第31話:秀頼と妲己、虚数を実数に変える
【i年(i年)i月i日 秀頼 i歳 家康i歳 i 】
『そこから先はさっき話した通りね』
日本で殺生石となった妲己は、信康を利用して自分を恐山まで運ばせ瘴気に呑まれて消えかけた所を信康に救われた、という訳じゃな。
『それで、どうなの?あたしの『本質』とやらは感じることができたのかしら?』
1.狐に生まれ優しい人間の両親に育てられた
2.姉が死に、姉のふりをすることになった
3.勇猛果敢さで王に見初められた
4.『変』だけど一途な行動にときめいた
5.命を捨てて庇ってくれたことにときめいた
6.一緒にいたいと願って四霊に逆らった
7.真実を告げ合って『真実の愛』に目覚めた
8.帝辛を『魅了』で操ったことで『真実の愛』に疑惑を抱いた
9.恐山の瘴気で『偽りの愛』が増幅され暴走した
帝辛との恋、その時にとった行動、考え方……。
そこから導き出される妲己の本質は……!!
「真実と偽りを内在しそれらを自在に操り『清濁』へと高められる力……」
「何物にも染まることができ、それら全てを活かすことができる。まさに殺生石と同じ力を持つそなたの本質は……!!」
「『変幻自在』じゃ!!」
「強い想いの力によって、その本質を何にでも変えることのできる存在!だが一度染まればその信じる心は途方もない!!」
「だが、そなたはただ染まるだけでなく、いくつもの思想を混ぜあい、より大きな力にすることができるようになった。それが超次元『清濁』という訳じゃ!」
そしてその一度染まれば強い……とにかく強い、自らを犠牲にするほどの情念を抱く気持ち、それでありながら相対する二つの気持ちを受け入れ変化する力……。
その本質を私は……。
「命をかけてでも真実の愛を貫き通そうとする健気さを『可愛い』と思った」
「無慈悲に皆殺しと拷問を続ける容赦のなさを嫌い、『可愛くない』と思った」
「正と負、両方の可愛さをそなたに抱いたわけじゃ。そしてその二つが混ざり合った『清濁』の力を信康を守ることに使おうとしているそなたの愛に……」
「気高さを、虚実を超えた崇高な『可愛さ』を感じた!これは私と家康の可愛さにはない『超次元』の可愛さじゃ」
「私はこの『崇高さ』を素晴らしいものだと感じた。そなたの可愛さを好きになったのじゃ。これで私の可愛さを操れるようになったのではないか?」
私の『可愛さ』を虚数にできれば、信康の『虚数の愛』に対抗できる『虚数の可愛さ』を手に入れることができる。
それさえできれば、妲己と力を合わせ信康の『虚数の愛』の座標を変えて『実数の愛』つまり普通の愛に変えることも可能なはずじゃ。
『『崇高さ』……あたしの愛にそんなものがあるとは思わなかったわ。でも、あたしの人生を全て見たあんたが言うのなら、まあ間違いないんでしょう』
『崇高な可愛さ……』
妲己がそう呟くと、何もないように感じていた空間に人の体が生成される。
最初に見えたのは純白の衣、そこに金と銀色の糸で刺繍がなされていく。
上半身には太陽を思わせる金色の刺繍、下半身には月を思わせる銀色の刺繍が編み込まれていく。
中心には陰陽の『太極図』のような模様があって金色の太陽と白銀の月の分かれ目になっている。
太陽は『真実』、月は『偽り』の象徴なのじゃろう。
腰には天秤の意匠がついたベルトが現れた。
さらに衣の下からスラッとした足が生えてくる。
そして衣装の首元から頭が生えてきた。
その頭に可愛い狐の意匠がついたティアラが被せられる。
全体の髪色は金色だが、狐耳だけ銀色の毛が生えておる。
そして多少の幼さを残した、美しく可憐な顔がついに完成した。
「真実と偽りを司る、清濁の巫女 妲己!!」
これがさらなる超次元の力を得た妲己の姿か。
巫女という名前だが、日本の巫女っぽい衣装ではないな。
西洋的……全体的な印象で言えば『神に選ばれし聖女』と言ったところか。
可愛さの座標を操れるようになったから、信康の中にいても可愛い姿を作り出せるようになったのじゃろう。
「これで、あんたの可愛さを操れるわ。あんたもあたしと同じ清濁の巫女に……いや、そうね」
「真実の可愛さと偽りの可愛さを操る、『可憐』の魔法少女、秀頼となるのよ!」
可憐の魔法少女……可愛さの座標を虚数も含めて操れる可憐な魔法少女!
そう考えていると、妲己の手に先端に黒く光る石がついた錫杖が現れた。
あれは先程イメージの中で見た殺生石か。
「あんたのお陰で殺生石は、真実・虚実・可愛さのパワーも取り込めるようになった!」
「この力があれば、それらの座標も操れるわ!!」
殺生石から金と銀の入り混じった光が放たれる。
その光が粒子となって、一点に集まってきた。
この虚無の虚数次元で私が『意識』を感じている部分に粒子が集まってきたのだ。
分かる、私の体が形造られていくのがわかるぞ!
さらに『可愛さ』を象徴する衣装が作られていく。
頭には、黒い角の生えた熊の意匠がついた王冠が被せられる。
衣装は黒を基調として、やはり金銀の糸で刺繍がされている。
上半身には王冠と同じ黒い角と黒い羽、尻尾のついた黒いクマが刺繍されている。
一方下半身には頭に月桂樹を巻き白い翼の生えたクマが刺繍されている。これは切支丹の天使というやつだろう。
そして腰に妲己とお揃いの天秤の意匠がついたベルトが巻かれる。
妲己のものは天秤が真に傾いていたが、私のは偽りの方に傾いているようだ。
「真実の可愛さと偽りの可愛さを操る、『可憐』の魔法少女、秀頼!!これが私の新しい姿だ!」
よし、この力があれば信康の『虚数の愛』を実数に戻すこともできるだろう。
これで、世界の滅亡は防げる!今度こそ平和が訪れるのだ。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「では、久しぶりにこれを使いましょう」
妲己がそう言うと、彼女の眼から光が放たれ、大きな天秤が現れた。
これはさっき過去の映像で見た『ジャッジメント愛's』じゃな。
偽りの愛を保ちつつ、真実の愛も再び使いこなせるようになった妲己は真実の愛の真骨頂とも言えるジャッジメント愛'sを再び使えるようになったのか!
「ジャッジメント愛'sよ!真実を見抜け!虚数の愛、その指し示す数値を!」
なるほど虚数であっても座標は存在する。つまり、虚数の愛を実数の愛に変える前に、今の座標を調べようというのじゃな。
√-蜿ャ蝟壼」ォ
何じゃ?この奇妙な文字は?およそ数字には見えぬが、ジャッジメント愛'sが見抜いたのだから、これが虚数の愛を示す数値なのだろうか?
「文字化けか、やっぱりあたしだけの力じゃダメね」
「秀頼!あんたの虚数の可愛さを活かした技をぶつけて、文字化けした数値の真の姿を暴くのよ!」
何とジャッジメント愛'sでも暴かなかった数値を私に暴けというのか。
いや、私だけで暴くのではない、道半ばまでは妲己がやってくれたのじゃ。私がするのは仕上げだけだ。
「裁け!キングオブキュート!偽りの可愛さから真実を導き出せ!」
私がそう叫ぶと、私の王冠が黒い光を発した。
王冠は私の頭を離れ、空中に浮かんだ『√-蜿ャ蝟壼」ォ』の文字のところまで飛んでいき、文字にかぶさった。
その瞬間、文字が黒と白の光を交互に発して激しく回転した!!
そして一段と強い白い光を放ち、止まった。
√-3×10^88×super×super
「やっときちんとした数値が出たわね。宇宙の広さは3+10^80m2らしいから、その10億倍を意識した数値、という訳ね」
「それはどういうことだ?」
「あたし達が住むこの世界には10億個の宇宙があって、信康はそれと同等のエネルギーを、持ってるってことかしら」
「superというのは?」
「超次元のエネルギーを表す、数学上の概念ね。次元を一度変えるごとにつくわ」
「それではどのくらいのエネルギーがあるのか分からないのではないか?」
次元を超えること自体、私達にしかできぬのだ。
次元を超える前の力が分かっても、超次元になることでどのくらい数字が上がるのか分からねば、正確な数値は出ないであろう。
「そこは大丈夫よ。文字化けとは違い、表記できた時点であたしはこれが座標と認識できる。エネルギーの大きさが分からなくても√-xを√xに変えることはできる!」
「変幻自在!プラマイチェンジ!!」
そう叫んだ妲己の前に|HENGENJIZAIという文字が現れる。これは西洋の文字であろうか?
その内HENGENJ『I』ZA『I』の一つ目のIと二つ目のIが文字列から飛び出して合体する。
そのIは空中を漂い、妲己の手に握りしめられた。
「さあ、貴方もやるのよ!『可憐』メイクアップ・チェンジを!」
その言葉を聞いた瞬間、どうすればそれができるのか感覚でわかった。
「可憐……メイクアップ・チェンジ!!」
私がそう叫ぶと、私の前にKAWAIIという文字列が現れる。
そしてやはり、KAWA『I』『I』の一つ目のIと二つ目のIが合体し、私の方へと飛んできた。
私はそのIを刀のように握りしめる。
「いい?今から初めての共同作業ってやつをやるわよ」
「二人のI (愛)を一つにして√-3×10^88×super×superの-にぶち込むの!」
「-にI(愛)を加えることで+にする!!」
確かに横棒である-に縦棒であるIが加われば+になるのじゃろうが、そんなことで虚数の愛を実数にできるのか?
い、いやそれができるだけのエネルギー、愛、真実と虚実を私と妲己は積み重ねてきたのじゃ。
加えてやろうではないか!真実の愛、虚実の愛、真実の可愛さ、虚実の可愛さ……そのすべてから生み出された私たちのIを!
私は妲己の側に移動する。
二人で天にIを掲げると、二つが合わさった。
金と銀、黒と白、4色の光がIの周囲を渦巻いている。これなら行けそうだ!
その4色のIを二人で握る。
「いい?これを二人で、-に向かって振り下ろすのよ。あたしは出来るだけ愛を込めて、あんたは出来るだけ可愛くね」
「真実の可愛さは、生まれつき持っているから、可愛い演技を見せることで虚実の可愛さをより高めることね」
偽りの可愛さを込める……か。これまでの経験でなんとなく分かるぞ。それに私が元々男だったことで男の喜ぶ仕草が手に取るようにわかるというのも大きい。
私はきゅるんっとその場で回転して、女子らしい声を意識して叫んだ。
「分かった!行くわよぉ!」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
私と妲己は四つの光を放つIを、虚数の愛を示す-に叩きつけた!
すると、Iが吸い込まれるように-と一体化していき+になった。
表示が√+3×10^88×super×superに変わったのだ!
その瞬間、周囲が大きく震え始める。この空間は信康の虚数の愛によって作られたものだ。
虚数が実数に変わったことで、空間が消滅しようとしているのか?
ならば早くここを出なくては。弾き出してくれるならいいが、空間と運命を共にしている場合ではあるまい。
せっかく信康の暴走が収まり、家康の懸念も無くなったのだ。
これから漸く平和な世が訪れるというのに、こんなところで死んでたまるか。
「妲己よ!早くここから出よう!今の我らならば転移なり出来るであろう」
「焦ることはないわ。今この空間が虚数の愛でなく実数の世界となった以上、この世界は現実世界の一部になるはず」
「で、では放って置けばその内、信康の近くの空間とこの世界が融合して……」
「普通に元の世界に戻れるはずよ」
なるほど、だとすれば待っていればいいだけなのか。
そう思っていると、周囲の景色が暗転して気が付けば元の大坂城天守に戻っていた。
「信康!」
いつから側にいたのか、家康が信康の方に駆けよっていく。
「あ、ああ。もう大丈夫だ。理性は取り戻したよ」
「良かった。君が無事なら、もう僕の精神を脅かすものなんてないんだ」
特異点の家康は『正の魔力』と『負の魔力』が合わさった混沌の魔力によって暴走するはずだった。
しかし、その暴走を私が収め、さらに暴走の原因であった信康の死、信康の暴走も食い止めたのだ。
もはや恐れるものなどあるまい。
そう考えながら家康達を眺めていると、階段の下から誰かが昇ってくる音が聞こえた。
「「「秀頼!」」」
クレオスにメイ、影秀頼、影又兵衛、幸村、又兵衛、半蔵、忠勝!!
そうか家康の暴走が収まったことで、皆も世界の暴走を抑える必要が無くなったのだな。
そして、私を心配して大坂城を昇ってきたという訳だ。
「皆!やったぞ!!私はついに世界を」
そう言いかけた瞬間、世界は七色の光に包まれた。




