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第8話:又兵衛と幸村、友情の併せ技を放つ

【慶長20年(1615年)五月一日 秀頼 23歳 大坂城・天守 】


「秀頼は逃がしたか。仕方ない。先に貴様らを始末するとしよう」


「なんだと!?そう簡単に俺たちを倒せるとおもうなよ」

 

 俺と幸村は、秀頼様と絆を結び魔法少女になった。条件的にはやつらと同じだ。


 いや、想いの強さだけなら、こっちが勝っている。今俺たちが負ければ、秀頼様もご家族も殺されるんだからな。


 負けても逃げればいいやつらとは、覚悟が違うぜ。


「倒せるに決まっておろう。第一、お主達の決め技は全て秀頼との併せ技ではないのか?」


 確かに俺の決め技、『プリンセス・くま・ナイト』は秀頼様がいなくちゃだせねえ。


 だが、ここに家康がいねえ以上、やつらも決め技級の技は出せねえはずだ。


「俺の魔法は併せ技だけじゃねえぜーっ!」


 そう言って、俺は自分の魔力を西洋鎧の騎士に変えて忠勝へと向かわせた。


「ふ、我らの絆を甘くみたようだな!」


 忠勝が軽く手を振ると、騎士達が爆散した!


「……私達は絆によって進化した……」


「その通り!もう、我らは魔法少女ではない!」


 そう言った忠勝と半蔵の頭には、秀頼様とよく似た角が生え始めた。


 背中にも大きな羽根が生え始める。あれは何だ?


 秀頼様や忠勝、半蔵は魔法少女を超えた存在なのか!?


「我らは眷属同士でも絆を深めた。三河時代からの仲間だからな」


「……家康公との絆、眷属同士の絆によって、我らは……」


「魔皇族をその身に降し、その力を万全に使える」


魔皇少女(まおうしょうじょ)へと進化した!」


「魔法少女は、魔皇族が魔界から力を貸すことで、魔法を使っているに過ぎない」


「だが、魔皇少女は魔皇族を、こちらの世界に召喚しその身に降ろす!」


「魔界からでは、魔皇族は本来の力の一分(いちぶ)(1%)も使えぬ!だが、依り代(よりしろ)となる体に憑依すれば十割の力を出せるのだ!」


 魔皇族を憑依させた魔皇少女!?俺たちの百倍の力が使えるだと!?


 こいつはヤベェことになってきたな。


 秀頼様は角や羽根が生えてたが、クレオスってのと合体してはいなかった。


 少なくとも、秀頼様は魔皇少女ではないのか。


 いや、あいつらや家康がなれるなら、秀頼様になれないわけはねえ!


 だとしたら重要なのは眷属同士の絆……、つまり俺と幸村の絆だ!!


「ちなみにいいことを教えてやろう」


「魔法少女の魔法と違い、魔皇少女の魔法は他人を傷つけることができるのだ!!」


「『着せ替え』炎の鎧、対象は後藤又兵衛!」


 そう言って忠勝が手をかざすと、俺の体が炎に包まれた。


「全体に炎をあしらった炎の鎧だ!もちろん、ちゃんと可愛く見えるように炎を調整してある!」


「『お菓子作り』10リットル、オレンジジュース!!」


 幸村がそう叫ぶと、俺の体にみかんの果汁のようなものが大量にかかる。


 それのお陰で、炎は消えたようだ。


「私はお菓子なら何でも出せます。火を消すことなど造作もない」


「あ、ありがとう!助ったぜ」


 ジュースというのは、甘い飲み物という意味らしいな。甘いものなら菓子の範疇ということか。


 幸村の機転に対して、忠勝は不敵な笑みを浮かべた。


「面白い、中々やるではないか。どうやら頭の切れるのがいるらしいな」


「だが、こいつもその知恵で躱せるかな?」


 忠勝の言葉に合わせて、半蔵が叫んだ!


「『おままごと』配役:侍……対象は、大坂城!」


 半蔵がそう言うと、城が大きく揺れ始めた。


 ま、まさか城に配役を与えて、動かしているのか!?


 命なきものにまで、配役を与えられる。これが魔皇少女になった半蔵の力か!


「次は私だ、『着せ替え』太陽の衣、対象は大坂城!」


 忠勝がそう言うと、城内の至る所から火の手が上がり始めた。


 太陽の衣?お天道さんと同じ熱さの服を城に着せたってのか?そんなのありかよ!?


「太陽の衣は、着用者がが敵と見做(みな)したものを全て燃やして溶かす」


「もちろん着用者が敵と見做さぬものは燃やさぬ。そうでなければ我らや城そのものが溶けて無くなってしまうからな」


 言われて見れば、これだけ周囲が燃えていて、畳や(ふすま)は燃えてねえ。


「だが、燃やすべきものは燃やすぞ」


 忠勝がそう言うと、炎が俺たちの方に集まってきた!


「『お菓子づくり』10リットルオレンジジュース!」


 じゅわあああああああ!


 幸村がジュースを出して向かってくる炎を消そうとするが、(たちま)ち湯気をあげて蒸発してしまった!


 くそ、仕方ねえこのままここにいても死んじまうだけだ!


 俺は幸村の手を掴んで言った。


「一旦、城外に出るぞ!城から出て距離を取らなきゃ戦えねえ!」


 城そのものが敵という状態で城内にいたんじゃ、戦にもならねえ。


 距離をとり、こいつらの魔法をどうにかする方法を幸村と話し合う必要があるだろう。


「それは構いませんが、ここは天守ですよ?どうやって城外に出るんです?」


「飛び降りるしかねえだろ!」


 俺は手を掴んだまま、幸村を引っ張っていき、二人で天守から飛び降りた!


『着地はどうするんですかぁ〜』という幸村の声が周囲に響き渡った。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 俺達はクレオスに飛び方を教わっていない。だから飛べねえ。このまま地面に叩きつけられたら死ぬかもな。


「くっ!考えなしにも程がありますよ!だが、やつらの意表を突くにはこれしかなかった……か」


「ならば!」


「『お菓子づくり』大きなふわふわパウンドケーキ!!」


 地面に弾力の強そうな菓子が出てきて、俺達はその菓子の上に落ちた。


 ぼわん!


 そして、菓子にぶつかったことで墜落の勢いを殺した後、ゆっくりと地面に着地した。


「さ、さすが、やるじゃねえか!」


「とっさに思い付いたから良かったですけど、できればこんな危険は犯したくないものですね」


 だが、ともかく飛び降りたことで助かり、幸村の機転で落下死せずに済んだ。


 最高の結果と言っていいだろう。


「助かったんだから、いいじゃねえか。それより、どうやってアレを倒すかだ」


 俺達は大坂城の足元にいるせいか、視認されてないようだ。


 だが、それも時間の問題だろう。次にあの炎で襲われたら、命がなさそうだ。


「そうですね。大坂城が動き出したことで地下室がどうなったのかも気になりますし、一刻も早くアレを倒さねばなりません」


 確かにそうだ。守るべき秀頼様がどうなっちまったのか確認しないといけねえ。


 だが、どうやって俺たちの魔法でアレを倒すか?


 俺は考えてみる。まず、どうすれば俺の魔法で燃える大坂城を倒せるか?


「大坂城以上の質量の鎧騎士を出して押しつぶすってのはどうだ?」


「太陽の衣は鍛冶場の鉄のように、金属を何でも溶かすようです。それに、本当に大坂城を潰せるほどの鎧騎士を出せるんですか?」


 ん〜、言ってはみたが確かにそうだな。出せるかどうかはやってみないとわからねえが、もし出せたとしても溶かされたんじゃ意味がない。


「確かに俺の作戦では難しそうだ。幸村は何か策があるのか?」


「そうですね……。ツルツル滑るお菓子や、ベタベタ引っ付くお菓子を出して足止めするくらいでしょうか?」


「ベタベタする菓子ってのは、どのくらい引っ付くんだ?確実に足止めできるのか?」


「分かりませんね。それに、滑るお菓子の方は溶かされてしまうかも知れませんし……」


 うーむ、案が行き詰まってしまったか?


 何かねえか?二人の案を合わせた……併せ技が!


 大坂城は、俺達を探して周囲を走り回っている。


 ん?走り回ってる……?


 ああ!大坂城に手足が生えているだと!?これも、『おままごと』とやらの能力なのか?


 だが、そうか。よく見ると手足には炎がないみたいだぞ。衣はあくまで体を覆っているんだ。


 だとすれば、足元に氷菓子を置いて滑らせたり、ベタベタする菓子をくっつけるのはアリってことか。


 もちろん手足以外は燃えているから、どのみち菓子は溶けちまうだろうが、火が回るまで少なくともほんの少しの時間は稼げるわけだ。


 そのわずかな隙に、俺が(とど)めになるような一撃を叩き込めれば、勝てるんだろうが……。


 ふむ、そうか単純なことだ。要するに俺があいつを斬れれば良いんじゃないか。


 何故、俺があいつを斬れないかってそれは俺があいつより小さいからだ。大坂城よりでかいやつなんていないからな。


 つまり、俺がプリンセス魔法で鎧騎士を出して、そいつを大坂城よりデカくすりゃあ、鎧騎士に大坂城を斬らせることができるはずだ。


 だが、それだけで止めがさせるかな?


 やつだって、いくら菓子がくっついて動けなくなってたとしても、避けたり防御したりするだろう。


 一撃で仕留め損ねれば、菓子が溶けちまって足の拘束が外れるだろうな。


 そうなれば、同じ手は二度と通じねえだろう。


「厳しいか」


 だが、難しい顔をしてそう呟いた俺に対して、幸村は俺の策に興味を持ったようだ。


「何か策を思いついたのですか?無理そうな策でも話してみてください。何か改良案が出せるかもしれません」


 確かにそれはそうだ。俺の頭で考えるより、幸村が考えた方が良い案が出そうだしな。


「あ、ああ。そうだな。全くお前は頼もしいぜ」


 俺は、ベタベタした菓子で足止めをしてわずかな隙を作り、大坂城以上に巨大化させた鎧騎士を出して、大坂城そのものを斬るという作戦を説明した。


 当然、容易に防がれたり避けられたりしそうで、そうなると炎で菓子が溶けて拘束が外れてしまうだろうという問題点も伝えた。


「そうですね、だったらこういうのはどうでしょうか?」


 幸村は『私がお菓子で足止めをするとして』と言ってから、作戦を話し始めた。


「私が空からジュースを落とし、その中に貴方の鎧騎士を混ぜておく」


「そしてジュースが蒸発し始めたところで、鎧騎士を巨大化させ、斬りかかる」


「これならば、攻撃の瞬間まで鎧騎士を隠せるので、奇襲に対応するのが難しくなるはずです」


 なるほど。最初から巨大な鎧騎士が攻撃すれば警戒されるが、ジュースやその湯気の中から突然出てくれば、対処する暇がないってわけか!


「よし!それで行こう!早く秀頼様のもとへ駆けつけたいし、このまま放っておけば、大阪の町……いや摂津国全体がめちゃめちゃになりそうだからな!」


 燃やすものを選んでいるとはいえ、炎は周囲に広がっている。


 その気になれば、摂津国を灰にすることも可能だろう。


 向こうの思惑が分からない以上、早く決着をつけるのに越したことはない。


「了解です!」


「『お菓子づくり』ガム、1トン!」


 大坂城の足元に、小高い丘かと思うほどの、巨大な四角形の菓子が現れた。


 大坂城は突然現れた菓子に対応できず、そのまま足を突っ込んでしまう。


 よし!計画通りだ!後は……。


「よし!ジュースと鎧騎士を同時に出すぞ!」


「分かりました!いきますよ!」


「魔法プリンセス又兵衛・エレガント!!」


「『お菓子づくり』1000リットルオレンジジュース!」


 幸村のジュースに紛れて、俺の鎧騎士が大坂城の上に落下していく。


 それらが城に近づくと『じゅああ』という音と共にジュースが蒸発し始め、辺りは湯気に包まれた。


「「今だ!!」」


 俺は鎧騎士を巨大化させる、それによって鎧騎士の持つ刀も巨大化し、そのまま落下の勢いで大坂城を斬りつけようとした!


 だが、その瞬間、それまでの何倍もの勢いで炎が燃え上がり、刀がみるみるうちに溶け始めた!


 まずい!このままでは結局溶かされちまう!


 大坂城の下では地面の土が溶けて、ぐつぐつと煮立っている。何という温度だ。


 そう思っていると、大坂城の天守がこちらに向けられた。


 俺たちを見ている……のか!?


 その瞬間、周囲を燃やしていた炎が、周りから集まってきて、熱が圧縮された超高温の球を作り出した。


 その球が、超高速で俺たちへと向かってくる。


 どうする?あんなの食らったら死ぬどころか、骨の一本まで全部溶けちまうぞ!


 球が近づくにつれ、世界の流れがゆっくりになる。


 俺の頭がこの危機を乗り越える案を探す……!


 まるで走馬灯のように、これまでの映像が流れてくる。走馬灯なんて、本当にあるんだな。


 そこに映し出されたのは幸村の姿だ。


 忠勝達との戦いで、絶妙な判断で菓子を出し、俺を守ってくれた姿。


 そして大坂城が動き出してからの作戦会議では……。


 やつはこんな状況においても、俺の作戦を冷静に分析し、どこが悪いのかきちんと問題点を指摘してくれた。


 そして、俺の案を上回る作戦を編み出した!


 あの時、俺が感じたのはやつへの強い信頼感だ。


 こいつとならどんな困難に際しても話し合い、逆転の裏技を編み出す自信を得ていたんだ!


 幸村への強い信頼が頭に浮かんだ瞬間、俺の体が光り始めた。


 体から魔力が湧き出てくる!?何だこれは?


 突然、俺の目の前に黒いドレスとティアラをつけたクマのぬいぐるみが現れる。


 そいつが大きく息を吸うと、炎が圧縮された球がぬいぐるみの中に吸い込まれた。


「暗黒の魔皇プリンセス・又兵衛……『ブラックホール・クマ・ナイト』」


 俺が呆けながら、無意識に何かを呟いたのと同時に幸村が叫んだ!


「『お菓子づくり』ケーキ、対象は大坂城!!」


 その瞬間、大坂城は『なまくりーむ』や『イチゴ』で、飾られた巨大な菓子となった。


「今です!城をケーキにしました!あれを真っ二つにすれば、おそらく元には戻れません!」


 城を菓子に変えた?そんなことが可能なのか?い、いや今の魔力が溢れてる状態なら可能かもしれない。あいつもそうなのか。


『今じゃ、ケーキ入刀!初めての共同作業じゃ!』


 クレオスの声が聞こえる!そうだ、今は好機!やつを倒す最大の好機だ!


「よし!行くぞ幸村!」


「了解です、又兵衛!」


「「俺たちの!初めての併せ技!ケーキ、入刀!!」」


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