルも、みんな。



「みんな、枯れちゃえばいいのに」


 やさぐれた心で、ボソリと呟く。




 場所が悪かったのかもしれない。


 祈りを捧げる祈祷室で、私はどろどろとした淀みに似た最低な言葉を口にした。

 聖霊様はそんな私の行き場のない不満を、聞いてしまったのだろうか。


 だとしたら嬉しくない。



 翌日目にした蔦は見事に枯れ果てていて、まるで私みたいだと思ったら無性に泣きたくなった。





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