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第38話:草薙剣、共に冒険することを選ぶ

【慶長20年(1615年)五月一日 秀頼 23歳 クレオス ?歳 セレナ 430歳 めかりダンジョン 三階層】


「役割……を演じさせようとしているのですか?」


 セレナが首を傾げる。


「そうじゃ!」


 クレオスが得意げに説明する。


「こやつ、魔王役を演じておるだけなのじゃ!本当は戦いたいのではなく、一緒に冒険したいのじゃ!」


「違う!我は世界を滅ぼす存在!!」


 魔王が必死に否定する。


 だが、その否定が――まるで台本を読んでいるかのようだ。


「ならば何故、HPが減らぬのじゃ?」


 クレオスが魔王のHPゲージを指差す。


「何故、攻撃が当たってもわらわ達は無事なのじゃ?」


「そ、それは……我が強大だからじゃ!!」


「嘘じゃな」


 クレオスがにやりと笑う。


「そんなに強いなら、わらわ達を、少なくとも人間に戻った秀頼ちゃんを一瞬で殺せぬわけあるまい」


「じゃが、こやつは手加減しておる。いや、手加減というより――楽しんでおるのじゃ」


 クレオスが目を細める。


「……じゃが、その楽しみ方は独り遊びに過ぎぬ」


「独り遊び……?」


 セレナが魔王を見つめる。


「ええ……確かに。この魔王から感じる『波』は――」


「『孤独』と『期待』です」


 セレナの言葉に、魔王の動きが完全に止まった。


「……」


 沈黙。


 長い沈黙。


 そして、魔王はゆっくりと口を開いた。


「……気づいてしまったか」


 その声は、もう魔王のものではなかった。


 草薙剣の、本当の声だった。


「つまり、仲間が欲しかったのじゃな」


 クレオスが優しく言う。


「『パーティ』を組みたかったのじゃな」


「……そうじゃ」


 魔王――草薙剣が静かに認めた。


「儂は、仲間と冒険がしたかった」


「じゃが、儂は剣じゃ。三種の神器じゃ」


「誰かに使われる存在。誰かの武器になる存在」


「自ら冒険することなど、できぬと思っておった」


「……だからの」


「勇者に倒される存在であれば、最後まで一緒にいられると思った」


 魔王の姿が揺らぐ。


 黄金の鎧が、少しずつ透けていく。


「だから、せめてこのダンジョンの中でだけでも――」


「魔王を演じ、勇者と戦う『ごっこ遊び』をしたかったのじゃ」


 その瞬間、戦闘が完全に止まった。


 神殿中に静寂が訪れる。


 頭の中に、選択だけが静かに浮かび上がった。


『どうする?』


『1. 倒す』

『2. 封印する』

『3. 話す』


 ――そうか。

 

 そもそもこの状況自体が、草薙剣の望んだ"ごっこ遊び"なのだ。


 ならば、私も乗ってやろうではないか。


「草薙剣よ」


 私は一歩前に出る。


「私は――話す」


 魔王の姿が大きく揺らいだ。


「話す……?」


「そうだ。倒すのでもなく、封印するのでもなく――話をしよう」


 私は魔王の前に座り込んだ。


「そなたは仲間が欲しかったのだろう?冒険がしたかったのだろう?」


「……ああ」


「ならば、聞いてくれ。私の冒険の話を」


「秀頼ちゃん……?」


 クレオスが不思議そうに私を見る。


 だが、私は構わず話し始めた。


「私は元々、ただの人間だった」


「豊臣家の跡取りとして、徳川家康と戦うことになった」


「じゃが、私は弱かった。戦いが怖かった」


 魔王が――草薙剣が、静かに聞いている。


「そこにクレオスが現れた」


「最初は戸惑ったが――じゃが、その力のお陰で、私は戦えるようになった」


「いや、戦えるようになっただけではない」


「仲間ができた」


 私はクレオスとセレナを見る。


「クレオスとは、何度も喧嘩をした。嫉妬もした」


「じゃが、その度に分かり合えた。絆が深まった」


「セレナとは、まだ出会ったばかりだ」


「じゃが、このダンジョンで共に戦い、互いを信じることができた」


「勝利よりも大切なのは――共に進んだ仲間の存在だ」


「共に迷い、ぶつかり、そして信じ合うまでの道を歩んできた」


 私は草薙剣を真っ直ぐ見つめる。


「失敗もした。恐怖も感じた」


「じゃが、仲間がいたから乗り越えられた」


「独りでここまで来たのなら、それは誇りだ」


「草薙剣よ。そなたも――そんな冒険がしたいのではないか?」


「独りで進む旅の寂しさを、私は――知らぬ」


 長い沈黙。


 そして、魔王の姿が完全に崩れ始めた。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「セレナ」


 私はセレナに声をかける。


「今の話を――歌にしてくれぬか?」


「えっ?」


 セレナが目を丸くする。


「秀頼さんの冒険を、歌に……?」


「そうだ。そなたなら、できるだろう?」


「……分かりました!やってみます!」


 セレナが深呼吸をする。


「えっと……じゃあ、こんな感じで……」


 そして、明るい声で歌い始めた。


「昔々ある所に ちょっぴり弱気な武将がいました」


「戦うのが怖くって 泣いてばかりいました」


 私は思わず、視線を逸らした。


 剣は、ただ静かに歌を聞いていた。


 軽快なリズム。


 まるで童謡のような、親しみやすい曲調。


「そこに現れた 小さな女神様」


「ひとこと呟いたの それだけで世界が変わったの」


 クレオスが恥ずかしそうに頬を染める。


「ちょ、ちょっとセレナ!わらわのことを女神様とは!」


 私は笑いながら、先を促した。


 セレナの歌は続く。


「魔法少女になったら 世界が変わって見えたの」


「怖かった戦いも 仲間となら楽しいの」


「喧嘩もしたけど 仲直りもしたの」


 魔王の姿が、さらに透明になっていく。


 黄金の鎧が剥がれ落ち、その下から――


 剣の姿が現れる。


「新しい仲間も 出会ったばかりだけれど」


「歌で繋がる 心と心」


「失敗しても 恐怖に震えても」


「一緒にいれば きっと大丈夫」


 セレナの歌声が、神殿全体を包み込む。


 温かい光が広がり、戦闘BGMが――


 優しい冒険のテーマに変わった。


「これが 魔法少女・秀頼の物語」


「これから先も 続いていく物語」


「だから一緒に 歩いていこう」


「新しい仲間と 新しい冒険へ」


 歌が終わると同時に。


 魔王の姿は完全に消え、そこには一振りの剣だけが残った。


 頭上に浮かんでいたHPゲージも、消えていた。


 剣から、草薙剣の声が聞こえる。


「……儂は、一人じゃった」


 静かな、だが確かな声。


「誰かに使われるだけの存在」


「自分の意志で動くことなど、できぬと思っておった」


 剣が微かに光る。


「だから、せめてこのダンジョンの中でだけでも――」


「魔王を演じ、勇者と戦い、物語を紡ぎたかった」


「じゃが、それすらも―― 一人では、役を演じるしかなかった」


「本当は――」


「仲間と冒険がしたかった」


 私は思わず、視線を逸らした。


「共に笑い、共に泣き、共に戦う――そんな冒険が」


 私は剣を手に取った。


「ならば」


 私は剣を高く掲げる。


「一緒に行こう」


「草薙剣。そなたも私達の仲間だ」


「これから先、共に冒険しよう」


「魔王ではなく――仲間として」


 剣が、強く光った。


「本当に……良いのか?」


「儂は剣ぞ。武器ぞ」


「そなた達と対等な仲間には――」


「良いに決まっておろう!」


 クレオスが笑顔で言う。


「パーティ加入イベントじゃな!歓迎するぞ!」


「次は"仲間の歌"ですね」


 セレナも笑顔で言う。


「草薙剣さん――いえ、これからは名前で呼ばせてください」


「……名前?」


「儂には、名前などない。草薙剣という呼び名しか――」


「ならば、付けてやろう」


 私は考える。


 草薙剣の本当の願い。


 仲間と冒険がしたいという、純粋な願い。


「『クサナ』――どうじゃ?」


「クサナ……」


 剣が温かく光る。


 剣は、その場から動かなかった。


 戦うためではなく、ただ聞くために。


「良い名じゃ。気に入ったぞ」


 クレオスが嬉しそうに笑った。


「これより、クサナは私達の仲間じゃ!」


 その瞬間、神殿全体が光に包まれた。


 魔法陣が輝き、私達の体が宙に浮く。


「これは――」


「ダンジョンクリアじゃな!」


 クレオスが叫ぶ。


 光の中で、草薙剣――クサナの声が響く。


「セレナよ。そなたは見事に試練を乗り越えた」


「多くの心を救った」


「そして、儂の孤独すらも――救ってくれた」


「これより、儂の力はそなたと共にある」


 一瞬の静寂ののち、セレナの体が金色の光に包まれる


「はい!」


 セレナが力強く答える。


「草薙剣さん――クサナさん。これからよろしくお願いします!」


「うむ。よろしく頼むぞ」


 光が収まると、私達は和布刈神社の境内に戻っていた。


 セレナの手には、草薙剣――クサナが静かに収まっていた。


「やったのう!ダンジョン攻略じゃ!」


 クレオスが喜びの声を上げる。


「これで草薙剣を手に入れたのじゃ!」


「ああ……」


 私はクサナを見つめる。


 短い沈黙が流れた。


「……これからは、共に行こう」


【慶長20年(1615年)五月一日 秀頼 23歳 クレオス ?歳 セレナ 430歳 長門国 和布刈神社 】


 和布刈神社に戻って来た私達は、対岸を見ていた。


 セレナがふと、対岸の赤間関を見つめた。


「……ノワール……ルナ……?」


 その呟きに、私も顔を上げる。


 ダンジョンに入る前、妲己達は確かにあの場所にいた。


 だが今は――誰の姿もない。


「どうやら妲己達も私達と同じく、ダンジョンに引き込まれたらしい」


 他の神器がある伊勢神宮や内裏まではとてつもない距離があるが……。


 私達だって、一日の内に大坂城跡からここまで来たのだからな。


 まあ、不思議ではないか。

 

 しかしどうしたものか。私は既に普通の男だし、クレオスは私にしか超次元の力を使えぬ。


 ここから内裏や伊勢神宮まで行くのは容易ではないぞ。


「のう、クレオス。今からどうするか……」


 言いかけたところで、胸の奥にざわりとした感覚が走った。


 人間に戻った私には、魔力や超次元の力を感じ取る能力はないはずだが……。


 ――視界が、ふっと切り替わる。


【慶長20年(1615年)五月一日 妲己 2715歳 ノワール 430歳 伊勢国 度会郡 宇治 伊勢ダンジョン 一階層 】

 

 関門海峡に飲み込まれてしまった秀頼達を見たあたし達は、すぐにでも飛び込んで助けようと思った。


 でも、その瞬間すぐ側でとんでもなくデカい音が鳴り、衝撃波があたし達を吹っ飛ばした。


 音速、それをさらに超える速度で、どんどん飛ばされる。


「ジャッジメント愛'sよ!真実を見抜け!今のあたし達のスピードは!?」


 500.29 m / s


 という文字が空中に表示される。


「変幻自在!ワードチェンジ!!」


 空中にhengenjizaiの文字が現れる。


 信康の時は大文字だったけど、今度は小文字だ。


 あたしはhengenjizaiからhの文字を、500.29 m / sからsの文字を取って入れ替えた。

 

 それぞれの文字はsengenjizaiと500.29m/hとなった。


 秒速が時速に変わったことで、大きく減速したんだ。


 勢いが止まったことで、重力に従って落下し始める。



 そしてあたしとノワールが降り立った場所は……。


「伊勢神宮ね。あたしは適当なタイミングで衝撃波を止めたつもりなんだけど」


「……仕組まれてた……」


 ノワールの言う通り、あたしの持ってる能力、あたしがそれを使うタイミングまで、相手は読み取ってたんだろう。


 あたし達は誘導された、この伊勢神宮へ。


 それもタダの伊勢神宮じゃない。


 あたし達のいる領域はきっともう……。


「ここが……伊勢神宮ダンジョン……」


「あたし達もダンジョンに引き込まれたってことね」


 ここには超次元・八咫鏡があるはずだ。


 あたし達は八咫鏡に引き込まれたのか?


 ここのダンジョンにはどんな脅威があるのか?


 あたし達はともかく気を引き締めて、神宮の中へと進んでいった。


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