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26話:家康、過去の秘密を知る

【天正7年(1579年)五月一日 秀頼 23歳 家康74歳 この時代の家康 37歳 松平信康 21歳 遠江国 豊田郡二俣 二俣城 評定の間 】


 天守に戻ると僕は、築山殿の前に立ちました。どうやら、僕の姿を見ただけでは暴走が止まらないらしいですね。


『楽しい夢と共に安らかな眠りを!』


『クラウド・ベッドタイム!!』


 築山殿がそう叫ぶと、彼女の手からもくもくと雲が湧き出してきてベッドの形になりました。


『これでふわふわの夢を見るのよ』


『スターライト・ベッドメリー!!』


 その言葉と共に築山殿の髪が伸びて髪の先に光る星々がくっついている状態になりました。


 そして、築山殿自身が高速回転を始めます。


 これはベビーベッドの上によくある、くるくる回るおもちゃを模しているのでしょうか?


 先ほどのミルクと同じく、このベッドで寝ればいいようにお世話されてしまうでしょう。


 ですが、この技には築山殿の想いが込められています。そしてハイパー赤ちゃんとなった今なら、少なくとも殺されることはないでしょう。


 『ふわふわの夢』そこには築山殿の暴走を止めるヒント、恐らく僕と築山殿と信康の思い出があるはずです。


 それを思い出し、もう一度心に刻みつけることが、築山殿・信康との家族愛を高めることになるのでしょう。


 その家族愛こそ、僕の本質 秀頼さんに見せ、告白の言葉を生み出してもらうための最大のポイントです。


「築山殿!僕は敢えて貴方の愛を受けますよ!!そして貴方を理解し、もっと愛を高めて見せます!!」


 それが結局、築山殿と信康を救うことになるのですからね。


 そう考えながら僕は、雲のベッドへとダイブしました。


【永禄6年(1563年)七月七日 この時代の家康 22歳 この時代の築山殿 22歳 この時代の信康 5歳 三河国(みかわのくに)額田郡(ぬかたぐん)岡崎康生町おかざきこうせいちょう 岡崎城 】


 雲のベッドで眠ると、岡崎城らしい建物の中に来ました。


 これは僕が過去の記憶を夢で見ているのでしょう。それは、築山殿と信康との家族愛を象徴する思い出のはずです。


 見れば、信康らしき少年が七夕の飾りつけをしていて、過去の僕と築山殿もそれを手伝っているようです。


 七夕の記憶ですか。毎年、飾りつけをしていた覚えはありますが、これと言って特別な思い出があったようには思えません。


 これはいつの記憶なのでしょう?


 その瞬間、天が突然光り輝き始めました。


 そして夜空の星の内、夏の大三角形と呼ばれる、デネブ・アルタイル・ベガの間に光線が走り、その線の内側で空を切りぬいたように時空に穴が開きました。


 何でしょう、この記憶は?こんな体験をした覚えがありません。


 存在しない記憶……いえ、消された記憶でしょうか?


 この頃の僕はまだ魔法少女になっていないはずです。


 もしこの時に何か得体の知れないものと会っていたんだとしたら、記憶を消されていてもおかしくはありません。


 僕だって、過去の自分の記憶を消そうとしていましたしね。


 時空の穴に謎の引力が発生し、過去の僕と築山殿・信康が吸い込まれていきます。


 僕は慌ててハイパー赤ちゃんの能力で、引力に干渉して自分も一緒に穴に飛び込みました。


 穴に飛び込むと、そこは上も下も雲だらけの空間でした。


【永禄6年(1563年)七月七日 家康74歳 この時代の家康 22歳 この時代の築山殿 22歳 この時代の信康 5歳】


 ここはどこかと思っていると雲の中に分け目ができて、中から白く輝く珠と黒く輝く珠が出てきました。


 その珠達はさらに強く光り輝いたかと思うと、白虎と玄武に姿を変えました。


 四神に変身する珠……地球の核にいた『五次元人』に似ていますけど、関係者でしょうか?


 しかし、もし関係者としたら彼等も五次元人……。つまり、この雲の国が五次元世界だということになります。


『さて、貴方がた三人をこの五次元世界にお呼びしたのは他でもありません』


『特異点・松平元康よ。そなたに宇宙を救って欲しいのです』


 永禄6年と言えば、桶狭間よりは後ですがまだ三河統一戦の最中です。僕もまだ徳川姓にはなっていませんでしたね。


 それにしても五次元人が過去の僕にアクセスをしていた?


 地球の核に居た五次元人とは別の形で、僕達の宇宙を五次元にする策を打っていたということでしょうか?


『私は姉がこの宇宙を作って以来、何度も宇宙が滅び再生していくのを見てきました。けれど、もうウンザリなのです。だから私の手で貴方達の世界を五次元世界にしようと考えました』


『そのためには特異点である元康さんと、その奥様である築山殿に『愛の炎』に目覚めて頂く必要がある訳です』


 確かにこの時代の僕と妻である築山殿が愛の炎に目覚めれば、この世界を五次元世界にすることができるでしょうけど……。


 今の僕と秀頼さんでもたどり着けない極致に、この頃の僕を辿り着かせる方法があるのでしょうか?


『我々五次元人にとって『愛』は四次元以下の人間にとっての『座標』に過ぎません。つまり、その値を自由に変えることができるのです』


『貴方達の愛を高め、強制的に愛の炎を燃やさせます。それによって、貴方達の宇宙は五次元になるでしょう』


 そう言って、五次元人が何かの呪文を唱えると、過去の僕と築山殿の体が猛烈な炎を噴き上げました。


 しかし、五次元人の言っていることは、ほぼ洗脳です。無理やり好きにさせて愛の炎を目覚めさせるなんて、過去の僕達は望んでいないはずですから。


 それにしても、過去にこの出来事があったとしたら、何故僕達の来た未来は五次元世界になっていないのでしょう?


 誰かが僕達の洗脳を解いたのでしょうか?誰がどうやって?


 愛の炎を強制的に目覚めさせることができるくらいですから、五次元人の強さは今の僕と秀頼さんすら、はるかに凌駕しているはずです。


 そんな相手を止められる人間がいるはずありません。そもそも五次元に来ることのできる人間もいないでしょう。


 じゃあ誰が……?


「ははは!儂は何を悩んでおったのだ。妻を命がけで愛する。至極当然のことではないか!儂達の愛を邪魔するものなど、この炎で焼き尽くしてくれる!!」


「ええわたくしも貴方専属のママになって、永久にお世話し続けますわ!さあ!愛の炎をもっと燃やしましょう!!宇宙を五次元にするのです!!」


 二人の炎が燃え上がり、その炎が空中を焼くと穴ができました。この穴が僕達の宇宙に繋がっているということでしょうか?


 炎がどんどんと穴の中に吸い込まれていきます。今まさに炎によって、僕達の宇宙が五次元へと塗り替えられているのかも知れません。


 このまま放っておけば僕達の宇宙は五次元に……それで争いが無くなるならそれでもいいのかも知れませんが……。


 そう思った瞬間、信康の体から禍々しい瘴気が浮かび上がりました。


『ほほう、父母の偽りの愛を見たことで愛が虚脱状態になり、魂の奥底にあった力が目覚めたのですね』


 信康の魂に隠された力?そんなものがあったとは父の僕でも知りません。


 い、いえここでの記憶が消されているのなら、僕が知らなくてもおかしくはない!


 信康の全身に毛が生えて、顔や体も狼のようなものに変化していきます。


『なるほど、愛喰いの神獣『ラブ・フェンリル』ですか。五次元では珍しくない生き物ですが、低次元世界にはいないでしょうね』


『ふふふ、そうですか。ついに見つけましたよ。まさか、私達姉妹が悠久の時をかけて探し続けた『次元突破生物』がこんなところにいるとは思いませんでした』


 次元突破生物!?つまり、三次元や四次元に生まれながら、五次元人に進化し得る生物と言うことですか?


 まさか、信康がそんな能力を持っていたなんて……!!


 そう思っていると、信康が突然過去の僕に噛みつきました。


 すると、過去の僕から愛の炎が失われていき、普通の状態に戻っていきます。


 その代わり、信康の体を黒い炎が覆いました。


 さらに信康は築山殿に噛みつきます。すると、築山殿の炎も消え信康の黒い炎が大きくなりました。


『なるほど。これはいいですね。彼なら宇宙中の愛を喰らい尽くし、五次元……いいえ、私達が求めていた、さらなる超次元生物に進化できそうです』


『次元突破生物は私達の夢であり希望です。ですが、次元を超越した存在の行動など、五次元の科学でも計り知れません』


 五次元をさらに超える生物?五次元人はそれを作り出そうとしているのか?


 何のために……?もしかすると彼女達も何か、自分達ではどうしようもない問題を抱えていると言うことか?


『不用意に介入すれば、進化を妨げる可能性があります。ここは手を出さず、進化を見守るべきでしょう』


『ですから、貴方達にはここでの記憶を消して、元通りの場所に戻ってもらうことにします』


 五次元人が過去の僕と築山殿、そして信康に手をかざすと三人は糸が切れたように力が抜け眠り始めました。


 それを見た五次元人は、三人を信康が開けた穴に放り込みました。


【天正7年(1579年)五月一日 秀頼 23歳 家康74歳 この時代の家康 37歳 松平信康 21歳 遠江国 豊田郡二俣 二俣城 評定の間 】


 気が付くと、僕は雲のベッドで目覚めました。


 今までのは夢だったわけですね。だけど、五次元人によって封印されているはずの記憶を夢で見たということは……。


 築山殿への愛でハイパー赤ちゃんに目覚めた僕の力と……。


 本当は内に無限の母性を秘めている築山殿の愛の力……その二つが共鳴したことで、愛の炎にも匹敵するパワーを生み出しているということですね。


 ならば!過去の記憶を得た僕が築山殿を止める方法は一つ!


 恐らく、彼女が暴走しているのは消されていたはずの記憶を思い出したからのはずです。


 つまり信康が『愛を喰らう神獣』だと思い出した。そのために、彼を守ろうとする想いが過剰な母性を生み出し暴走しているのでしょう。


 それを抑える方法を、過去の世界を見て思いつきました。


 母性の暴走を止め、正常化させるには母性の源を目覚めさせるしかない!


 その方法は一つ!


「思い出しましたよ!貴方が母であることにこだわる本当の理由を!」


「名は体を表す、貴方の真名(まな)は『真々(まま)』!真実を極めるという意味で付けた名なのでしょうが、もう一つ!英語で母を意味する『ママ』!」


 その言葉を聞いた築山殿の体から、白い炎が立ち上ります。


 あれが母性愛の生み出す炎というわけですね。


 母性愛の炎は築山殿の回りで渦を巻いたと思ったら、そのまま消えました。


 築山殿がコントロールを取り戻したことで、自ら力を抑えたのでしょう。


「わ、わたくしは一体?」


「築山殿、いや『真々』。僕がわかりますか?」


 築山殿は僕のことをマジマジと見つめてきます。


「貴方と、貴方を覆っているツタのようなものから、夫の魔力を感じますね」


「そうです。僕は37年後の未来から、貴方と信康を救いに来た、未来の家康です。ツタになっているのはこの時代の家康です」


 築山殿は『ふむ』と一言言って頷きました。


「なるほど、貴方と夫がわたくしの暴走を止めてくれたのね。ありがとうございます」


「未来から来たという話を信じるのですか?」


「ええ、もちろん!貴方には全く悪意がないもの。それに夫と同じ匂いを感じます」


 この時代の僕を信じ切っているのでしょうか?本来ならばこの場で殺されていたのに。


「あ、申し訳ございません。赤ちゃんのままでは話しにくいですね」


 そう言って築山殿は僕にかけた魔法を解き、僕は魔法少女の姿に戻りました。


 僕もこの時代の家康を魔法植物から人間に戻します。


「ふう、本当に死ぬかと思ったぞ。妻と子を殺そうとして妻に殺されるなど冗談にもならぬ」


「お前様!ご無事で良かったです!」


 築山殿が家康に抱き着きます。自分のせいで夫を殺すところだったのだから、助かって喜ぶのは当然でしょう。


「築山殿……いや『真々』よ。苦労をかけたな。じゃが、これからそなた達にはより大変な思いをしてもらわねばならぬ」


「やはり信長公のご命令を受けるのですか?」


 築山殿は悲痛な表情になります。


 ですが、築山殿と信康が死なずに済む方法は既に見つけています。


 でも、このまま信康を生かすということは、『愛を喰う神獣』を未来に生かすことになるんですよね。


 それがどんな結果を生むのかは分かりません。ですが、親として選択肢などありません。生かせるものなら当然生かします。


 そしてそのことで未来に何か問題が起こるなら、秀頼さんの力を借りてでも食い止めるだけです。


 もう覚悟は決まりました。過去の僕の家族愛、築山殿の母性愛、そして二人の想いを受けて進化した僕の愛の種火……。


 秀頼さんに、見せられるだけのものは見せたと思います。


 後はこれを見て彼女がどんな告白の言葉をかけてくるのか、そしてその時 僕は恋に落ちることができるのか?


 表面上だけ恋に落ちても愛の炎は作れません。


 こればかりは秀頼さんの告白の言葉に賭けるしかないわけです。


 私がそう思っていると、炎を噴き上げながら『愛の鳳凰』が二俣城の天守へと降り立ちました。


 さらに部屋の中に渦巻が起こり、その中から愛の青龍が現れました。


 僕が愛の青龍に乗ると、来たときと同じように鳳凰の炎と青龍の水流が混ざり合い、空間に大きな穴が出来ました。


 これまでどこで見ていたのか、秀頼さんもすでに愛の鳳凰に乗っています。


「家康よ!私は告白の言葉を思いついたぞ!さっそく未来に帰るのじゃ!」


 秀頼さんの言葉と共に、僕達を乗せた鳳凰と青龍は穴へと飛び込みました。


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