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第34話:セレナ、モンスターと心を通わせる

【慶長20年(1615年)五月一日 秀頼 23歳クレオス ?歳 セレナ 430歳 めかりダンジョン 一階層】


「では、まずクレオスが歌を歌い、私はクレオスの『可愛さ』を高めることにしよう。セレナは何ができるのじゃ?」


「ええと、私ができるのは『波』を操ることです。海の波はもちろんですが、人の感情や音の『波』を感じ取り、影響を与えることができます」


「ならば、セレナも同時に歌えば、より歌の効果が高まるのじゃな?」


 効果が高まるのは助かる。不用意にクレオスの力を使い過ぎると、超次元が暴走するかも知れぬからな。


「このスライム達はわらわの荒魂じゃ。ならば『強くて』『カッコいい』ことを望むはずじゃ」


「わらわの超次元・愛玩は相手を成長させる力を持つ。強く荒々しい『皇光・降臨』を歌えば、そやつらを『強くて』『カッコいい』スライムに成長させてやれるはずじゃ」


 なるほど、相手を成長させ望むものを手に入れさせることで、心を通わせようと言う訳か。


 相手を思いやる気持ち、これまでの戦いで学んできたことだ。どうやら上手く行きそうじゃな。


「ん~……?」


 セレナが首を傾げる。


 セレナには感情の『波』を読み取る力があるらしい。


 もしかすると私達が感じているクレオスライム達の感情と、セレナが感じているものが食い違っているのだろうか?


「どうしたセレナよ。何か気になることがあるのか?」


「あ、いいえ。確かにこの子達からは『カッコよくなりたい』意思が感じられます。その方法で上手くいくのではないでしょうか」


 ふむ?懸念はあるが、間違ってはいなさそうということか。


 まあいい、先ほども言ったようにとにかくクレオスライム達と心を通わせてみれば、間違っているか正しいかも分かるであろう。


「皇光・降臨!」


 そう叫びながらクレオスは、低く抑えた声とともに、激しく荒々しい歌を歌い始めた。


 歌声によって産まれた振動が空間を震わせる、私達の体にも振動が響いてくる。


 クレオスから紫の光が輝き始める、あれが超次元・愛玩の力だ。


「カッコよくなるんじゃあ!」


 鼓動のような重低音が紫の光と共に全方位に発射された。


 それがクレオスライムにぶつかると、今度はクレオスライムも紫に輝き始める。


 そしてクレオスライムの体から紫色の炎が激しく燃え上がり、頭上には角と同じ深い黒で出来た金属の王冠が被せられた。


「よし、これでクレオスライムの要望は達せられたのではないか?」


 クレオスが喜ぶ、少し家康の『暗黒妄想』のような雰囲気が漂っているものの、基本的にはカッコいい。


 クレオスライムの望むものが『強さ』と『カッコよさ』であるならば、これは合格だと言えるはずだ。


 その時だった。


 突然、クレオスライム達が『皇光・降臨』を歌い始めたのだ。


 セレナから、クレオスライムが歌や攻撃を歌で返してくるというのは聞いていたから、そこまで気には止めなかった。


 これも『成功した』証だと考えていたのだ。


 だが、様子が変わり始めた。


 クレオスライムの歌は、クレオスが歌った時と同じように周囲に振動を与えているが、その勢いが強いのだ。


 洞窟の壁がグラグラと強く振動し、とうとう岩やサンゴが崩れて落ち始めた。


 まずいな。このままでは天井が崩れるかも知れない。


 ここめかりダンジョンが関門海峡の下にあるのならば、ダンジョンが崩れたら溺れ死ぬだろう。


 そう思った瞬間、クレオスライムから紫の光が飛び始めた。


 光の当たったところから、クレオスライムの体と同じ紫の炎が燃え上がる!


「まずいな。このままではダンジョンが崩壊するぞ」


 超次元である私とクレオスなら、セレナを連れて逃げることも可能だろうが、ダンジョンが崩壊しては、ダンジョン攻略の機会が永遠に失われてしまう可能性がある。


 だが、クレオスライムには攻撃が効かぬのだったな。どうすればいいか?


「……」


 セレナが無言でクレオスライム達を見つめている。


 セレナが人の感情や音の『波』を感じ取れるならば、もしやセレナは今のクレオスライムの状態がわかるのか?


「セレナ!どうしてクレオスライムがこうなっているのか分かるのか?」


「ええと、確かにこの子達の望みは強くてカッコよくなることだったんですけど、強くなれた『喜び』と『興奮』が暴走してしまっているみたいです」


 感情が暴走している?


 なるほど、望みは叶えられたものの嬉しすぎて暴走しているのか。


 つまり、ダンジョンの崩壊を防ぎつつ、この階層を超えるためには、一度奴らの感情を鎮める必要があるわけだ。


「セレナよ。どうすればやつ等の暴走を抑えられるか分かるか?」


「ええ~と……多分、もう一度 歌で心を通じ合わせるしかないと思いますけど……。ここまで強く暴走した人を抑える歌なんて、今の私には……」


「心を鎮める歌自体はあるのじゃな?それならば良い。私とクレオスの超次元は支援こそ本質だからのう!」


 これは運が良かった。いや、セレナは草薙剣のエキスとやらから産まれたのだ。


 そもそも、このめかりダンジョンとの相性が良いのかも知れぬ。


 これまでは相性の活かし方に気づいていなかったのかも知れぬがな。


「よし!セレナよ。やつらを鎮める歌を歌ってくれ、私達が全力で支援する!」


「わ、分かりました。貴方達となら、何となく大丈夫そうな気がします!」


「この歌は、私が寝付けない時に父が良く歌ってくれた歌です。父もまた幼い時、乳母達からこの歌で寝付かせてもらったのだとか」


「この歌ならば、クレオスライム達の『興奮』を鎮めて『安心』させることができます!」


 そう言って、セレナは静かで、だが趣のある声で歌い始めた。


「『可愛さ倍増』!セレナの声をより可愛く!!」


 私自身もセレナの声に聞き入り、心を鎮めることで、セレナの心、歌の意味を読み取る。


 そして、歌とセレナの可愛さを読み取り、超次元の力によってそれを高める!!


「『愛玩・成長』セレナの声よ、もっともっとクレオスライムを鎮めるのじゃ!」


 クレオスもまた、セレナの歌から足りない部分、強い部分を見抜いて超次元の力で高める!


 セレナの歌声が、めかりダンジョン1階層全体に響いていく。


 その優しい振動によって、クレオスライムの起こした振動が少しずつ収まっていく。


 紫に光っていたクレオスライムが、元の青っぽい姿に戻り、セレナの周りに集まってきた。


 危険か?と思ったが、クレオスライムはセレナに体を擦りつけて甘えている。


 そうだった。そもそもこやつらは自発的に攻撃して来たことはないのだったな。


 私とクレオスも警戒を解き、クレオスライムに近づく。


 私達が撫でると、クレオスライムは嬉しそうに歌を歌った。


 その歌声は紫色の螺旋となり、中央の魔法陣に飲み込まれていく。


「すごい、私達があんなに頑張ってもクリアできませんでしたのに」


 魔法陣が黄色の光を放った。クレオスの超次元の色は紫だったはずだ。


 クレオスライムも紫の光を放っていた。


 二次元共鳴をしている超次元が虹の七色を放つのだとすれば、『黄色』が草薙剣の放つ本来の色だということか?


『よくぞ、クレオスライム達と仲良くなった!じゃが、これからも大変じゃぞ』


『頑張って、儂の主になるのじゃ!セレナよ!!』


 謎の声が聞こえたと思ったら、魔法陣が私達をひきつけ始めた。強制的に次の階に飛ばされるのか。


 感覚としては最初にダンジョンに引き込まれた時と同じだな。


 あの時と言い、どうもあの声は草薙剣そのものらしいな。


 虹次元共鳴のせいで神器が自我を持っているということらしい。


 ということは、このめかりダンジョンの試練は、草薙剣がセレナの実力……いや人の心を感じ取り鎮める能力を測っているのだろう。


 では、二番目の試練はどんなものなのか……?


【慶長20年(1615年)五月一日 秀頼 23歳クレオス ?歳 セレナ 430歳 めかりダンジョン 二階層】


 気づけば私達は巨大な神殿の前にいた。和布刈神社も神殿といえば神殿だが、こちらは南蛮の神が祀られていそうな神殿だな。


 このダンジョンは草薙剣が作ったはずなのだが……。


「しかし、セレナが相手の気持ちを感じられるのであれば、この先も楽勝なのではないか?」


 クレオスはセレナの肩を叩きながら余裕の表情だ。


 ウキウキしているクレオスを何だか可愛いなと思いつつ、気持ちを緩めてはいけないと思い直す。


 ここは敵の腹の中なのだ。


 いや、例え草薙剣が敵対していないにしても、我々の行動が見張られていることは間違いない。そうなれば、試練の結果に響くかも知れぬのだからな。


 そう思っていると、魔法陣から黒く濁った金色の光が出てきて、それが瞬く間に魚の形になった。


「ほほう、こやつらがさっきの『クレオスライム』と同じく、わらわ達を試す何かという訳じゃな」


 そう言っていると、急にセレナが自分の袖をそっとつまみ、ぱちぱちと瞬きを繰り返した。


 恐れではなく、心配そうな眼差しで魚たちを見つめ、小さく首を傾げた。


「……この子たち、泣いているみたいです」


「泣いている?」


 私が聞き返そうとした瞬間、濁光の魚達が光の帯を引きながら私とクレオスにまとわりついた。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇


【慶長20年(1615年)五月一日 秀頼 23歳クレオス ?歳 セレナ 430歳 めかりダンジョン 二階層】


 光の魚達の濁った金色の光はさらに強くなり、神殿全体が濁った輝きに染まった。


 光に合わせて、神殿中に不協和音が響き渡り、私の胸に理不尽な苛立ちが芽生える。


「くまーーーー!!私はこれほど世界中の熊を愛しているのに、どうして熊は私を愛さないのだ!!」


「いつもいつも熊熊熊と、これほどわらわが側にいるのに、何故わらわを見ぬのじゃ!」


 軽い張り合いはすぐに熱を帯び、声が荒くなる。


「熊こそ可愛さの至高であろう!熊を愛し、熊に愛されることが世の真理なのじゃ!!」


「笑わせるな!可愛さの至高が秀頼ちゃん以外おるか!!そして至高だからこそ、超次元『愛玩』を持つわらわが、さらに可愛く育てる義務があるのじゃ!」


 私は自分でも驚くほど強い語気を放ち、(なぜ私は“熊が至高”などと言ってしまったのだ……?)と頭を抱えたくなった。


 まずいぞ。どうやら私達が、『精神同調』を得意とすることが裏目に出ているらしい。


 魚達の持つ気持ち、『嫉妬』……それに私とクレオスは飲まれてしまっているのだ。


 嫉妬の波はさらに私達を煽り、衣装が勝手に変形していく。私の袖にはフリルが増え、クレオスのマントには星飾りが弾ける。


「見よ!この光こそ、わらわの秀頼ちゃんへの愛を形にしたものじゃ!」


「そんなもの無くともそなたは可愛い!!」


 私達が胸を張って歩み寄った拍子に、二人の超次元パワーが衝突し、ドゴンと爆発を起こす。


 まずい、このまま超次元パワーがぶつかり合えば、この次元そのものが崩壊してしまう。


 理性を取り戻さなければ、と思っているとクレオスが叫んだ。


「愛玩・可愛さ独占!」


 クレオスが叫び、紫の光が奔流のように私へと叩きつけられる。


 光が私をクレオスの方へ無理やり引き寄せる。


 私の顔はクレオスの平らな胸に叩きつけられる。


 クレオスは私の頭を手繰り寄せ、頬をぺたぺたと触ってくる。


「やめろ!そなた可愛い者なら誰でも良いのであろう!優しくするでない!!」


 私は抵抗し、「可憐・装飾極致!」と叫ぶ。


 瞬時にクレオスの衣装はフリルとリボンだらけのドレスへ変わった。


 顔や頭までフリルが覆っている。


「な、なんじゃあ!これではどうやって愛でれば良いのじゃ!」


 クレオスがじたばたする。


 私達の超次元から放たれた、紫と赤の光が激しく衝突し、空間はさらに揺れた。


「お、落ち着いてください!」


 セレナが袖をつまみ、必死に駆け寄る。


 声は不協和音にかき消され、セレナはほっぺをぷくっと膨らませて困り顔を見せる。


「もー!ふ、ふたりともぉ……!」


 半泣きになったセレナが手を伸ばす。


「止めてください……お姉ちゃんは心配ですよぉ……」


 セレナはもはや涙目だ。


 それにしても、このモンスター達は向こうから襲ってきたな。


 このダンジョンのモンスターは基本的にはこちらを攻撃しないのではなかったか?


 それを初手から我々をこんなに混乱させてくるとは、攻撃して来ないという情報が間違っていたのかそれとも……。


 セレナが私とクレオスを見つめている。暴走する私達を心配しているのか呆れているのか?


 泣き顔を見せながら、こちらをじっと見てくる。


「そ、そうですよ!その子達は、秀頼さん達にまとわりついている。妹達と同じ!」


「秀頼さん!クレオスさん!少しでも理性が残っているなら聞いてください!!」


「私が歌っている間に、まとわりついている魚達全員に触れてください!鬼ごっこです!その子達は遊んで欲しいんです!!!」


 狼狽し涙を流しつつも、一番冷静に状況を読み解いたのはセレナだった。


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