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第37話:草薙剣、最後の試練を演じる

【慶長20年(1615年)五月一日 秀頼 23歳 クレオス ?歳 セレナ 430歳 めかりダンジョン 三階層】


 私の言葉を聞いたセレナの瞳から涙が零れる。


「お二人がここまで私を信頼してくれているなんて、知らなかった……いいえ、気づいていながら知らないふりをしていたんです!」


「もう貴方がたは、家族と同じです。父や妹達を守りたいのと同じく、貴方達を守りたい!私の為に力を捨てた貴方達を!!」


 セレナが私に抱き着いてきた。クレオスも後ろから抱きついてきた。


 よし、これで三人の絆は完璧だ!


 そう思った瞬間、八岐大蛇の『黄色い鱗』が本体から離れて一点に集まり始めた。


 それと同時に八つの首に一つの体だった八岐大蛇が分離して、それぞれ体を持つ八匹の龍へと分離した。


 私達の心理が影響したのであろうか?


『私達にはもう』


『力は必要ない』


『草薙剣の加護が無くても』


『私達には『信頼』がある!』


『ならばバラバラになっても』


『信頼の力があれば』


『八匹とも傷つくことは無い!』


『そなた達のお陰だ!』


 なるほど、私が『力を捨てる』覚悟をしたのに連動して八岐大蛇達も力を捨てる覚悟を決めたという訳か。


 ということは、元々八匹の龍で、草薙剣から力をもらうことで、八岐大蛇になっていたのだな。


 そして、共に争う恐怖に脅えながらも、これまでは、その力を捨てる覚悟ができなかった……。


 だが今や、彼らは力を捨て再び八匹の龍に戻ったのだ。


 これで第三層も突破という訳か。しかし、だとすれば草薙剣はどこに……。


 そう思っていると、8つの『黄色い鱗』が黄色の光を放ちながら形を作っていった。


 鱗が剣の形に変わっていく。


 光が収まると、そこには私の背丈ほどの大きさの剣があった。


 これが草薙剣か。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇


【慶長20年(1615年)五月一日 秀頼 23歳 クレオス ?歳 セレナ 430歳 めかりダンジョン 三階層】


「よくぞここまで辿り着いた。セレナよ。我こそは草薙剣である」


「そなたは確かに『波』を読み取り、心を繋げる力を持っておる」


 剣から声が聞こえる。これまでも草薙剣の声は聞こえていたが、今回はより明瞭だ。


「クレオスライムの興奮を鎮め、金の魚の寂しさを癒し、八岐大蛇の不信を解いた」


「じゃが――」


 草薙剣がそう言った後、静寂が訪れた。


 剣はただ、そこに突き立ったまま動かない。


 だが、異様な存在感だけが増していく。


「……?」


 セレナが首を傾げる。


「……この波、恐怖でも怒りでもない――何かを待ってるみたい」


 その時だった。


 神殿全体が、微かに光り始めた。


 床に、円形の光の文様が浮かび上がる。まるでバトルフィールドを示すかのように。


 壁には謎の紋様が次々と現れ、天井からは光の柱が降り注ぐ。


「な、何じゃこれは!?」


 クレオスが驚きの声を上げる。


 空間が、不自然なほど整っていく。


 まるで戦うための舞台が、後から用意されたかのように。


「これは……演出?」


 私は違和感を覚える。


 この変化は、あまりにも――ゲームっぽい。


 その瞬間、草薙剣の足元に落ちていた影が、ゆっくりと動き始めた。


「……っ!」


 その時――ふと、セレナが息を呑む音が聞こえた。


 影が床から浮き上がる。


 黒い影は輪郭を持ち、立体化していく。


 角を生やし、巨大な体を形成し――


 異形の姿を取っていった。


 影は黄金の光を纏い、三メートルほどの魔王の姿になった。


 黄金の鎧、八つの角、そして――


 その頭上には、周囲から光の粒子が集まり、文字を形作っていく。


『草薙剣・暴走体 HP:999999/999999』


「これは……」


 私は魔王を見上げる。


 だが、違和感がある。


 魔王の足元を見ると――草薙剣はまだそこに突き立っている。


 剣と魔王が、黄金の光で繋がっている。


 まるで魔王は、剣から投影された姿のようだ。


「我は草薙剣の暴走体!」


 魔王が腕を大きく広げ、声高らかに宣言した。


 その声は――どこか楽しそうだ。


「虹次元共鳴によって産まれし、超次元を食らう魔王なり!!」


「そなた達が我を倒さねば、この世界は超次元的に崩壊し、全てが無に帰すであろう!!」


 魔王の周囲から黄金の炎が噴き出し、神殿全体を照らす。


 炎は激しく、まるで舞台の照明のように私達を照らし出した。


「さあ、来るがいい!そなた達の力、見せてもらおうぞ!!」


 魔王が剣を構える――いや、魔王自身が剣のような形状をしている。


 台詞が説明的で、動きが大仰で、明らかに――


「……ずいぶん凝った登場演出じゃな」


 クレオスがぽつりと呟いた。


 その一言に、魔王の動きが一瞬だけ止まった。


 ほんの一瞬。


 だが、確かに反応した。


「何を言う!我は本物の魔王ぞ!!」


 魔王が慌てて否定し、さらに派手な炎を噴き上げる。


 だが、その脅しのわりに――余裕がある。


 まるで、脚本を読んでいるかのような。


「秀頃ちゃん、セレナよ」


 クレオスが真面目な顔で言う。


「これは――最後の試練じゃな」


「ああ……そのようだ」


 私は剣と魔王を交互に見る。


 剣は動かない。


 魔王は演じている。


 これが、草薙剣の望んだ――最後の『ごっこ遊び』なのだろう。


「滅びよ!!」


 魔王が叫び、黄金の光弾を放つ。


 光弾は神殿の床を砕きながら私達に迫る。


「秀頃ちゃん!危ない!」


 クレオスが私の前に飛び出す。


「『愛玩・箱入り娘』!」


 紫の光が私を包み込む。クレオスの超次元が、私を守る。


 そうか、私にしか超次元の力を使えないのだったな。セレナは……。


 同時に、セレナも動いた。


「『波紋・防壁』!」


 セレナは歌によって周囲の空気の『波』を操って防御膜を張り、光弾を受け止めた。


 二つの爆発が同時に起こる。


 だが――


 衝撃は、肌に触れる前に霧散した。


「……ん?」


 クレオスが首を傾げる。


「痛くないのじゃ」


「私も……」


 セレナも驚いた表情だ。


「攻撃が、当たったはずなのに……」


 私も驚く。


 爆発の衝撃はあった。音も光もあった。


 だが、ダメージらしいダメージがない。


 力を失った今、私はただの成人男性だ。


 本当に危険な攻撃なら、クレオスの防御があっても恐怖を感じるはずだ。


 なのに――何も感じない。


 まるで、当たらないように調整されているかのような――


「魔王よ!」


 私は魔王に呼びかける。


「その攻撃、本気ではないな?」


「な、何を言う!本気ぞ!!」


 魔王が慌てて否定し、今度は複数の光弾を一斉に放ってきた。


「セレナ!歌で何とかできぬか!?」


「わ、分かりました!」


 セレナが歌い始める。


「静まれ 怒りよ」


「鎮まれ 炎よ」


 セレナの歌声が神殿に響く。


 クレオスは私の隣で紫の光を纏い、私を守る態勢を取っている。


 セレナは自分で波の力を使い、光弾を受け流している。


 すると、不思議なことが起こった。


 魔王の動きが、セレナの歌に合わせて変化したのだ。


 攻撃のタイミングが歌のリズムに合い、まるで――


 まるでダンスを踊っているかのようだ。


「これは……」


 私は戸惑う。


 魔王の攻撃は派手だが、明らかに手加減されている。


 いや、手加減というより――演じている?


「我を甘く見るな!!」


 魔王が叫び、さらに大きな攻撃を放つ。


 黄金の竜巻が神殿中を駆け巡る。


「秀頃ちゃん、わらわにつかまるのじゃ!」


 クレオスが私の手を引き、竜巻から離れる。


 セレナは自分の波の力で竜巻の流れを読み、巧みに避けている。


 竜巻は神殿の壁にぶつかり、激しい音を立てて消えた。


 だが――やはり、本当の破壊力は感じられない。


 黄金の竜巻が神殿の柱を巻き上げ、その破片が魔王自身にぶつかった瞬間――


 それまで全く変化のなかったHPゲージが、一瞬だけ揺れた。


 改めてHPゲージを見るが――


『HP:999999/999999』  ……減っていない。


 というより、今のは魔王が“わざと当たりにいった”ようにすら見えた。


「……おかしいのう」


 クレオスが呟く。


「自分で当たりにいっておるのに、戦闘が続いておるとは……これは妙じゃ」


 だが、魔王は何やら満足そうな雰囲気を醸し出している。


「ふふふ、良い連携じゃ!じゃが、まだまだ足りぬ!!」


「そなた達の絆はまだ浅い!もっと信頼し合わねば、我は倒せぬぞ!!」


「今のではせいぜい50点じゃ!次の動きを見せてみよ!」


 魔王が私達の関係性について言及してくる。


「秀頼とクレオスよ!そなた達は本当に互いを信じておるのか!?」


「セレナよ!そなたは本当に二人を仲間と思っておるのか!?」


 煽るような言葉。


 だが、不思議と殺意は感じない。


 むしろ――まるで私達を試しているかのような……。


「わらわ達の絆を疑うとは……許せぬのじゃ!!」


 クレオスが怒りを露わにする。


 だが、その声には、どこか力の入りきらない響きがあった。


 いや、クレオス自身も気づいているのかも知れぬ。


 この"戦闘"の違和感に。


「セレナ!もう一度歌ってくれ!」


「は、はい!」


 セレナが再び歌い始める。


「繋がれ 心よ」


「伝われ 想いよ」


 歌声が魔王に届く。


 すると、魔王の動きがまた変化した。


 攻撃が――弱くなった?


 いや、違う。


 攻撃が歌に合わせて"演出されている"のだ。


「これは……」


 私は確信し始めた。


 力を失った私が、何の恐怖も感じずにここに立っていられる理由。


 魔王の攻撃が、誰にも本当のダメージを与えていない理由。


 これは戦闘ではない。


 何か別の――


「ふむ」


 クレオスが突然、警戒を解いた。


「クレオス!?何をしておる!?」


「秀頃ちゃんよ。わらわ、気づいたのじゃ」


 クレオスが真剣な表情で魔王を見つめる。


 そして「ふむ、なるほどのう」と呟いて頷いた。


「これは『負けイベント』じゃな」


「負けイベント?」


「そうじゃ。RPGでよくあるじゃろう?どんなに頑張っても勝てぬ戦い。HPが減らぬのは、そういう演出じゃ」


 その言葉に、私は思わず魔王を見た。


 魔王は――動きを止めていた。


 まるでクレオスの言葉を待っていたかのように。


 魔王が再び動き出す。


「バカな!我は本物の魔王ぞ!そなた達を倒し、世界を滅ぼす存在じゃ!!」


 だが、その否定が――どこか必死に聞こえる。


 私は魔王を見つめる。


 派手な攻撃。大仰な台詞。世界を滅ぼすという宣言。


 だが――


「こやつ……」


 私は違和感の正体に気づき始める。


 憎しみがない。


 魔王の攻撃には、敵意も殺意もない。


 滅ぼす者の目ではなかった。


 むしろ、その瞳には――期待が見える。


 私達を見る目が、まるで――


「本気で滅ぼしたいのではなく――」


 私は一歩前に出る。


「一緒に戦ってほしいのではないか?」


 その瞬間、魔王の動きが一瞬だけ乱れた。


 ほんの一瞬。


 だが、確かに反応した。


「な、何を言う!我は魔王ぞ!!」


 魔王が慌てて否定する。


 そして、さらに派手な攻撃を繰り出してきた。


 黄金の隕石が天井から降り注ぐ。


 光のエフェクトが過剰で、爆発音が大袈裟で――


 まるで図星を隠すために、派手さを重ねているかのようだ。


「クレオス!セレナ!下がるのじゃ!」


 私達は隕石を避ける。


 隕石は床に激突し、派手に砕け散る。


 だが、やはり本当の破壊力はない。


「……秀頃ちゃん」


 クレオスが私を見る。


「わらわも、そなたと同じことを考えておった」


「これは戦闘ではない」


「こやつは――私達に、何か役割を演じさせようとしておるのじゃ」


 その言葉に、魔王の動きが再び止まった。


 否定の言葉を探しているのか、それとも――


 認めたくないのか。


「……」


 沈黙。


 魔王は何も言わず、ただ私達を見つめている。


 その目には――寂しさが滲んでいた。


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