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第4話:秀頼、幸村と一緒にケーキを作る

【慶長20年(1615年)五月一日 秀頼 23歳 ぽわぽわキッチン 】


 私と幸村(幸村)は向かい合わせに座り、私はステッキを、幸村は手のひらを構えた。


 ちなみに、幸村はまだ私の『ステッキ』に当たる武器を持っていない。クレオスの話では、主と眷属の絆が十分に高まったときに、本人にふさわしい武器が生まれるらしい。


「それでは、よいか?いくぞ」


「いつでも構いません」


「「せーの!」


「「ケーキさん、ケーキさん、おいしくできあがれ~」」


 私たちの言葉と共に、『小麦粉』と『卵』が椀に向かって飛んでいく。


 しかし、小麦粉は上手く入ったものの、卵が上手く割れずに地面にぶちまけてしまった。


「むむ、中々難しいのう。ほぼ同時に呪文を唱えていると、思うのじゃが」


「やはり、『魔力を同時に同じ量込める』というのが難しいですね」


 何せ我々は、ついさっきまで魔法など使ったことなかったのだ。同量の魔力を込めろと言われても、どう調整していいのかわからない。


「のう、クレオスよ。何とか、打開策はないか?あれから、もう一刻近く経つのだ。そろそろ徳川軍が動き出すかも知れぬ」


 兵の大半を熊のぬいぐるみに変えたのだから、しばらくは混乱が続くとは思うが、家康や魔法少女化した家臣達は、そんなことは関係なく大坂城に向かってくるかもしれぬ。


 まさに一刻の猶予もないのだ。


『そうじゃのう。基本的にはお主達が頑張るしかないのじゃが……。ならば、手っ取り早く仲を深めるために、これを使おう!』


『テッテレー!トーク・サイコロじゃ!!』


 そう言って、クレオスは巨大なサイコロを出してきた。


『これはわらわが魔力で作り出した魔道具じゃ。お主達の仲が良くなる話題を感知し、導き出してくれるのじゃ!!』


『サイコロの話題に従い、二人で仲良しトークをした上で、もう一度挑戦すれば、少しは上手くいくじゃろう』


 なるほど、クレオスの話からすると、魔力を同時に同量 流すには魔力を調整することよりも、仲が良いことの方が重要なのだな。


 仲が良くなることで、何となく相手の調子を読み取る……みたいなことなのであろう。


『それでは振ってみるぞ!!』


【恥ずかしい失敗エピソード[恥失]】


『というわけで、お主らが語るのは、『恥ずかしい失敗エピソード』じゃ。できれば隠しておきたいような、失敗談を共有することで仲を深めるのじゃ!!』


「し、失敗談……ですか」


「私も、ちょっと嫌だぞ」


 私も幸村も、露骨に嫌な顔をした。ある意味で気が合っているのかも知れぬ。


『お主達、そんなことを言っている場合ではなかろう!!いつ徳川がやってくるかわからぬのなら、恥など捨てて試してみるのじゃ!!』


「む、むう。確かにそれはそうですね」


 クレオスの勢いに押され、幸村は考え込み始めた。失敗談を思い出しているのか?


「私がまだ幼い頃のことですが……」


【幸村の失敗談】


 時は数十年前、幸村が8歳の頃


 8歳の頃、城内を探検していた幸村は偶然 台所に辿り着いた。

 

 幸村は小さい頃から料理に強い興味を持っていた。そのため、大喜びで台所に飛び込み、料理人達をしつこく質問責めにした!


 それから毎日、幸村は台所を訪れては、料理人たちに料理の仕方を教えるように迫った。


「飯を食うと、皆が笑顔になるのだ!飯が美味いともっと笑顔になる!!俺はもっと皆の笑顔が見たいぞ!!」


 そう言って迫られた料理人達は、断り切れずに幸村に料理を教えることになった。


 それから数ヶ月、なんとかそれなりの技術を身に着けた幸村は、父昌幸と兄信之を喜ばせようと料理を作った。


 しかし絶対に美味しいものを作らないといけない、と必死になり過ぎた結果、緊張で手順や容量を間違えて、料理はめちゃくちゃなモノしかできなかった。


 昌幸と信之はそれでも全部食べてくれて、幸村の頭を撫でた後、『お前にはもっと、余裕が必要だな』だと諭した。


 その時から、幸村は『真面目』と『余裕』という言葉に過敏に反応するようになった。


【幸村の失敗談 終わり】


「その時から、私は『真面目』と『余裕』という言葉に思い悩み、どうすれば父の言う通りできるか試行錯誤を重ねたのです」


 それを聞いた私は、呆れるとか同情するという感情の前に、あまりにも可愛いと思ってしまっていた。


 特に、今のキリリとカッコいい幸村との『落差』が大きいところがいい!


 とはいえ、人の悩みにそんな感情を抱くのは良くないと思って、何とか笑顔を作って、感想を言おうとした……。


 だが、その瞬間に私の中で何かが弾けた!!


「『真面目』……『余裕』……そうか!もしかして!!」


「ど、どうか、なされましたか?私の話が気に入らなかったのでしょうか?」


「いや!違うぞ!!思いついたのだ!!同時に同じ量の魔力を込める方法を!!」


◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「『余裕をもたせる』ですか?」


「そうじゃ!さっき失敗したことで、魔力を一瞬だけ放出して合わせるのは、難しいことが分かった。ならば、二人でしばらく魔力を流せば、始めた時が少々ずれたとしても終わる時で調整できるじゃろ」


 それでも合わせるのは難しいだろうが、何も考えずに続けるよりは可能性がありそうだ。


「なるほど、面白い考えです!これが『余裕をもたせる』ということか!」


 そう言って、私達は再び向き合って、魔力を込める。


 長く……長く……。


 二人でしばらく魔力を込める。そして、


「よし、終えるぞ。せーの」


 二人で同時に魔力を切った瞬間、今度はしっかり『ボウル』に小麦粉と卵が入った!!


「よしっ!!」


「やりましたな!これで、我らの絆も少し深まったと言うことですか」


「お主がそう思っていて、私がそう思っているのだから、確かに絆は深まったということだ!」


 こうして我々は、魔力合わせの第一段階を突破した。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 もう二十度目ほどの挑戦になるか。思ったよりうまくいかぬものだな。


 長く魔力を込める方法で、どうにか二人の息は合ってきた。何より何度も繰り返すことで相手の息遣いや、仕草から魔力を込め、止める時期を読めるようになってきた。


 それはありがたいのだが……。


「焼くときですな。火の調整が難しい」


「火力の調整か。一定の火力を長時間保とうと思うと、どうしても長期間安定して『同じ時期』『同じ量』の魔力を保ち続けねばならぬ」


 幸村と二人で魔力を合わせ続け、『生地』を作ることには成功した。


 だが、この生地を小半時、焼き続けねばケーキを作れないという。


 小半時も、二人の魔力を合わせ続けるのは難しい。息を合わすのも難しいが、集中力が持たない。


 何か、もう一つ壁を越えねばならぬのだろう。恐らくは絆を深める何かが必要なのだ。


「のう、クレオスよ。随分と作業が行き詰ってしまった。また何か、突破法を教えてくれぬか」


『いやいや、わらわはもう道を示しておるのじゃ!さっき言ったであろう『失敗談を話す』のじゃと!秀頼ちゃんはまだ話しておらぬではないか!』


 そういえば、幸村の話でケーキ作りを進める方法を思いついてしまったせいで、私は話さなかったのだったな。


 失敗談か、何か幸村を喜ばせるような話があっただろうか?


 そうか、そうだ。ぬいぐるみの話があったな。


【秀頼の失敗談】


 秀頼が8歳の頃、南蛮人から『熊のぬいぐるみ』が献上された。


 秀頼はそれをたいそう気に入って、毎晩抱いて寝ていた。


 ある日、秀頼は熊のぬいぐるみが、徳川軍を殲滅してくれる夢を見た。


 次の日、目覚めた秀頼は、すぐさま淀殿の部屋に向かい、徳川軍を倒すためにぬいぐるみを量産してくれるように頼みこんだ!


 これに対して淀殿は『熊さんは優しいから徳川と戦ったりできない』と優しく諭した。


 それでも納得できなかった秀頼は『ぬいぐるみ』の力を証明しようと、こっそり大坂城を抜け出して城下に向かった。堺に行けば江戸に向かう船があると思ったのだ。


 しかし堺に行く途中、秀頼は盗賊に襲われた。


 秀頼は必死にぬいぐるみに助けを求めた。


 しかし、熊のぬいぐるみが助けてくれるはずもなく、殺されそうになったところに、見回りの兵士が現れて盗賊を追い払ってくれた。


 城に連れ戻された秀頼は、『やっぱり熊さんは助けてくれなかった』と淀殿に泣きついた。


 それから、少しずつぬいぐるみへの憧れは弱まり、また豊臣家が追い詰められるほど、現実と向かい合うことを余儀なくされていった


【秀頼の失敗談 終わり】


「今となって考えれば恥ずかしい話だ。今まさに豊臣を滅ぼそうとしている徳川を、ぬいぐるみで倒せると思っていたのだからな」


 だが、私の話を聞いて幸村は神妙な面持ちになる。


「なるほど。確かにそのときは『くまのぬいぐるみ』は助けてくれなかった。ですが、若様はくまのぬいぐるみの魔法を身につけられたのですよね?」


「え?あ、まあそうだが……」


 相手をくまのぬいぐるみにする魔法は、クレオスの趣味か嫌がらせだと思っていたのだが、違うのか?

 

 まさか、私の深層心理が魔法に影響しているということか。


『魔法少女の趣味や嗜好が魔法に影響を与えることはよくあるぞ。特に秀頼ちゃんは大人になっても、ぬいぐるみへの想いを中々捨てられなかったみたいじゃしの』


 確かに、あの時のぬいぐるみは未だに、しまってある。不安にさいなまれたときは抱いて寝ることもある。


 そうか、私のぬいぐるみへの愛が、本当に徳川を倒す力になるのか。


 そう考えていると、私と幸村の体に淡い光が灯った。


「な、なんじゃ?この光は?何かの魔法なのか?」


「何か柔らかい光ですね。見ていると心が落ち着くような」


『それは『リンク』じゃな。主従の心が通じ合うと、二人の間に光の線が生まれるのじゃ』


『最初の話で秀頼ちゃんは、幸村ちゃんの可愛さ、頑張りに惹かれた。次の話で幸村ちゃんは秀頼ちゃんの、夢を思う心、途切れず思い続ける信念に惹かれたのじゃ』


 つまり私が幸村を、幸村が私を愛しく思ったから二人の間に絆の線が生まれたと言うことか!!


「それなら、このまま『魔力合わせ』をすればケーキを作れるのではないか?」


「ええ、やってみましょう!私も、今度はいけそうな気がします!!」


◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「できた……!!できたぞ!!なあ、クレオス!これでいいのだろう!?」


『うむ、上出来じゃ!中々美味そうなケーキが出来上がったではないか!!』


 どうやらケーキは合格点のようだ。これで、私と幸村の間の絆が深まった。幸村の魔法が強化され、それにともなって私の魔力も上がるはずだ。


 そう思っていると、幸村の服が輝き始めた!!


 そして、ものすごい魔力が幸村の回りを渦巻き、そしてすべて幸村の中に吸い込まれた。


「姿が、変わった!!」


 強化された幸村の姿は、白を基調とした服で装飾は少なく動き易そうだ。


 頭にふわりと膨らんだ帽子をかぶっている。


 そして体の前面には、『フリル』がたくさんついた前掛け(エプロンというらしい)をつけている。


「魔法パティシエール・幸村!見参!!」


「ぱ、ぱてぃしえーる?」


『パティシエールとは、女の菓子職人のことじゃ。幸村ちゃんの魔法は、材料なしで色んなお菓子を出す魔法じゃな』


「菓子をだす、ですか。それでどうやって徳川と戦えば良いのです?」


『味方への食糧供給はもちろんじゃが、『能力強化』や『回復』の菓子も魔力の込め方で作れるのう。逆に敵に『能力低下』や『継続傷害(ダメージ)』を与える菓子も作れるじゃろうな』


 なるほど。幸村の魔法は仲間を助け、敵を阻害する補助系の魔法ということだな。


『これで、幸村ちゃんとの試練は終わりじゃ。良い調子じゃぞ。このまま、又兵衛ちゃんとの試練も突破できれば、徳川とも戦えるじゃろう』


 クレオスの言葉と共に、再び視界が暗転し、元いた『大坂城・天守』に戻った。

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