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25話:家康、ハイパー赤ちゃんになる

【天正7年(1579年)五月一日 秀頼 23歳 家康74歳 この時代の家康 37歳 松平信康 21歳 遠江国 豊田郡二俣 二俣城 評定の間 】


「貴方の作った反射薬は、富士風穴の魔物を元に作ったものでしょう。あそこは、史上最愛のデートスポットに繋がる場所だけに、混沌魔力が溢れてますからね」


 富士風穴の付近は混沌魔力が強いため、普通の動物の一部が混沌生物へと変化してしまっています。


 最もこの時の僕は『すごく魔力が強い生物』という程度にしか認識していませんでしたけれどね。


 あらゆる攻撃を反射する混沌魔獣・ミラーウルフ、月の光を集め、自らの魔力を高める月見草……。


 ミラーウルフを魔法植物・鏡反樹に変えて、そのエネルギーを月見草の魔力で高め、反射薬を作り出した訳です。


 これを限定反射薬にするには、月の光を抑える『月食草』が必要です。けれど、月食草は月食の時にしか取れません。


 当時はツクヨミの力をもってしても、人工的に月食を起こすことなんてできませんでした。


 ですが今の僕は、秀頼さん達に忠勝・半蔵との友情、二人の死に際しての苦悩を理解してくれたことで、友情の力に目覚めています。


 月の位置を動かし、月食を起こすことなど造作もありません。


 そして過去の僕の助けさえあれば、クローン薬の原料となる『双子草』も作り出せます。


 過去の僕は、僕が考え込んでいるのを見て、焦れたように質問をしてきました。


「限定反射薬とやらの効能は分かるが、そのようなものが本当に作れるのか?」


「ええ、限定反射薬に必要なのは、月見草の魔力を適度に弱める力、月食の魔力を取り込んだ『月食草』です。今の僕なら、月食は起こせますから、こちらは問題ありません」


 友情の炎が燃えている限り、宇宙空間での活動は問題ありません。物理的に月を動かし、月に地球の影が落ちる位置に持って行けば月食を起こせます。


「月食を起こす……そうか、言われてみればそなたの魔力は膨大、それに闇の魔力とは波長が違う。それならば月食を起こすことさえ可能なのであろう」


 限定反射薬は僕だけでも作れますが、クローン薬を作るには、どうしても過去の僕の助けが必要です。


 クローン薬を作るには、同じDNAを持つ二つの生物を材料にしなければなりません。


 最も生物全体を材料にする必要はなく、髪の毛なりを切ったものを魔法植物『双子草』に変えれば大丈夫です。重要なのは『DNAが同じ別の生物』であることです。


「クローン薬の方は貴方の体の一部、髪の毛とかが必要です。双子のように全く同じ二人の細胞が必要なのです。これは僕と貴方でなければ条件を満たせません」


 本当の双子でない限り、タイムスリップしてきた同一人物でなければ、この条件は満たせないでしょう。


 僕がこのアイディアを思いついた一番の原因でもあります。


「双子草……そうか!!儂にはそれは思いつかなかった!確かに儂とそなたならではの策じゃな」


 よし、過去の僕の了解さえとれれば、後はどうにかなります。薬が完成してしまえば、築山殿が攻撃して来たとしても乗り切れますからね。


 後は子供になった築山殿と信康を、過去の僕の伝手で寺に送り込めば良いだけです。


 そう思った瞬間、部屋の外から淡いピンクの光が僕達に向かって飛んできました。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 僕はとっさに家康を魔法植物にしました。


 危険を感じた瞬間、限定反射薬のような複雑なものを作る暇はないと考えたこと、そして築山殿に反射薬を使ってしまえば、元に戻せなくなるだろうことを考えての事です。


 もちろん、後で過去の僕を元に戻すことはできます。僕のせいで過去の僕が死んではタイムパラドックスが起きてしまいますからね。


 タイムパラドックスが起きては、どうなってしまうのか予測がつきませんし、僕が過去に来なかった歴史が生み出されてしまうかも知れません。


 光を受け、僕は赤ちゃんになったようです。けど、普通に思考ができますね。過去の僕を魔法植物にしたお陰でしょうか?


 しかし薬にしたわけでもない魔法植物が僕に力を貸してくれている?


『そなたは道を示してくれた。そなたには儂と同じ妻と子への愛情がある。ここで死なせるわけにいかぬわ!』


 どうやら魔法植物となった過去の僕が、ツタのように僕の頭に絡みつき、僕の思考速度・身体能力を底上げしているようです。


 だから、赤ちゃんなのに大人並みに考えられるのですね。


 それにしても魔法植物になったのに動いたり話したりできるとは……。


 いいえ、過去の僕は道を示した僕に『感謝』を、共に築山殿と信康を愛する気持ちに『共感』を、そして『どうすれば助けられたか』を老人になるまで考え続けた根性に『尊敬』を抱いてくれたのです。


 つまりこのわずかな間に、僕と過去の僕の間に小さな友情が生まれた。その友情の力が魔法植物になった過去の僕を動かしているのでしょう。


「はいは~い!ママ法少女の築山殿ですよ~。赤ちゃんはみ~んな、私がお世話してあげますからね~」


 そう言って、淡いピンクの髪、濃い藍色の服に白いエプロンを着けた築山殿が現れました。あれがママ法少女とやらの衣装なのでしょう。


「出ましたね。あいにくですが、僕は妻にお世話をされる趣味はないのです。還暦は過ぎていても、まだボケてないですからね」


 過去の僕がツタを伸ばして、僕の口を動かします。そうでなければ片言になっていたでしょう。


 僕と過去の僕の間にはテレパシーのようなモノが繋がっていて、僕が何を伝えようとしているかわかるみたいですね。


『ママ魔法・タイプぽんぽこ!』


 築山殿がそう叫ぶと、空間から無数のエプロンを着けたたぬきのぬいぐるみが現れました。


「皆でお世話するわよ~!」


 築山殿の言葉と共に、たぬき達が僕を抱っこして、哺乳瓶を口に押し込んできました。


 恐らくこれは眠り薬です。ミルクを飲み込んでしまえば、後はいいようにお世話されてしまうでしょう。そうは行きません。


 体に這ったツタが僕の体に魔力を流し込みます。


 この状況を乗り越えるアイディアと、身体能力が僕に宿ります。


 ツタが硬く性質を変えて、マスクのような形になり僕の口を覆います。


 そして、たぬきの抱っこから抜け出し、たぬきの一体を掴んで築山殿に投げつけました。


 築山殿は、たぬきを優しく抱きとめて言いました。


『オイタをする子にはお仕置きが必要ですね』


「ま、待ってください!僕は、いや僕達は信康を救いに来たんです!!貴方さえ協力してくれるなら貴方と信康を子供にして逃がすことが……」


 築山殿は僕の言葉を聞かず、『(すーぱー)たかいたかーい』と呪文を唱えました。


 どうやら築山殿の攻撃を止めるには彼女を落ち着かせる必要があるようです。


 言うなら母性の正常化でしょうか?母性の本質が愛ならば、彼女もママなら赤ちゃんが本気で嫌がることはしないはずです。


 だったら、暴走の影で眠っている真の母性をさらに引き出すことで、赤ちゃんの気持ちが分かるようにできれば……!!


 そう考えていると、僕の体が空高く打ち上げられました。これが『超たかいたかい』なのでしょうか?


 僕の体は高く、高く成層圏を超えて宇宙に飛び出しました。


 未来での魔力強化と過去の僕の『ツタ』が身体能力を補助してくれているお陰で、宇宙空間でも死にはしませんが……。もし、普通の赤ちゃんにこんなことをしたら絶対に死ぬでしょう。


 やはり、築山殿の母性は暴走してますね。真の母性を目覚めさせるにはどうしたらいいでしょうか?


 僕の体は地球の軌道上を超高速で回り続けます。もし、対抗策がなければ死ぬまで回り続けることになるでしょう。これがお仕置きという訳ですか。


 しかし、反省したときにどうやって降ろすつもりなのでしょう?そういう魔法もセットで使えるのでしょうか?


 ともかく地上に戻ることが先決ですね。ただ、宇宙にいるうちに『真の母性』を目覚めさせる方法を考えておかないと堂々巡りになってしまいます。


 待てよ……宇宙!地球の核は愛の炎で守られていました。つまり、地球も生き物ということですよね。


 だとすれば、宇宙の星々も生きていると言うことです。これらの内、母性と関係ありそうな星を一時的に薬品に変えてしまうことができれば!


 母性……乳、そう母乳、ミルク!!


 ミルキーウェイ……!!あの大銀河を魔法植物に、そして薬品に変えることができれば!!


 築山殿に薬品を摂取させると、一部の成分が失われるかも知れませんが、概ね元に戻すことはできるはずです。銀河に大変動を起こすようなことにはならないでしょう。


 このまま特異点が暴走し続けるより、よっぽどマシです。


 僕は築山殿のことを想います。


 今川家からの独立、三河統一戦争……そして武田家との戦い……。


 僕が一番大変な時に妻として支えてくれたのは築山殿です。


 そして、僕や秀吉殿を上回る才覚を持っていた信康……。


 二人を思う僕の気持ちが爆発します。そう、この姿は秀頼さんに見られている。彼女に僕の愛の形を示さなければなりません。


 僕にも!愛の炎の元となるものがあるなら、今こそ燃え上がれ!!


 なるほど、胸の奥が熱くなってきました。これが愛の炎の元になるのでしょう。……秀頼さんから告白を受ける前ですから、さしずめ愛の種火と言ったところでしょうか?


 心が燃える……!!胸の奥で何かが弾けそうです。


 ともかく、この力なら銀河……ミルキーウェイを『慈乳樹』に変えることができるでしょう。


 そして愛の種火が燃える今の僕なら解ります。


 『慈乳樹』で作ったミルクを僕自身が飲む。


 それによって、僕を『ハイパー赤ちゃん』に進化させることができます!!


 ハイパー赤ちゃんは、全ての女性の母性を限界まで高める力を持ちます。


「ミルキー・ベイビー・お星さま!!」


 私がそう唱えると、銀河が『慈乳樹』に変わっていきます。僕は魔法で『慈乳樹』をミルクへと加工します。


 そしてそれを一気に飲み込みました。


 私の魂の奥にある『赤ちゃん』にミルクのエネルギーがどんどんと注がれていきます。


 そうして、僕の姿が変わり始めました……!!


 髪はさらにふわふわになって、アホ毛の先に三日月の飾りがつきました。


 瞳は銀河の星々のように光り、背中にはオーロラを映したマント……。


 そして服のお腹には赤ちゃんたぬきが描かれています。


 この沸き上がる赤ちゃん(りょく)なら、築山殿を正気に戻すことができます!!


 そして、銀河を身に宿した僕なら、引力を操り地球に戻ることも可能です。


 いえ、その前にやっておくことがありましたね。


「よし、ハイパー赤ちゃん魔法・重力操作!!」


 僕は地球と月の重力を上手くコントロールして、自分を月まで飛ばしました。


 そして、過去の僕の『ツタ』による身体強化を限界まで高めます。


「ほいっ!!」


 掛け声と共に僕は月を殴り、日本に月食が起こる位置まで飛ばしました。


 よし、これで『月食草』を作る準備もOKです。地球に戻りましょう。


「ハイパー赤ちゃん魔法・重力操作!!」


 地球の引力を僕に対してだけ強め、極端に強くします。逆に、月の僕に対する引力を減らしていきます。


 必然的に僕の体が、地球へ向かって飛び出しました。


 大気圏突入時にとてつもない熱が僕を襲います。僕は、心に愛の種火に燃えていますから熱には強いですが……。


 どがああああああーーーーーーん!!


 地面に激突し、衝撃で大穴が開くと共に熱で周囲の地面が溶解してしまいました。


 とっさに方向を変えたため二俣城は無事ですが……天竜川のど真ん中に大滝ができてしまいました。


  僕が来た未来ではこんなことは起こっていないはずです。でも、本当に起こらなかったのか、この後僕が直して帰ったのかは不明ですね。


 さて、このまま重力を操作して空を飛び、二俣城の天守に戻りましょう。


 この姿を見せれば、築山殿は落ち着いてくれるはずです。


 そう考えながら、僕は空へ浮かび、ふよふよと天守へ向かって行きました。


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