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第20話:秀頼、家康の友として為すべきことを決断する!

【慶長15年(1610)年十月十八日 家康 69歳 忠勝 63歳 伊勢国 桑名郡桑名 桑名城】


 儂がそう考えた瞬間、ツクヨミが儂の心に語り掛けてきた。


『その力はダメだ。その力は友情から生まれる、異なる属性のエネルギーが混ざり合った『混沌エネルギー』だ』


『その力を使えば、そなたは友情に飲まれ、世界中のあらゆるものと融合し始める。そうなれば、世界はそなたを残して形無き混沌エネルギーになってしまうのだ』


 この力を使えば世界が滅びる?


 じゃが、使いさえすれば半蔵と忠勝が蘇るのか。世界を滅ぼすほどの力ならば、人間二人生き返すなど造作もあるまい。


 二人のいない世界に生きるくらいならば、世界滅亡の危険を冒してでも二人を蘇らせるべきであろう。


 儂はそう考えて、自分の中にある力に集中した。


 暖かいエネルギーだ。忠勝・半蔵との思い出にふけるほど、その力は増していく。


「これは……頭に魔法が思い浮かぶ」


 儂は衝動のままに、頭に浮かんだ魔法を使った。


 すると儂の手のひらの上に、二つの小さな珠が生成された。


 それぞれには『忠勝』『半蔵』という文字が刻まれている。


 珠は、手のひらを離れ空中を漂う。そして、狙いをつけたように半蔵と忠勝の遺体の方へ飛んで行く。


 そして、胸の辺りにぶつかると、そのまま体の中に入り込んだ。


 入り込んだ珠は、心臓の辺りに張り付く。そして、珠から『根』のようなものが生えてきて、遺体の全身に張り巡らされる。


 さらに珠に力を流し込むと、珠から根に力が行きわたり、珠が根を使って遺体を使役する形で、遺体が起き上がった。


 二人の遺体は、ぷらぷらと手を伸ばしたり足を曲げたりしている。


 これは生き返ったと言えるのだろうか?儂が作り出した珠によって遺体が人形のように操られているだけなのでは?


「お、お主達、その忠勝、半蔵なのか?儂のことがわかるか?」


『わた……し、ただか……つ。あなた……いえやす……さま』


『わか……る。おれ……はんぞ……おまえ……いえや……さま』


 どうやら自分や儂のことはわかるらしい。じゃが魔力反応を見る限り脳が動いているようには思えぬ。


 珠自身が考え、口を動かさせているのだろう。


 この二人は恐らく、儂の知っている二人ではあるまい。じゃが、このまま珠を訓練すれば、生きていた二人と同じ能力を持たせられるかも知れぬ。


 人を生き返すなどというのは儚い夢であったが、天下統一の目途はたったのではないか?


 二人の命は失われたが、二人の魔法が使える形で残ったのだ。これならば儂一人でも二人の魔法を使って、天下がとれるであろう。


 それが二人の遺志に答えることになるであろう。


 この時点の儂は、まだそんな風にのん気に考えていた。


【慶長16年(1611年)三月二十八日 家康 70歳 秀頼 19歳 山城国 京都二条城 】


 その日、儂は秀頼殿と二条城で会見することになった。


 もはや徳川の天下!このまま豊臣家を臣従させ、『救世の聖女』の力を目覚めさせないまま、勢力下に取り込んでしまおうというのが、この会見の目的であった。


 だが実際に秀頼に会ってみて儂の考えは変わった。所作や言葉から溢れる気品など問題ではない。


 この者は江戸方・大阪方に限らず、誰とでも親し気に話している。すでに救世の聖女の片鱗を見せているのだ。


 江戸方の者が危うく取り込まれそうなほど、人懐っこい。太閤・秀吉を見て育ったからなのかも知れぬが、これはまずい。


 ちょっとしたきっかけでやつが魔法少女になれば、いくら儂が傀儡達の力を十分に使えたところで、秀頼の力が儂を上回る恐れは大いにある。


 もちろん魔法の前には軍など役に立たない。勝負は魔法少女 対 魔法少女じゃ。魔法の強い方が勝つに決まっている。


 領土や兵が多いことなど何の意味もないわ。


 勝たねばならぬ、という想いが儂の中に駆け巡る。傀儡達の中にある『珠』が共鳴するのを感じた。


 この1年の間、傀儡達は儂を良く助けてくれた。戦こそ無かったが忠勝の傀儡は良く治安を治めてくれた。半蔵の傀儡はあらゆる情報を集めてくれた。


 この二人がいなければ、どこかで戦が起きていたであろう。


 二人が活躍する度に、儂は彼らと心を通じ合わせることとなった。


 傀儡との友情が深まる度に、儂達の中にある混沌エネルギーが高まりを見せる。ツクヨミの言葉が本当なら、この力が一定値を超えた時、儂はすべてのものの実体を吸収し、ただの混沌エネルギーにしてしまうという。


 傀儡とはいえ、彼らは最高の仕事をこなしてくれる仲間じゃ。時が経つほどに儂は、二人が本物でなくても信頼できる仲間だと感じるようになった。


 そしてあの友情に溢れた秀頼を倒すには……、彼が例え『救世の聖女』になったとしても倒すことができるのは、この力だけなのであろう。


 浮かんだ思考をかき消す。世界が儂に吸収されてしまえば天下統一も何もあるまい。それは儂のために戦ってくれた忠勝・半蔵の遺志に背くことになる。


 傀儡達もそんなことは望んでいまい。


 儂はこの力に頼らず……そう、傀儡達に頼らず天下を治めねば……。


 その時、やつがすべての決め手となった『あの言葉』を言った。


「次は大坂で会おう」


 秀頼は膝を屈しなかった。そればかりか、圧倒的に徳川が優位な状況で『攻めて来い』『攻めて来ぬなら降伏しろ』と言ったのだ。


 しかも豊臣方の家臣も咎めようとせぬ。


 これは危ういと思った。力が必要だと思ったのだ。豊臣方の絆に対抗する絆が儂と傀儡達の間にあれば……。


 そう考えた時、儂の中に何かが産まれた。魔力反応から、それが混沌エネルギーでできていることに気づいた。


 この力があれば、救世の聖女とて恐るるに足らぬ。今こそ、豊臣を滅ぼすしかない。


 そうじゃな、ならば今少し準備が必要か。


 なあに焦ることはない。戦えば勝てるのじゃからな。ならば名分じゃ、豊臣を攻めても文句がでない大義名分を用意せねばな。


 それなしに攻めれば、秀忠以降の統治は安定せぬじゃろう。


 そうじゃな、方広寺の再建か。あれに金を出させた上で、完成したらイチャモンをつけてやればよかろう。


『ま、待て!その力を使えば世界はそなたと融合し、ただの混沌エネルギーになるのじゃぞ!さすれば、お主の部下や息子も死ぬのじゃぞ!』


 ツクヨミが止めようとするが、既に儂の心は決まっておる。それに、世界を滅ぼさずとも済む方法も思いついた。


「儂は豊臣を滅ぼしたら自害します。それならば、世界は滅びずとも済むでしょう」


 儂の使う力は世界を滅ぼす。ならばそうなる前に、儂が死ねば良いだけじゃ。


 力を使って豊臣を滅ぼした後、時期を見て自害する。それも家臣や秀忠に暗殺の嫌疑がかからぬ形でな。


 そうじゃな、空中で自爆すれば、誰も疑わぬであろう。


 ツクヨミ様は文句を言うのを止めた。世界さえ滅びぬなら、儂の力が兄弟への復讐に役立つと思ったのであろう。


 加えて、長い付き合いで儂が自害すると言えば本当にすることも理解しておるようじゃしな。


 儂と忠勝と半蔵、三人で始めた夢をここで頓挫させる訳にはいかぬ。


 どうせ自害するのじゃからな。その前に生涯の夢を叶えても良いじゃろう。


 じゃが儂の考えは甘かった。すでに儂の体の中には忠勝達と同じ『珠』が巣食っておったのじゃ。


【慶長20年(1615年)五月一日 秀頼 23歳 大坂城 地下室『降魔大神宮』】


 その日、大坂城の地下 魔道に繋がり得るこの特殊空間で、ついに秀頼と対峙することになった。


 小競り合いの後、儂はやつの胸に『天照紋』を見つけた。あれは、救世の聖女の持つ力が覚醒したものにだけ現れるものじゃ。


 やつはもはや天照大御神の力を借りるだけでなく、自らの持つ力を使いこなしておる。今は優勢でもこのまま戦えば負ける。


 勝てたとしても、儂の力が覚醒してしまえば世界が滅ぶ。


 ふう、やむを得ぬか。世界のためじゃ。


 儂はここで散ると決めた。秀頼は倒せなんだ。すまぬな。忠勝、半蔵……そして我が子・秀忠よ。


 儂の中であの力が覚醒しようとしているのを感じる。戦いの中で、目の前の秀頼に友情を感じ、ツクヨミ様との間に信頼関係ができてしまったせいじゃろう。


 儂は体内に爆弾を抱えながら、友情に染まりすぎた……。


 じゃがここで死ねば、世界は滅びずに済む。ここで自爆すれば世界が混沌エネルギーになることも、魔道が開き世界が暗黒に染まることもない。


 ツクヨミ様は儂を通じてしか現世に影響を及ぼせぬようじゃからな。儂が死ねば、魔道は開かず、ツクヨミ様の本体・魔皇帝クレカオスは現世に来られぬ。


 そちらの方でも世界が滅びることはない。


 じゃが、儂が体内の混沌エネルギーを自爆に使おうとした時、変化が起きた。


 儂の体の中に根のようなものが、生えて全身に行き渡っていく。これは、忠勝達の身体を傀儡として操っている、あの根か!?


 ということは……。


 しまった!儂の体の中にも、友情の珠ができていたのか!これでは自爆どころではない。儂の体は珠のいいように操られてしまう。


 そう言っている内に、儂の目の前に魔道が開く。珠によって儂の魔力が操られ、儂の暗黒エネルギーによって魔道が開いたのだ!


 儂は気が遠くなり、そのまま意識を失った。脳にまで、友情の根が到達したのかも知れぬ。


 悔しい。儂は慢心のせいで、世界の崩壊を防げなかったのか……。


【慶長20年(1615年)五月一日 秀頼 23歳  家康内いえやすない 『いえやす』 】


[秀頼視点]


「ということがあって、今に至っている訳です。このままでは、僕は世界中のあらゆるものの実体と融合し、混沌エネルギーだけが後に残ることになるでしょう」


「見つけた……!」


「え?何ですか?」


「私達とそなたは『影・秀頼』の能力で『かくれんぼ』をしているのじゃろう。私は見つけたのじゃ、ずっと隠れていた家康の気持ち、家康の本質を!!」


 家康にとって友が最も大切なのは確かだ。だが、それ故に友情の影に隠れた本質を見誤っていた。


 最も大切な友情を通して家康が何を求めていたのか。忠勝・半蔵と何をしているときが最も幸せだったか?


 そこに家康の本質はある!!


 家康は忠勝・半蔵と共通の夢を持ちそれを叶えるべく一生を、費やしてきた!


 ならば!家康の気持ちを汲んだ上で、私が彼の友達になるには、同じ夢を持ち叶えること!


 そして、私は家康達3人の夢を尊いと思い、何としても叶えてやりたくなっている。


 だから、今 家康の友として私がやるべきことは家康に天下を取らせることだーっ!


 だが豊臣家がある限り家康は、子孫を心配し続けるだろう。いつか私が死ねば、豊臣の子孫が徳川の子孫と戦わないとも限らないのだからな。


 だが、私が死んだのでは家康は喜ぶまい。


 すでに私は彼の理解者の一人、『友』になってしまっているのだからな。


 忠勝・半蔵が死んだ今、これ以上を友を失うことには耐えられまい。


 ならば、そうか答えは最初から分かっていた、徳川家と豊臣家が一つになれば良いのだ。


 今や女となった私が家康に嫁ぐ。私の息子・国松には豊臣家を継がせず、公家の養子に出して数百石ほどの俸禄を与える形にすれば良い。


 本姓を豊臣以外にし、苗字も羽柴ではなく木下にするべきであろうな。


 これで父の作った豊臣家は、この世から無くなる。


 だが、それでいいのだ。私や私の子孫が家康に逆らえるようでは天下統一とはいえぬからな。


 元々、豊臣は滅びかけていたのだ。この条件で家康が納得するならば、豊臣にも徳川にも反対するものはおるまい。


 仮に母上が反対したとしても、母上一人ではどうにもならぬだろう。


 懸念は私が生きていることであろうが、それも策がある。


 私はクレオスとの契約を解除する。そうすれば、もう私は魔法少女の力を使えぬ。


 それも『性別』はすでに対価として払ってしまっているから、男にも戻れぬはずじゃ。


 普通の女子になるならば、逆らう術はあるまい。


 もし問題があったとしても、クレオスに調整してもらえば良いだけじゃ。重要なのは、私が自分の意志で魔法を使ったり男にもどったりできぬことじゃなからな。


「どうじゃ、家康殿。私はそなたと友になりたい。ならば、そなたの意を組む必要があろう」


「私はそなた達3人の夢に賭ける想いに感動した。そなた達の夢を叶えるためなら何でもしようと思った訳じゃ」


 これは大変な決断じゃ。これまでは、徳川と戦うため、世界を守るために仮に女子になっている、という心積りじゃった。


 じゃが、ここからは一生を女子として、家康の妻として生きていく覚悟をせねばならぬ。


「お話は分かりましたが、僕の夢を叶えるために、何をしようと言うのですか?」


 そう言われて覚悟を決めた私は家康の側に寄って膝を突き、家康の手をとって言った。


「私と、結婚してください」

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