第27話:秀頼、家康に告白する
【慶長20年(1615年)五月一日 秀頼 23歳 家康74歳 地球コア 】
『よく帰ってきましたね。過去で家康と家族の想い、そして私と妹の想いも感じてきたことでしょう』
『今こそ、秀頼さんが家康さんに告白するのです。貴方達自身の手で、この世界を五次元世界にしてください』
家康達、そして五次元人達の想いを受けるなら、私は信康をさらに超える、超次元生物にならねばならぬ。
そう、未だ誰も見たことも聞いたこともない『愛を超える何か』にならねばならぬのじゃ。
そうなれるかどうかは、私の告白にかかっているのだ。ただ五次元を超えるだけではならぬ。
家康が過去でとった行動、『築山殿への想い』『信康への想い』そして『五次元人への想い』……。
それを見た私がどう感じ、どう家康への恋愛感情を深めたか?そこが告白の鍵となろう。
『築山殿への想い』、彼女を救うため赤ちゃんにされ銀河を飲んでハイパー赤ちゃんになり、雲のベッドで過去の夢を見て、真名の意味を知って母性を取り戻させた。
つまり築山殿への愛は『本質を愛する』真の愛ということじゃ。
そうじゃ。家康は永遠に赤ちゃんにされる危険を冒しても、築山殿の本質に触れようとした。本質を知りあうことこそ、究極の愛の形だと示したのだ!
その想いに私は惹かれた。私も家康の本質を知り、本質を伝えたいと思った。
じゃから私の告白の言葉には『私の本質を伝える』ことを含めるべきじゃ。
『信康への想い』、かつて殺してしまった息子を救うため、『限定反射薬』『クローン薬』で子供にさせて寺に逃がす策を立てた。
過去の自分をまきこみ、自分同士でなければ手に入れられない双子草を手に入れた。
過去の自分と協力して築山殿を正気に戻し、過去の自分が信康を生かせる状態を作って未来に戻った。
信康が『愛を喰う魔物』と知って宇宙よりも何よりも、信康を救うと誓った。
つまり信康への愛は『不屈の愛』じゃ。
どんな絶望にも打ちのめされず、相手を救い幸せにする術を探し続ける、希望を求め続ける愛の形よ。
私もこれまで、家族や家臣を救うこと、家康を救うこと、メイを救うことを諦めずここまで来た。
じゃから私の告白の言葉には『私の不屈を象徴する言葉』を含めねばなるまい。
そして最後は『五次元人への想い』じゃな。
そうじゃ。家康は五次元人に対しても想いを抱いていたのじゃ。
家康は自分達を洗脳したり、信康が愛を喰らう魔物と知りながら放置したりした五次元人に、当然強い恨みを持っていた。
しかし、彼らが五次元人でも何ともならない『何らかの問題を抱えている』と気づいた瞬間、家康はその解決手段がないか考えておった。
これも家康の愛のはず。じゃが、この愛は家康の『本質への愛』や『信康への愛』を大きく超えておる。
言わば『敵を愛する』想いじゃ。
そんな想いは聞いたことが無い。
これに名前を付けるなら『進化する愛』じゃろうか。これまでに存在しない、これまでの愛を超越した愛じゃからの。
つまり家康の愛は、
1.本質の愛
2.不屈の愛
3.進化する愛
の3つが土台になっておるわけじゃ。
最も進化する愛が他の二つをどんどん進化させるとすれば、家康の愛は成長し続けていることになるのう。
本質はより研ぎ澄まされ、絶望は希望に変わり、敵さえも愛し進化し続ける愛か。
言うなれば……『突然変異』……?
私は五次元人が『愛を喰らう魔物』を突然変異種だと言ったことを思い出した。
五次元人が信康を評した言葉と私が家康を評した言葉が同じ……?
これは偶然なのじゃろうか?
いやいや落ち着け。今私が考えるのは告白の言葉じゃ。
1.私の本質
2.私の不屈を象徴する言葉
3.敵への愛を象徴する言葉
これを含めた告白をすれば、家康の愛の炎が目覚める。
恐らく進化する愛の炎は私の愛の炎より特殊で異常なはずじゃ。
この世界を五次元に……それ以上にするかも知れぬ。
五次元以上の世界になるならば、五次元人の問題も解決し得るかも知れんの。
さあ告白の言葉を決める時じゃ。私の告白の鍵となる言葉は『可愛さ』『応援』そして『許容』じゃな。
『可愛さ』……果てしない戦いを通じて気づいたことがある。私は本当はただ――可愛くありたいのじゃ。可愛いものに囲まれて、可愛い自分でいたい。それが私の本質じゃ。
じゃから私が可愛いと思うもの全ては、守り抜かなくてはならぬ。もちろん、家康もその一人じゃ。
『応援』……私はこれまで家康やメイを救うために、そして家族を救うために何度も倒れ、死にかけながらも、愛する者を守るため歩み続けた。それこそ私の『不屈の愛』じゃ。
その中で私を支えたのは愛する者達の『応援』じゃった。ツクヨミと戦う時はクレオス、家康と戦う時はメイ、そしてこれから五次元人と戦うのに際しては家康が……。
皆は私が敵と友になることを信じ、魔力を励ましを、そして愛を与えてくれた!じゃからこそ私は不屈の闘志を保つことができたのじゃ。
『許容』……最後は、家康が与えてくれた新たな概念『敵を愛する』ことじゃ!
思えば、私の戦いはいつでも敵と友になることであった。
最初は影・秀頼と影・又兵衛……次は忠勝と半蔵……さらにはツクヨミ、
メイにしても最初は戦うつもりであの空間に行ったのじゃ。
そして家康もまた生涯の敵であった。父の築き上げた豊臣政権は、家康に乗っ取られたのじゃからな。
じゃが私が敵と友になれたのは、心のどこかで相手を信じていたからじゃ。
本当に『心の底から憎んだ相手』までも愛そうなどとは今の今まで思わなかった。
じゃが、今は家康とその家族を害する五次元人に今私は強い怒りを覚え……、その一方で彼らを助けるべきという気持ちも生まれた。
彼等も私達と同じように、悩み苦しんでいるのであろう。それも数兆年も……。
そんなに長く苦しみ続けるのは可哀そうだと、相手が敵でも思うことができた。
それが私の『敵を愛する』気持ち、『許容の愛』なのじゃろう。
『可愛さ』『応援』『許容』今こそ、この3つを組み合わせた告白をする!!
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
私は改めて家康の方に向き直り、瞳をしっかりと見つめて告白の言葉をぶつけた!
「家康よ!私は『可愛く』ありたい!『可愛い』ものの側にいたい!皆の『応援』があればどんな逆行も乗り越える!!そして、憎き五次元人をも愛する『許容』の心もあるぞ!!」
「のう、家康よ。私じゃ、私しかおるまい。そなたの心を理解し私の心を伝え、遥か高みへ『進化』していく愛を紡ぎあげられるのは!!」
その言葉を聞いた家康が固まる。理解不能なことを言っただろうか?
いや、私の言葉は私の気持ちをすべて練りこんで、分かりやすくまとめたものだ。
家康の人生のほとんどを見てきた私が家康に気持ちを伝えられぬはずはない!
そう思っていると、家康はゆっくりと私に近づいて来て、私の体を抱きしめた。
「ああ、どうして貴方はそこまで、僕を『理解』してくれるのでしょう」
「気づいていますか?貴方の『許容』は異質、僕の『敵を愛する』と同じくらい異質です。それもまた『進化する愛』といえるでしょう。これまでになかった愛の形ですから」
私の『許容』が進化する愛じゃと?
愛し合うならば互いを理解するのは当然だと思うが……。
「恋人同士ならば、あるいは表面だけを理解するというならば普通なのです。けれど貴方はあらゆる相手の全てを知り本質を愛します。そして敵を味方にしてしまうのです」
私はこれまでの戦いで、相手の精神に入り込み全てを知った上で受け入れ愛して来た。
それが『許容』の愛じゃ。じゃが、そうか普通はそれほど極限まで相手を知ろうとは思わぬ。知ったとしても自分の好みと違えば愛さないのじゃろう。
私は相手のどんな性質にも柔軟に対応し、愛して来た。じゃから、相手が誰であっても味方にできた。だからこそ、『応援』の力を最大限引き出せたわけじゃ。
「ですが、貴方の本当にすごい力は不屈でも許容でもない」
「貴方の中に宿る、五次元を超える超次元を作り出す本当の力は……『可愛さ』」
そう言った途端、それまで種火だった家康の『愛の炎』が激しく燃え上がった。
これは、私の『告白』で家康が『許容の愛』を進化の愛だと認めたからなのじゃろうか?
い、いや愛の炎が燃え上がる前、家康は私の真価は『可愛さ』だと言った。
私の可愛さには許容や『敵を愛する』以上の何かがあるということか?
私も今は女子となった。私の可愛さで好きな人を惚れさせられたのならば、嬉しいことこの上ないのは確かなのじゃが……。
そう考えていると、家康の愛の炎に共鳴して私の愛の炎も燃え上がった!
そして炎は周囲を巻き込んでいく。地球の核は元よりそこからはみ出して地球全体に、愛の炎が巡っていく。
やがては宇宙全体に至り、この宇宙を超次元世界にするのであろう。
『妙ですね。二人の愛の炎の量から考えれば、すでに何段階か次元が上がっているはずなのに、未だこの世界は三次元のままですわ』
五次元人の言葉に、私と家康が『それはどういう……』と聞き返そうとしたその瞬間!
地上からこの地球の核へと、黒い炎に覆われた何かが降りてきた。
炎に覆われていて中の姿は見えない。炎で出来た生き物と言われれば信じてしまいそうじゃ。
じゃが、私と家康には分かった。先ほどの過去を見てきたからのう。
これは信康じゃ。恐らく過去の家康が予定通り寺に逃して、その後ちゃんと成長した信康じゃろう。
それが私と家康の覚醒をきっかけに地球の核に来た。
いや、三次元を超次元にするほどの巨大な愛を嗅ぎつけて食いに来たという訳か。
黒い炎に覆われていて見えにくいが、良く見れば信康は過去で見た『ラブ・フェンリル』狼の造形を保っているように見えた。
しかし目鼻口の穴に『深淵』と言うべき黒き穴がある。全身の黒い炎も以前にも増して燃え上がっている
『これは……体内に超次元を作り上げているのですか』
「体内に超次元!?」
『恐らく、信康さんは何らかの方法で五次元にアクセスし、数十個の五次元を食らい尽くしたのでしょう。それによって体内に六次元を超える超次元が生まれたのです』
つまり、今の信康は三次元に存在してはいるが、超次元そのものという訳か。
私達は今初めて世界を超次元に変える力を手に入れたに過ぎぬ。
だが、信康をこのままにはできまい。体内に超次元があるとしても、理性を取り戻させなくてはならぬ。
そうすれば、再び家康と親子の愛を育むこともできるであろう。
「家康よ、戦うぞ。信康を元の人間に戻すのじゃ。それさえできれば、もはやこの宇宙に脅威などあるまい。真の平和が訪れることになる」
「そうですね。ずっと夢見続けていた、信康を人間に戻すこと、そして平和を作ること、秀頼さん貴方と一緒ならば、どんな困難なことでも成し遂げられそうです!!」
燃えろ!愛の炎よ!!進化しろさらに!!
「「『本質』『不屈』『敵を愛する』『可愛さ』『応援』『許容』!!」」
「今!作り出せ!!信康にぶつける新次元を!!」
私と家康の体内に変化が生まれる。今まさに新しい次元が作り出されようとしている。
「創造!!可愛さの次元『The・CUTE』!!」
こうして戦いの準備は整った。