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第36話:セレナ、不信と信頼の歌

【慶長20年(1615年)五月一日 秀頼 23歳 クレオス ?歳 セレナ 430歳 めかりダンジョン 三階層】


 今回は炎を防げたが、このまま攻撃を受け続ければいずれは『くま太陽』も貫かれてしまうだろう。


 こうなれば、やはりセレナの歌に頼るしかない。


 私達の絆が完璧なものであるなら、セレナの歌と私達の超次元の力で癒せぬ『気持ち』などないはずなのだ。


 もっと想え!八岐大蛇のこと、その不信と裏に隠れた信頼関係を!!


「セレナ、頼むぞ。私達もさらに頑張って支援をする。何とか八岐大蛇を癒すのじゃ」


「秀頼ちゃんの言う通りじゃ。クレオスライムの『興奮』や金の魚の『嫉妬』と同じように、やつらの『不信』を解きほぐすのじゃ」


「え、ええ。分かりました。何とかやってみます。波を読む感度を高めて、より彼らの気持ちに根差した歌を歌ってみます」


 やつらはまた炎を吐く準備をしている。


「クレオスよ。私の放つくま太陽を、そなたの愛玩でさらに可愛くしてくれ。炎対策にはそれが一番じゃ」


「うむ、分かったぞよ。わらわ達が、守りを固めている間に、セレナよ。何とかやつらを癒すのじゃ」


 クレオスにそう言われて、セレナは目を瞑り八岐大蛇を癒す歌を考え始めた。


 やつらは少なくとも、表面的には絆を見せている。


 私達を攻撃する時には、不信を見せてはいるが危機に瀕すれば、『信頼』の方が上回るようじゃ。


 ならば、信頼を与えれば、きっと分かり合える。


 セレナはそう確信したように、少し笑顔を浮かべた。


 そうじゃ。セレナの歌は一階層ではクレオスライムの『興奮』を鎮め『仲間』になった。二階層では『一緒に遊んで』魚たちの『寂しさ』を癒した。


 今回も、歌えば癒せるはずだ。


 いつもの成功体験を信じて、セレナは歌い始めた。


「疑うこと 恐れないで」


「壊れそうで 怖いのなら」


「そっと抱きしめて 守ってあげる」


 セレナの声が、優しく響く。


 温かい歌だった。


 不信を抱える者を優しく包み込むような歌。


 八岐大蛇に届け――そう願った瞬間。


「……っ!」


 私の胸が、ぎゅっと締め付けられた。


 何だ、この感覚は……?


 『興奮』という言葉。


 『仲間』という響き。


 それが、私の心を揺さぶった。


 あの時……一階層で経験の少ないセレナを何とか助けようとして、私は『緊張』していた。


 クレオスライム達の可愛い姿を見て、セレナの『友情』の歌を聞くことでクレオスライムを『仲間』と認められた……!?


 セレナはさらに、集中して美しい声を響かせる。


「本音を隠さなくていいの」


「ここにいるから もう大丈夫」


「私が受け止める 全てを」


 そして二階層で金の魚達と対峙した時には、とてつもない『嫉妬』を感じた。それは共に『遊ぶ』ことで癒された……!


 そうだ。セレナの歌は八岐大蛇を鎮めるために歌っているのに、私達の心を揺さぶっている。


 何故、そんなことが起こるのだ?


 セレナが歌を続ける。いよいよ歌のサビだ。


「その想いが どこへ向かっても」


「怖がらなくていいと 言いたいの」


「失う前に 抱きしめて」


 私の頭に強い不快感が沸き上がる。


 クレオスを、セレナをこれほど思っているのに、この感覚は……不信……なのか?


 私達の間には不信があるから、信頼の歌で八岐大蛇を癒すことができない?


 だがよく見れば八岐大蛇も苦しんでいる。やはりお互いの黄色い鱗を見ている。


 あれが彼らの不信の象徴なのか……。


 ならば私達の不信の象徴は何なのだ?


 そこでセレナの曲調が変わる。私の心理の変化をくみ取ったのか?


 八岐大蛇を癒しているはずなのに、私の心を読み取っている?


 あるいは私達の心と八岐大蛇は連動しているのか?


 そうか、さっきの曲で気づいたことがあった。クレオスライムの興奮は私達の緊張に、仲間意識はそのまま仲間意識に……。


 金の魚の嫉妬の影響を受け、共に遊ぶことで癒された。


 私達はモンスター達と同じ感情を抱いていた。それがめかりダンジョンの試練と言うことか!


 ならば、不信の正体を暴き、クレオス・セレナと真の友になることができれば、めかりダンジョンを突破することができる!!


 私達の不信が癒されることが、八岐大蛇の不信を癒すことになるのならば、まずは私達の不信を暴くことだ。


 そのためには……。


 さらにセレナの曲調が変わる。


「その手を 離さなくていい」


「疑わなくていい ここにいる」


「信じ合えたら それでいいの」


 この曲のテーマは……不信か。いや最初から不信の歌だったのだ。


 じっくりと八岐大蛇の……そして私達の信頼と不信が形成されてきた様を歌ってきたということだ。


 そして、それが今の歌によって本質にまで深堀りされてきたということ。


 このまま聞いていれば、苦しくとも不信の本質が……。


 そう思っていると、セレナの歌に連動するように、私の頭の中に言葉が響いた。


『そなた可愛い者なら誰でも良いのであろう!』


 くっ……これか。


 私の中に二階層での記憶が蘇る。だが、私の意識はさらに深まり、『あの日』のことを思い出す。


 そうだ。あの時、私はクレオスとの絆を結び『天照紋』を目覚めさせた。


 私の中にある皇族の……天照大御神(くれおす)の血が目覚め、救世の聖女となったのだ。


 だが、あの時 私の中に最大の嫉妬が産まれた。


 このクレオスは日本を……この次元を守るために私を救世の聖女にする必要があった。


 クレオスは私を愛してくれたが、それは次元を愛しているからなのか、それとも私だけを純粋に愛しているのか?


 そこに疑問を持ってしまったのだ。


 もちろん、それ以降もクレオスは誰かが魔法少女になる度に、過剰に愛でていたからのう。


 私が嫉妬するのも当然とも言えるが……。


 セレナの歌が響く、心も体も震えだす。


 クレオスは私だけを愛してくれるのか?それとも私も世界も同等なのか……。


 そうか。私はクレオスに……『私だけを愛して欲しい』のだな。


 我がままかも知れぬが、偽りのない事実という訳だ。


 しかし、そんな自分勝手なことが……。


「秀頼ちゃんよ!」


 クレオスが叫ぶ。


「セレナの歌で、そなたもわらわも嫉妬を抱えていることは分かった!」


「だから、お互い忌憚なき言葉をぶつけ合うのじゃ!」


「それが望むものであっても無くても、何らかの進展があるはずじゃ!!」


 なるほど、まずはここでお互いの気持ちをぶつける。そして、その気持ちに対する答えを、言うというわけじゃな。


 だが、そこで異変が起こった。


 セレナが苦しそうにしゃがみこみ、歌うのを止めてしまったのだ。


「せ、セレナ!!大丈夫か!!」


「は、はい。歌うのに夢中になり過ぎて……私も自分の中の『嫉妬』に呑まれそうになっていたんです」


「な、ならばそなたも!三人一緒に気持ちを吐き出すのじゃ」


 私達は顔を見合わせた。見れば、八岐大蛇達も首同士で顔を見合わせている。


 私達の『気持ちを打ち明け合う』という意思を反映したという訳か。


「よし、では一斉に行くぞ!!」


「私は!!」


「わらわは!!」


「私は!!」


『『『『『『『『我々は!!!』』』』』』』』


「世界の全てを守ろうとするクレオスの『愛』に嫉妬した!!」


「熊を何よりも愛する、秀頼ちゃんの『偏執愛』に嫉妬した!!」


「家族を傷つける『力』を持った秀頼さん達を、心から信用できない!!」


『黄色い』


『鱗を』


『壊されたくない!!』


『破壊して』


『俺だけの体になりたい!!』


『他のモンスターや人間が羨ましい!!』


『自分だけの体が欲しい!!』


『体を奪い合う仲間達が信用できない!!!』


 共に気持ちをぶつけ合う私達、八岐大蛇達とセレナは一旦置いておくしかあるまい。


 まず、私が答えねばならぬのはクレオスに対する想いだ!


「クレオスよ!!いくら熊が可愛くとも、最も愛しているのはそなたじゃ!誰と心を通じ合おうとも変わることは無い!!」


「その証拠に、この熊のぬいぐるみをそなたに託す!このぬいぐるみこそ『くまごろう』。私が幼い時にもらい、徳川軍を倒してくれると信じて疑わなかった、あのくまごろうだ!」


 ちなみに家康との戦いが終わってからは、しゃべったり動いたりはしなくなった。


 救世の聖女だったという、前世の魂が抜けてしまったのだろうか?


 クレオスは、ぬいぐるみを受け取りながら、呆然としている。


 私の想いを受けて喜んでくれたのだろうか?


「ひ、秀頼ちゃんよ!そなたの想い確かに受け取った!!熊よりもわらわを!!確かにそなたを信じるぞ!!」


「そして、わらわが秀頼ちゃんだけを愛するのか、『世界』の一部として秀頼ちゃんを愛するのか、じゃったな!!」


「もちろん、わらわは秀頼ちゃんだけを愛する!例え、世界が滅ぼうとも秀頼ちゃんを優先する!!」


「秀頼ちゃんは、このわらわを現世に出させてくれ、ずっと共に戦ってきた。それに何より秀頼ちゃんの可愛さは至高じゃ!!」


 クレオスは私の手を握って言った。


「それでも信じられぬなら、誓いを立てるぞ!!」


「わらわは超次元・愛玩の力を秀頼ちゃんにしか使わぬ!他の者を愛でれなくなるが、秀頼ちゃんに嫌われるよりマシじゃ!!」


 私にしか超次元・愛玩を使わぬだと!?


 私しか愛でぬのは嬉しいが……。戦闘に支障がでるのではないか?


 いや、私の嫉妬が癒され不信が消えるのだ。これ以上のことなどあるまい。


 絆が深まったことで、私とクレオスの超次元はさらに強くなったのじゃからな。


 さて、クレオスとの仲はどうにかなるであろうと思っていた。培ってきた年季が違うからのう。


 問題はセレナじゃ。やはりというか、めかりダンジョンに入ってからずっと、距離があるとは思っていたが……。


 『家族を傷つける『力』を持った秀頼さん達を、心から信用できない!!』か。


「セレナよ。一つ聞いておこう。『力』を信用できぬということじゃが、私達自身のことはどう思っておるのじゃ?」


「私達はこれでも一階層・二階層でそなたと共に戦い、そなたの歌に助けられ、少しでも絆を結んだつもりであった。それは私の勘違いなのか?」


「い、いいえ!そんなことはありません。お二人は、いつもすごい能力で私を助けてくれて、いくら私がモンスターの気持ちを感じ取れたって、お二人の力がなければここまでこれませんでした!」


 やはりそうか。ならば問題の根は深いぞ。


 セレナが私達を好きになったとしても、私達が安徳帝やノワール・ルナを傷つける力を持っている限り、心からは信用してもらえぬのだからな。


 だが状況は切羽詰まっている。例えクレオスが暴走しなくとも、このまま三種の神器の暴走が続けば、いつ世界が滅びてもおかしくないのだからな。


 だからと言ってどうするのだ?力がある限り、信用してもらえぬのだから……。


 ……力!!


 力が無ければ、信用してもらえるかも知れぬ。だ、だがそれで本当に良いのか?


 世界にはこれからも危機が訪れるかも知れぬ。その時、私が力を失っていても大丈夫だろうか?


 いや、私には仲間がいるではないか。クレオス、妲己、家康、信康……。


 それにセレナが加わるならば、世界に何が起きようと何とかなる術はある!!


「良かろう。ならば、私はセレナに信用されるために力を捨てる」


「私の力は元々クレオスからもらったものじゃ。それを返す」


「じゃ、じゃが魔法少女の力はともかく、超次元の力は秀頼ちゃん自身のものじゃぞ!?」


「魔法少女の力を返せばどうなると思う?私が男に戻れば『可愛さ』が失われるのだ」


「『超次元・可愛さ』が使えなくなるのは道理であろう」


「そしてクレオスは『愛玩』を私にしか使わぬと言った。ただの成人男性に使ったところで大して強力な力は得られぬ。安徳帝達を傷つける心配などない」


 一つ懸念なのはクレオスが『秀頼にしか使わない』という約束を反故にすることなのじゃが……。


 その心配はなさそうじゃな。あの『言葉』には信念がこもっていた。私にしか伝わらぬ、信念がのう。


「神は信念を込めて放った言葉を反故にできぬ。それはこの次元の理と言って良い」


「秀頼ちゃんが魔法少女の力をわらわに戻せば、間違いなくわらわと秀頼ちゃんは力を失うことになるの」


 クレオスには天照大御神の力もあるが、草薙剣は超次元だ。


 そこから産まれたセレナは、普通の神であるクレオスの力を上回っているであろう。


 私達はすべてを捨てて、セレナに信用される道を選ぶ!!


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