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第21話:秀頼と家康、相思相愛になるための試練に挑む

【慶長20年(1615年)五月一日 秀頼 23歳  家康内いえやすない 『いえやす』 】


「結婚……ですか?何をおっしゃっているのか、よく分からないのですが」


 おっとそうだ。先走りし過ぎて私が何を考えて結婚を申し出たのか説明するのを忘れていた。


 ええと、上手く話をまとめて説明せねばならん。


「私はそなたの思い出を聞き、そなたの暴走を防ぎ、世界を守るにはどうすれば良いか考えたのじゃ」


「そして友として、そなたにしてやりたいことも考えた。そうして行き着いた結論が……」


「そなたと忠勝・半蔵が生涯をかけて目指した夢を叶えることこそ、そなたが最も喜び、私がそなたにしてやりたいことだと気付いたのだ!」


 そう、3人の夢、今や私とも共通の夢になった『家康の天下統一』を実現するために!私は家康に嫁がねばならぬ。


「それで、どうして私との結婚ということになるのです?」


「そなた達の夢、天下統一を叶えるには我が豊臣家が邪魔じゃ。じゃがそなたは私を殺したくないじゃろう」


「じゃから私がそなたの嫁となり、国松(むすこ)を俸禄の低い公家にするのじゃ。それで、豊臣家は無くなる」


 これならば家康も私も満足でき、世界も滅びぬ。後はメイ達の力も借りながら、末永く信頼関係を深めていけば、再び理性を失うこともないじゃろう。


「なるほど、僕の想いを理解し強く友情を感じた貴方は、僕の夢を叶えるために結婚したいと」


 家康は少し考え込むような仕草を見せ、『お話は有り難いのですが……』と切り出した。


「貴方が僕に対して強い友情を抱いてくれたことはとても嬉しいです。ですが男女、あるいは女同士だとしても、結婚に必要なのは恋愛感情でしょう」


「それはそうじゃが、お主と結婚すれば上手くやっていけると思うぞ?それになにより政略結婚など乱世では珍しくもあるまい」


 これだけの友情を育むことができたのだ。例え恋愛感情が無くとも、二人一緒に楽しい日々を過ごして行けるであろう。


「いえ、それはダメです。だって貴方はどこまでも僕のことを理解し、僕のために人生を投げ出そうとしてくれています」


「そんな人に望まぬ結婚をさせるわけにいかない。愛してもいない人間と結婚させるわけにいかない」


「僕は貴方に他の誰よりも幸せになってほしいからです」


 なるほど、私が家康の幸せを願うように、家康もまた私の幸せを願ってくれているようだ。

 

 しかし、どうしたものかな。このまま世界が滅びれば幸せな結婚も何もないし、この場で家康に恋愛感情を抱けと言うのも、無理があるだろう。


「ならば、どうすれば良い?私が幸せになるには、世界を滅ぼすわけにいくまい。私とそなた、互いのことを思うなら、何か策を考えねばならぬであろう」


「そうですね。だとすれば、方法は一つです」


「秘法・『史上最愛のデート』によって、この場で相思相愛になるしか、ないでしょうね」


「『史上最愛のデート』……じゃと?」


 謎の言葉を言われて私は一瞬、呆けた顔をしてしまう。史上最愛のデート?それをすれば私と家康が相思相愛になれると言うのか?


 話の流れからして、デートというのが男女が連れ立って出かけることだと言うのはわかる。


 だが史上最愛とは、どういう意味なのだろうか?


「史上最愛のデートとは、この世界が滅びる前、そこの熊と猫さんが生きていた頃に語られていた伝説です」


『ああ、そういえば僕たちもその伝説を信じて風穴に入ったんだ』


『けれど、私達はその途上で試練に敗れてしまった。そして気がつけば、猫に転生していたわね』


 どうやら、くまごろうとニャーちゃんは伝説に従って行動した結果、命を落としたらしい。


「それで、具体的にはどんな伝説なのだ?」


 私の質問に、くまごろうとニャーちゃんが答えた。


『富士の風穴には、史上最愛のカップルを作り出すデートスポットがあるんだ』


『でも、そのデートスポットは命懸けの試練なの。二人の愛が本物でなければ命を落とすわ』


 なるほど、試練をくぐり抜け、史上最愛に辿り着いた恋人達だけが生き抜ける場所というわけか。


「では、その場所で試練に挑戦することで、結婚に必要な恋愛感情を手に入れようというのだな?」


「それもあるのですが伝説によれば、そのデートスポット『富士の風穴』の最奥には、特異点を特異点たらしめているエネルギーの源、『特異天元』があるというのです」


 特異点を特異点たらしめている特異天元?つまり、家康に『世界と融合』をさせている元凶ということか?


「その特異天元を見つけ、破壊することができれば、もう僕は特異点ではなくなる。混沌エネルギーも使えなくなって世界と融合することも出来なくなるわけです」


「なるほど、確かにそなたが特異点でなくなれば、世界が滅びることはないな」


 思ったより単純な解決方法があったわけだ。だが、忠勝や半蔵と言った親友がいながら、家康がこれまで挑戦しなかったということは、試練の難易度は相当高いのかも知れぬ。


「秀頼と家康なら、そんなの簡単にクリアできちゃうんじゃない?」


 メイの楽観的意見に対して、家康は静かに首を振った。


「実は史上最愛のデートに挑む者は、クリアするまであらゆる魔法が使えなくなるのです」


「だから、今持っている能力が高いからと言って有利にはならない」


「あくまで試練の中で真の愛情を生み出せるかどうか、が焦点になるわけです」


 試練の間は魔法が使えない……そうか家康の言うことが本当なら試練の最中は、家康の混沌魔法も使えなくなるのか。


 つまり家康が他のものと融合するのを一時的に止めることが出来る。


 そして例え試練が失敗しても、それによって家康が死ねば、世界が滅びることはない……。


 家康は『珠』に乗っ取られてから、何とか自害する方法を探していたのであろう。だが、そのためには、家康の心を理解した真の友が必要だった。そうでなければ、珠の支配を破れなかった訳だ。


 だから私なのだ。これで、私と家康が死のうが生きようが世界は救われる。


 だが、私は救われた世界で、家康と共に生きたい。友を超え夫婦として生き抜きたい。


 面白いじゃないか!史上最愛のデート!


 私と家康に敵うと言うならばかかってこい!必ず突破して幸せを掴んでみせるぞ!


◇◇◇◇◇◇◇◇◇


【慶長20年(1615年)五月一日 秀頼 23歳  甲斐国 都留郡 青木ヶ原樹海 富士風穴 】


 私達は家康の中を出て、空を飛んで富士風穴まで来た。青木ヶ原樹海内では、すでに魔法が使えなかったため、樹海に入ってからは家康が甲斐を支配していた頃に作った地図を元に、風穴まで歩いてきた。


 そして、今まさに富士風穴の前に立っているのだが……風穴の入口がおかしい。


「富士風穴に扉?このような人工的なものが何故あるのだ?」


「ここへは調査以外で人が入ったことはありません。こんなものが実在するはずはないと思いますが」


 精神世界から現実世界に出てきたため、家康は長身の魔法少女の姿になっている。


 家康は甲斐支配時代に、青木ヶ原に調査団を送り込んだらしい。その時、風穴の付近も調べたのだが、このような扉は無かったようだ。


「それに、何だ?この珍妙な意匠は?」


 右の扉には、『くま』と『どくろ』が、左の扉には『たぬき』と『きつね』の顔が彫られている。


 4つとも、くまごろうのように可愛さを誇張したものだ。


 そして扉のそこかしこに、星のような装飾、心臓のような形の装飾が散りばめられていて、扉を可愛く飾り付けている。


「恐らくは、熊はくまごろうさん、どくろは暗黒妄想、たぬきときつねはそのままたぬきときつねでしょう」


「つまり、この先には私やそなた、そして忠勝・半蔵の趣味に応じた『デートスポット』が待っているということか?」


 しかしだとすれば、史上最愛のデートスポットは挑む者によって内容が変わるということだ。


 そもそも以前調べた時に扉が無かったのであれば、我々が来るのに合わせて、魔法のような何かで扉やデートスポットが作られたことになる。


「恐らくはそうでしょう。挑む者と、その親友の趣味が愛を育むためのキーワードなのでしょうね」


 だが、そうなのであれば、私達二人はこのデートスポットを楽しめるのではないか?


 我々の趣味に応じたところで一緒に過ごして、仲が良くならないということもあるまい。


 よし、ならば行こう。ここで悩んでいても何かが変わるわけではないのだからな。


「では、家康よ。お互いとうに覚悟はできているのだ。扉を開けてみよう」


「分かりました。共にチャレンジして頂いて本当にありがとうごさいます」


 家康が頭を下げる。だが、感謝するのはこちらの方だ。家康とその部下達には友情について多くを学ばせてもらった。


「生き抜けたとしても、死んでしまったとしても、貴方への感謝は変わりません」


 私は家康の肩を掴み、瞳をしっかりと見つめて言った。


「感謝してくれるなら、生き残って夫婦生活の中で示してくれ。それに私とてそなたへの礼は返したい」


「滅ぼされて死ぬかという時に、深い友情を知り成長できたのは、そなたとの戦いのお陰なのだからな」


 家康は恥ずかしそうに一度 俯いてから、改めて私の眼を見て答えた。


「私に礼など……ですが恩人の貴方が共に生きようというのならば、僕も覚悟を決めねばなりませんね」


「共に生きましょう。この試練を超えて、愛し合い結婚するのです!!」


「よし!行くぞ」


「了解です」

 

 そう言って私たちは重い扉を開けて、中に入った。


【慶長20年(1615年)五月一日 秀頼 23歳 家康74歳 きゅわるん恋獄 アトラクション たぬき・シュバイツ無双連撃 】


 門を開けて入った部屋は、様々な衣装が飾られている部屋だった。


 しかも、衣装は全てたぬきを模したのであろう見た目をしている。


 だが、それだけではない。これらのたぬき衣装に朧影ノ化狸(おぼろかげばけだぬき)と書かれた札が下げてある。


 外見は『薄い茶色と、漆黒の混ざり合った色』、『頭にはたぬきらしい丸っこい耳』、『腹には血のように赤い謎の魔法陣と見たこともない銀色の文字が描かれている』。さらに『尾からは黒い靄がわずかに立ち上っている』。


 何だ!この衣装は!!何なのだ!この部屋は!!


「一体、何だ?この奇妙な部屋は?」


 私がそう呟いた瞬間、どこからか部屋中に声が響き渡った。


『最愛のデートスポット、きゅわるん恋獄にようこそいらっしゃいました!』


 何だこれは?魔法か?どこから喋っているんだ?


「秀頼さん、あそこを見てください。多分、あそこから声が出てるんですよ」


 家康に言われた方を見ると、壁に四角い箱のようなものが取り付けられている。


 あそこから声が出ているのか。


 どういう仕組みかは分からぬが、声を遠くに届かせる魔法か、機械があるようだな。


 いや、ここでは魔法は通じぬのであった。ならば機械なのか?今の日ノ本の技術では想像もつかぬが。


『第一のデート・たぬき・シュバイツ無双連撃では、お二人にカッコ可愛い衣装で、お芝居に参加して頂きま〜す」


「カッコ可愛い衣装?」


 そう言って先ほどのたぬき衣装を見る。黒々と光る様子が美しいが、カッコ可愛いだろうか?


「な、なんと!この衣装を着ていいのですか!それで芝居とは?」


 私と違って家康はずいぶん乗り気のようだ。


 そうか、この衣装はたぬきに加えて、家康と半蔵が好きな『暗黒妄想』の要素を取り入れているのだな。


 ならば私も、家康と恋に目覚めるため、この仮装芝居を楽しまねばならぬ。


 そう思っていると、再び先ほどの声が聞こえた。


『それでは、衣装を着て奥の扉から部隊へ向かってくださ~い♪遅れたり、逃げたりしたら死にますので注意してくださいね~♪』


「死ぬだと!」


 私達は試練の過酷さを感じながら、ともかく衣装を着ることにした。


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