第32話:秀頼・『関門ダンジョン・めかり』に向かう
【慶長20年(1615年)五月一日 秀頼 23歳 家康 67歳 大坂城 天守】
突然現れた虹色の光の内、赤の光は私に、青の光は妲己に、緑の光は信康に、そして紫の光はクレオスに向けて放たれた。
他の3つの光ははるか遠く、どこかへ向かって照射された。
「この光は、七つの超次元の光!!この次元は3次元でありながら、内部に超次元が存在することを認めたのね!!」
「ど、どういうことだ?我らの世界が3次元のまま、超次元を認めた?」
つまりこの世界は3次元でも、超次元となった私や妲己・信康が存在し得るということか。
しかし妲己は七つの超次元と言ったな?私達以外にさらに4つの超次元が、この次元の中に存在するのか?
だとすれば、今の光が放たれた方向に、他の超次元がいるのであろうか。
光の一つはクレオスに向かって放たれた……まさか、クレオスが超次元の一人なのか!?
「今、世界は安定しているわ。信康と違って、他の4つの超次元は暴走の心配がないみたいね。けれど、世界の安定のためにも一度話し合った方が良いと思うの」
「今の光はクレオスにも放たれたようだが、まさかクレオスも超次元なのか?」
私の言葉に応じて、妲己はジャッジメント愛’sを起動させる。
クレオスの真実を調べて、本当に超次元か探ろうというのであろう。
「魔皇姫クレオス……天照大御神でもあるあなたは、秀頼に力を貸し続けたせいで超次元に目覚めているのね」
「わらわが、超次元じゃと!?」
クレオスが!?確かに私が魔法少女として戦う上で、彼女の魔力供給は欠かせなかったが……。それも私が超次元になるまでの話じゃ。
超次元になった以上、私はクレオスの力が無くとも魔法少女以上の力をふるえるのじゃが……。
「クレオスの超次元は『愛玩』。実数のエネルギーなら、相手の才能を伸ばす『育成』になるけれど、虚数エネルギーだと相手をとことん甘やかしてダメにする『溺愛』になるわ」
ふむ、本当にいつの間にかクレオスが超次元になっていたのか。私と影響を与えあったせいで……。
そうか、クレオスが側にいて私を『育成』し続けてくれたから、私は超次元になれたのかも知れぬな。時には『溺愛』してくることもあったが、確かにクレオスの力なくしては今の私は無かった……。
魔力を貸し与えてくれただけではない。精神的にもずっと支え続けてくれたからな。
「しかし、信康のように暴走しているのでなければ、超次元がいくつかあっても問題ないのではないか?この次元は超次元が中にいることを認めているのであろう?」
「暴走していなければ問題ないわ。でもあたし達みたいに試練を乗り越えて制御している訳じゃないもの」
たまたま制御できているだけだから、いつか暴走するかも知れぬということか。
それこそ私がクレオスの『溺愛』に甘えていれば、信康の暴走を止められず世界は滅んでいたかも知れぬのだ。
『クレオスが暴走するかも知れない』という事実を甘く見ることはできぬ。
「じゃが、だからと言ってどうするのじゃ?わらわが暴走せぬよう、秀頼ちゃんと妲己ちゃんで見張ってくれるのか?」
クレオスと妲己と三人で暮らすというのは悪くないな。しかし、永遠に見張っている訳にもいかぬだろう。
妲己には何か考えがありそうだ。
「宮中にある『八尺瓊勾玉』と、伊勢神宮にある『八咫鏡』……そして熱田神宮に『草薙剣』があるけれど、クレオスも知っている通り、熱田の草薙剣はレプリカよ」
「3つの神器を再び集め、超次元になったクレオスの力を注げば、真に虚数と実数を融合させた『超進数』へと進化するはず。そうなれば暴走の心配はないわ」
「クレオスの『愛玩』が成長すれば、育成の力によって、私達の『愛』や『可愛さ』を高めることにもなるかも知れない。一石二鳥という訳ね」
「しかし、熱田神宮の草薙剣が贋物であるとすれば、本物はどこにあるのだ?」
「それはもちろん。かつて壇之浦の戦いで激しい魔力がぶつかりあったことによって生まれた『関門ダンジョン・めかり』の最奥にあるのよ!」
「「関門ダンジョン・めかり!?」」
和布刈というのは筑前の地名であったか。つまり壇之浦……関門海峡の海底に草薙剣が封じられたダンジョンができている……。
それも今から430年も前にだ!
この世界にはかつて魔法があったのか……。私は魔法少女になるまで、そんな力があるとは露とも知らなかったのだが。
「壇之浦にダンジョンのう。じゃが、わらわが知らなかったとなると、それは超次元級のダンジョンじゃな。恐らくそこにも超次元が一人おろう」
「恐らくはね。だから、この戦いには超次元であるあたしと秀頼、そして信康とクレオスの四人で向かうしかないわ」
私達四人でか。もちろん問題あるまい。何せこちらは超次元が四人、相手が超次元だったとしてもまともに戦って負けることはないだろうからの。
「ならば、早く向かうべきであろう。相手がこちらのことを知る前に向かい、手をうった方が良いのではないか?」
「それは秀頼の言う通りだけど、一つ問題があるわ。どうも海底は転移妨害されてるみたいなのよ。もちろん海上もね。赤間関(現代の下関市)まではワープできると思うけど」
「相手はすでにこちらに対して対策しているということか?」
ならば、のこのこと出かけて行っては返り討ちに会うかも知れぬのか。
何か罠があれば4対1でも危ういかも知れぬ。
「そうね。でもそうだとしたら、より放っておくわけにいかないわよ。こちらを攻撃してくるなら、あたし達と戦う気なのかもしれない」
「私達が作った平和を脅かす意思があるということか?」
「そうかもね。とにかくその辺りは直接会ってみないと分からないわ」
信康・家康親子の暴走を食い止め、世界に平和が訪れた。じゃが海底の世界にはこの平和を脅かそうとする何かがいるらしい。
私達4人はクレオスが草薙剣を手に入れるため、加えてその勢力と戦う、あるいは話し合うために赤間関へと転移した。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
【慶長20年(1615年)五月一日 秀頼 23歳 家康 67歳 長門国 赤間関 】
私達が赤間関に着くと、関門海峡の会場が大きな渦を巻いていた。
加えて対岸に強いオレンジの光が見える。
「あれは確か和布刈神社の辺りじゃのう。わらわの荒魂を祀った場所じゃったか」
神道の神々には人に災いを齎す荒魂と、幸福をもたらす幸魂があるらしい。つまり和布刈神社はクレオスの好戦的な部分を信仰しているということか。
「関門ダンジョン・めかりとやらは、あの和布刈神社を中心に作られているということか?海底にあるのではないのか?」
「和布刈神社はめかりダンジョンの入口でしょうね。ダンジョンの本体は海底にあるはずよ」
では、ともかく一旦関門海峡を越えて九州側に渡らねばならぬのだな。しかし……、あの渦が邪魔してきそうだが……。
その時!渦からオレンジの光が発せられると同時に、渦の中から3人の人物が飛び出してきた。
「やはり素直に九州に渡らせてはくれぬようじゃの」
一人目は、サファイアブルーのふわりとしたドレスを纏った、優雅な少女。波のラインを描くリボンが幾重にも重なり、背中には半透明の水流の羽が輝いている。
「海の優しさ――潮流の巫女、セレナ・マリーナ!」
穏やかな笑みを浮かべながら、彼女が棒を掲げる。
棒は水晶で出来ており、先端には貝殻がついており、その中に煌めく真珠がある。
二人目は、深い紫色のドレスに身を包んだ、ミステリアスな雰囲気の少女。胸元の真珠の涙が妖しく光り、藤色の髪の先端が夜光のように輝いている。
髪の先端だけ少し深い色なのじゃな。
「海の静寂――深淵の歌姫、ノワール・セイレン」
静かに、だが威厳を持った声で、そう宣言し、手に持っている琴のような弦楽器を構えた。本体はやはり貝殻のような素材でできておるらしい。弦は右側が藤色、左側が藍色になっている。
能力によって弾き分けるのかも知れぬな。
三人目は、桃色と白のドレスを着た、元気いっぱいの愛らしい少女。左右に結んだ髪の先に泡のような光の粒が漂い、腰には真珠の飾りがキラキラと光っておる。
「海の希望――泡の精霊、ルナ・マーメリィ!よろしくねー♪」
泡を吹きだす、杖のようなものをくるくる回しながら、満面の笑みで挨拶する。
「「「私たちは安徳帝の涙から生まれた、海のプリンセス!」」」
三人がそれぞれに自らの獲物を天に掲げて構えをとった。
「「「「海のプリンセス!?」」」」
私と妲己、クレオスと信康の四人は、思わぬ言葉に一瞬呆けてしまった。
「ええ。私達は四百三十年前、壇ノ浦で無念の最期を遂げた安徳天皇の涙から生まれた精霊なのです」
「安徳帝の慈悲の心が形になった私たち――優しさ、静寂、希望」
「パパはね。この地球のあらゆる海底を支配しているの!その首都『龍宮シティ』はマリアナ海溝の底、海底1000kmにあるのよ」
いきなり話が大きくなってきたな。めかりダンジョンに挑むために来たのでは無かったのか?
「そんで、そこの怪しい四人組!あんた達、パパの『草薙剣』を狙ってるんでしょ!?」
「い、いや。それはそうなのだが……。ちょっと待ってくれ。我らは話し合いに来たのだ!」
私は慌てて弁明したが、ノワールは冷たい視線を向ける。
「……言い訳は不要。安徳帝を脅かすものは――」
「許さないよーっ!」
そう言ってルナが杖を振ると、無数の桃色の泡が飛んできた!
「危ない!」
私はとっさに『可愛さ』を集中した。すると私の前に巨大な熊のぬいぐるみが出てきて、泡を吸収した。
どうやらこのぬいぐるみは可愛いものを吸収する性質があるらしい。
敵の攻撃が可愛くて助かったな。
「待って待って、ホントにあたし達は敵じゃないのよ。世界を守るために、安徳天皇と話し合いがしたいの」
妲己がそう言った。そうじゃな。恐らく、めかりダンジョンの奥にいる『超次元』は安徳帝なのであろう。
ならば話し合いが必要じゃ。我らと安徳帝が戦っては、その被害だけで地球が無くなってしまうかも知れぬからの。
「でも、あなた方は草薙剣を求めて壇之浦へ来たのでしょう」
「それは、そうだけど」
草薙剣が無くては、クレオスの『愛玩』が暴走してしまうかも知れぬ。
そうなれば、この次元全てを溺愛して骨抜きにしてしまう可能性があるし、逆に育成によって我らの超次元を暴走させてしまう可能性もあるのだ。
だが、草薙剣は安徳帝が天皇だったことを示す唯一の証拠じゃ。おいそれと渡せぬのも当然じゃろう。
「ミッドナイト・メロウ・レクイエム!」
ノワールの楽器が黒く染まったと思うと、深海のような深く暗い音を奏で始めた。
ノワールの演奏が周囲に響き渡る……。
楽器から発せられた音符の波が世界を漂い、周囲に夜の帳が落ちる。
それと同時に強烈な眠気が押し寄せてきた。
歌声は可愛いと言うより美しいものなので、熊では吸収できぬらしい。
「くっ、眠気が……!」
「がんばっちょりあんぬ!!」
クレオスがそう叫んだ瞬間、私の中から『可愛さ』が沸き上がってきた。
「くま……太陽!!」
私がそう叫ぶと、太陽が熊の形になった!
そしてくまの太陽から、光がハートの形になって降り注ぎ、ノワールの作り出す闇を払いのけた!
「やるねっ!!でもあたし達も負けないよ!」
「我らは安徳帝の近衛兵、敵が誰であろうと負ける訳には行きません!!」
「オーシャン・ハーモニック・ボルテックス!」
セレナがそう叫ぶと、本州と九州の間にある全ての海水が浮かび上がり、渦となってこちらに向かってきた!!
「イートイン・オールラブ」
信康がそう唱えると、巨大な天使が我々の前に現れ、波の渦を吸い込んだ!
「慈愛であろうと愛は愛、俺に吸い込めない愛はないぜ」
「……このままではっ……」
「あたし達が負けちゃったらパパが……」
「ここは皆で力を合わせましょう」
三人が手を繋ぐと、後ろに草薙剣の幻影が浮かび上がる……!
そしてその件に、三人のエネルギーがどんどん込められていく!
「「「「エンペラー・オーシャン・ソードっっ」」」
幻影の剣が実体化して襲ってくる!剣には貝殻やら星やらハートやら可愛いものがいっぱいくっついているがともかく私達を倒そうとしているのは間違いない。
まずいな、この一瞬で我らも心を一つにできるか……?
「待て!双方、争いを止めよ!」
そう言って、水のなくなった関門海峡から、太陽に見える何かが昇ってきた。
「朕が安徳天皇である。地上の神よ、よくいらしたの」
ついに、もう一人の超次元の持ち主、安徳天皇に出会うことができた。




