24話:家康と秀頼、信康を救うため過去へ飛ぶ
【慶長20年(1615年)五月一日 秀頼 23歳 家康74歳 富士風穴地中 下部マントル 】
愛の鳳凰は大きく翼を羽ばたかせると、地面に向かって巨大な炎の渦を発射した!
愛の鳳凰から私の頭に言葉が流れ込んでくる。
『地球の核に史上最愛のデートスポット『特異天元』がある』
その言葉を聞くと同時に、私は叫んだ。
「私達の新たなる恋の舞台は、地球の核じゃ!そこに特異天元がある!」
「え、ええ。僕の頭にも同じ言葉が浮かびました。向かいましょう、地球の核へ!!」
私達を乗せた愛の鳳凰は、炎の渦によって開いた大穴に飛び込み、さらに炎の渦を乱射しながら地中深くへと潜っていく。
進めば進むほど、周囲の温度が上がっていく。だが、私の愛の炎があれば、マグマや地球の『核』付近の熱も乗り越えられるようじゃ。
そして、地中深く潜るほど愛の力を強く感じる。
地球の核は、地球そのものの『愛の炎』によって護られているようじゃな。じゃから、マグマや核付近の高温帯は特に愛の炎が強い。だが、愛の鳳凰なら突破できる。
しかし、特異天元は地球によって護られておるのか。
もし特異点が暴走すれば、地球そのものが無くなってしまうじゃろうに、何故地球は特異天元を守っておるのじゃ?
世界が無に還ることが、地球にとって得だとは思えぬのじゃが……。
そう考えていると、鳳凰が向かう先に強い光が見えてきた。あれが地球の核なのか?
愛の鳳凰が地面へと降り立つ、ここが地球の最下層らしい。上には天井があり、下にはむき出しの地面が広がっておる。
地球の中心にこのような空洞があったのか。
その空間の中心に神殿のようなものがあり、大きな七本の柱が建物を支えている。
神殿の中に入ってしばらく進むと大きな部屋があり、部屋の中央には神々しい装飾品で飾られた台座があった。
台座の上に赤く燃える珠と、青い炎を放ちながら燃える珠の二つが置かれている。
どちらも私を遥かに上回る、猛烈な愛の炎だ。それにしても青い炎など私はこれまでに見たことがない。
私達は注意深く周囲を警戒しながら、その珠に近づいた。
『ついに、ここを訪れる者が現れたのですね』
「た、珠が喋った!」
赤い方の珠が言葉を発した。
ぬいぐるみや猫が喋るところを何度も見ているので、そこまで驚くほどのことでもないのかも知れぬが、そう簡単に慣れるものでもない。
『特異点、そしてその恋人よ。よくここまでたどり着きました。貴方がたにはすべてを教えましょう』
「ま、待ってくれ。私達はまだ恋人同士という訳ではないのだ。私の片思いで……私の愛の炎を頼りにここまで来たのだ」
『それは分かっています。ですが、特異点・家康が貴方との恋に目覚め、この世界を救うためにも、私の話を聞いてください』
【赤い珠の話】
この全宇宙は、私とこの青き珠 二人の特異天元が作りました。
私達は、縦・横・高さ・時間の四次元に加え『愛』という五つ目の次元を持った高位世界、『五次元』から来たのです。その目的は低位次元に愛を伝え、五次元へと昇華させるために。
ですが、人々は愛の重さに耐え切れず、愛と優しさを合わせた力『光』と愛と憎しみを合わせた力『闇』を生み出しました。
そして世界は、光が闇を滅ぼし、闇が光を滅ぼすことを繰り返しました。
友情を極めた人達だけが、本来の愛に近い力を使うことができました。その人は『特異点』として選ばれました。
ですが、これまでの特異点は全員、その力の強さに耐えられず暴走し、世界を無に帰してきました。
その度に私達は『愛の炎』によって、再び宇宙を作り直してきました。
そしてついに、この特異天元に辿り着く特異点が現れました。徳川家康、貴方と豊臣秀頼の愛が完全なものになれば、この世界を争いのない高次元世界『五次元』に昇華することができます。
【赤い珠の話:終わり】
「待て、私達はこの世界を五次元になどしようとは思っておらぬ。戦さえなければ良いのだ」
『けれど、これまで数百兆年、数々の宇宙が興亡する様を見守ってきて、どこにも戦争をしなかった宇宙はありませんでした。戦争を無くすには世界を昇華させるしかありません。貴方達の愛の炎で』
いつどんな時代でも戦は無くならぬ……か。じゃが、私達の愛ならば、一時的にではなく恒久的に戦のない世が作れる。
ならばやってみるしかないのか。なに、次元が上がっても人々の生活はそう変わるまい。愛に満ち戦が無いならば、否定することはないではないか。
「どうじゃ、家康。私には想像もつかぬが、戦のない愛に溢れた世界を創ることができるなら悪くないと思わぬか」
「そうですね。僕にも想像がつきませんが、秀頼さんの愛の炎がすさまじいこと、この二つの珠の力がすさまじいことは分かります。本当に戦のない世を作れるのかも知れません」
『では、最後の試練に向かう覚悟はよろしいのですね』
「最後の試練?私達は何をやらされるのだ?」
家康が私に対して恋に落ちる、というのが愛の炎を完全なものにし、この次元を五次元とやらにする条件のはずじゃ。
つまり最後の試練とは、家康を恋に落ちさせるための試練ということか?
『貴方がたを家康にとって、最もトラウマとなっている『あの日』にタイムスリップさせます』
『そこで現在の家康が、どう考えどう行動するかを見て、告白の言葉を考えてください』
「家康のトラウマ……忘れえぬ悲劇の日に行く?時間を遡ることができるのか?」
「そ、それより僕のトラウマの日というのはやはり……」
『ええ、貴方の長男、信康を貴方の手で自害させたあの日に向かってもらいます』
『そこには当然、その時間の家康がいます。彼の目を盗んで信康を助けるのも、自害を見守るのも貴方の自由です』
『秀頼さんは、その家康さんの苦悩を見て、自分の愛を再確認し、告白の言葉を考えるのです』
さすがに最後の試練と言うだけあって、奇妙なものだな。
家康の告白を受けて、私の愛の炎は燃え盛っている。家康のどんな姿を見ても愛の炎が消えることはあるまい。
むしろ、家康の苦悩を見ることでより激しく燃え上がるだろう。その前と後で、どんな風に愛が進化したか?
家康の動向を見ると同時に、自分の変化を注意深く見守る必要があるな。
それによって、史上最愛の告白、史上最愛の言葉を生み出すのじゃ。
「分かりました。それが世界を救う術と言うなら、やりましょう。もう一度、信康の顔が見れるならば嬉しい気持ちもあります」
「私も、愛すべき家康の新たな一面が見られるならば、断ることはない」
『お二人の了解を得ました。それでは』
赤い珠と青い珠の炎がより一層大きくなる。
赤い珠からは私の鳳凰の数倍はある巨大な鳳凰が現れた。
青い珠からは同じ大きさの青龍が現れた!
二匹は口から炎と水流を吐き、二つが混ざり合って空間に大きな穴が出来た。
『この穴は、天正7年9月15日遠江国・二俣城に繋がっています。さあお行きなさい。貴方達の愛が世界を救うと信じています』
「よし!参ろう。両想いになり、世界を救うのじゃ」
「少し気が重いですが……分かりました!何としても両想いになりましょう!」
そう誓い合って私達は穴を潜った。
【天正7年(1579年)五月一日 秀頼 23歳 家康74歳 この時代の家康 37歳 松平信康 21歳 遠江国 豊田郡二俣 二俣城 評定の間 】
穴から出ると、畳敷きの部屋に出た。ここが二俣城だろうか?
「秀頼さん、あれを見てください。若い頃の僕がいますよ」
言われた方を見ると、確かに家康らしき人物がうんうんと唸っている。
ただ、既に魔法少女になっているらしく、見た目の年齢は今と変わらぬな。少し背の高い十代の少女に見える。
話に聞く限り、この時は信康の妻・五徳姫が信長に対して『築山殿と信康は武田勝頼に内通している』という報告をしたために、信長から築山殿と信康を殺すように命じられたのであったな。
「なるほど、確かに信康を殺すことに苦悩しているようだ。家康よ、そなたはどうするつもりだ?」
「基本的には過去の私と話し、二人を助ける方法を教えるつもりです。その方法を使えば、信康を殺したと見せかけて、伝手から寺に入れることができるでしょう。ですが……」
家康は激しく悩むような表情を見せた。今の家康は、この世界で私の『愛の炎』に次ぐほど強い魔力を持っている。
まして策があるならば、過去の自分を納得させることなど造作もないと思うのだが……。
「築山殿の能力が厄介なのです。彼女は信康への母性愛が大きすぎて、魔界とのリンクを得て、魔法少女に覚醒しました。それだけならば、まだ良いのですが、使う魔法が厄介なのです」
築山殿が魔法少女に!?結構、色々なところに魔法少女がいるものだな。
しかし能力が厄介か。つまり魔力の差など関係なく、こちらを制圧できる性質のものということか?だとしたら、厄介どころではないのう。
「どんな能力なのだ?」
「彼女は母性によって魔法少女になりました。ですから、彼女の使う魔法は『ママ魔法』対象を赤ちゃんにして可愛がるという魔法です。しかも彼女自身が解かない限り元には戻りません」
厄介だな。食らってしまえばこちらがどんなに強くても、何の抵抗もできないではないか。
「しかし、我らは信康を救うのだろう?ならば、築山殿はこちらの味方ではないのか?」
「それはそうですが、出会い頭に魔法を食らってしまえば交渉も何もありませんから、よく話し合ってそのことを伝えなければいけません」
そうなると、家康が出ていくのはまずいかも知れぬな。家康は魔法少女になっているため、当時と顔が変わっておらぬ。
この時代の家康が話しかけてきたと思われては、赤子にされてしまうかも知れぬ。
「ならば、私が交渉するしかないか。信康の安全保障を盾にすれば、話を着けるのは難しくあるまい」
「いえ、どうやらここは僕一人で何とかしなければならないようです。貴方が行ったのでは、『私の行動を見て告白の言葉を考える』という貴方のミッションがこなせないでしょう」
「心配には及びません。策はあるのです。この時の僕にはできなかった策が」
そう言うと家康は、不敵に微笑んだ。こういう所は昔から知っている『狸』の印象に近いな。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
[家康視点]
僕はとっておきの策を持って、過去の自分に近づきました。自分同士が接触することで『タイムパラドクス』が起こる可能性もありますが、記憶を消す魔法薬など簡単に作れます。
この時代の僕に接触したとしても、未来に戻る時に忘れさせてしまえば、タイムパラドクスが起きないでしょう。
そう考えながら、僕は堂々と過去の自分に話しかけました。
「やあ、そいつが反射薬ですね。飲んだ人は『使う魔法の対象が自分になる』。築山殿を赤ちゃんにするのは有効な手段ですが、僕にはもっと良い策があるんですよ」
突然あらわれた僕に対して、過去の僕は面食らったようです。
何せ過去の僕も今の僕も魔法少女であり、見た目だけなら歳をとりません。
要するに双子のように全く同じ顔の少女が目の前に現れたわけです。その上、その少女が自分の作戦にケチをつけはじめたら、そりゃあ何と反応していいかわからないでしょう。
「何故、反射薬のことを知っている?貴様は何者だ?そ、それに反射薬より良い作戦とは?」
私の事を怪しみながらも、作戦に興味を示してきましたね。
それはそうでしょう。この時の僕は、そうは言っても何とか築山殿と信康を救う術はないかと思っていた。
自分の事ですから、とても良くわかります。
「僕は今から37年後の未来から、信康達を救うために来た、未来の徳川家康です。今の僕と貴方が力を合わせれば、作れるはずなんです。この状況を解決する、別の薬が」
過去の僕は絶句しています。未来から来たなどという話は信じ難いでしょう。
もし僕だったら信じません。
ですが、顔が同じこと、事情を知っていること、解決法を提示しようとしていることで、怪しみながらも、逃げ出したり攻撃したりはしてきません。
「べ、別の薬とは何だ?信長殿の眼を欺き、彼らを生かす薬があるというのか?」
「あるよ。反射薬の応用で、彼らを子供にして逃がす『限定反射薬』……。偽の遺体を作り出す『クローン薬』も、私と貴方の魔力を合わせれば可能です」
僕の言葉に、過去の僕は納得と混乱の入り混じった表情で『ううむ』と唸り始めました。