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第2話:秀頼、徳川軍をぬいぐるみにする

【慶長20年(1615年)五月一日 秀頼 23歳 大坂城 上空】


「うわぁぁぁっ!!何じゃこれはっ!どうすれば、思い通りに飛べるのだ?」


 私の体は大坂城の上空を飛び回っている。


「そ、そうか羽根に込めた魔力を弱めれば、速度は落ちるはず……」


 私は、弱めすぎて落下しないよう気をつけながら、羽根から少しづつ魔力を抜いてみる。


「きゃあっ!」


 わずかな浮遊感を感じた後、私の体は下に向かって落下し始めた!魔力を抜き過ぎたのか。調整が難しい。


 地面に落ちる前にもう一度魔力を込めなくては!


 そう思った瞬間、落下が止まり、私の体が宙に浮いた。まだ魔力を込めていないのに、何が起こったのだ?


『全く、説明も聞かずに飛びだすからじゃ。初心者なのじゃから『スティック』の力を借りねば、まともに飛べまい』


 そう言われて、声のした方を見るとクレオスが私を抱えながら飛んでいた。


「お、おお。助かったぞ。私だけでは、あのまま飛び回って、いつか地面や城に激突していたかも知れぬ」


『ひでよりちゃんみたいな可愛い子をそんな死なせ方してたまるものか!』


 クレオスは私の体を抱きしめながら、そう叫んだ。


 こいつの妙な性格さえ無ければ、純粋に感謝するところなのじゃが。


 クレオスに救われて、一旦落ち着いた私は、空中から周りを見回した。


 この高さからなら、天守からでも見えぬほど遠くが見える。


 そして、はるか遠く、と言ってもこここから三里もない辺りに、徳川軍の先方部隊を見つけた。もうあんなところまで来ていたのか。


「のう、クレオスよ。助けてくれたこと感謝する。それで、『ステッキ』の力でまともに飛ぶ方法とやらを教えてくれぬか」


 このままクレオスに抱えられていたのでは、徳川の先方部隊に『魔法』を打ち込めぬからな。


『うむ。良いじゃろう。実はわらわも、いつまでもこうして抱えておるわけにもいかぬのじゃ。早いところお主に、自分で飛んでもらわねばならん』


 ちょっと気になる言葉だ。もし私が飛ぶ方法を覚えるのに時間がかかったら、クレオスの力が尽きて私を落としてしまうということだろうか。


 それは怖いな。一刻も早くまともに飛ぶ方法を覚えねばなるまい。


『では、飛ぶ方法じゃな。ステッキに向かって『おねがい ステッキさん ふ~わふわ』と唱えるのじゃ』


 どうもクレオスの『魔法』の文言は、子供っぽく可愛らしくて、本来ならば大人の男である私の羞恥心を煽るものが多い気がする。


 いや呪文をクレオスが考えていると言うのなら、やはり私を恥ずかしがらせるために、あえて可愛い文言にしているのではあるまいか?


「その、もうちょっと恥ずかしくない、呪文にできぬものか?いくら少女の姿でも私は大人で」


『いいから唱えて!わらわの魔力が尽きたら、落っこちるのじゃ!!』


 それはまずい!今私たちは城三つ分はあろうかという上空にいる。ここから落ちては無事ではすむまい。


 仕方ない。唱えるしかないようだな。


 私はステッキを構え、教えられた呪文を唱えた。


『おねがい ステッキさん ふ~わふわ』


 その瞬間、私の体がふわりと浮かび上がる。なるほど、これなら羽根で調整しなくとも浮かんでいられそうだ。


『ふうっ!やっとこれで、わらわが支えなくても済むのじゃ』


 そういうと、クレオスの体がどんどん小さくなり、私の肩に乗るほどになった。


 これまでの出来事でも相当に面食らってきた。だが、ここで再び驚愕させられた!


「お、おいっ!どうやったのだ?どうして小さくなった?」


『これも魔法の一部じゃ。大きいままでいると魔力の消費が多いでのう。節約のために魔法で小人化したのじゃよ』


 魔法とは小さくなったり大きくなったりもできるのか。ならば、山や城ほど大きくなれば徳川軍を踏みつぶすこともできるかも知れぬな。


「普通にしているだけでも、魔力を消費するのか?」


『わらわの本体は魔界にあって、こちらに出ているのは魔力で作った幻影のようなものなのじゃ。幻影を維持するには魔力がかかる。じゃが、体が小さければ消費は少なくて済むのじゃ』


 なるほど、今ここにいるクレオスは本体ではないのか。だが、幻影にしてはさきほどから私に触れたり、撫でたり抱き着いたり抱えたりしているようだが。


『もちろん幻影と言っても、実体と同じく触ることも、抱きしめることも、チューすることも可能じゃぞ』


 チューとは接吻のことであろうか?私は、少なくともクレオスとそんなことがしたいとは思えないのだが。


 だが、クレオスは見た目はとにかくいい。普通の男であれば、接吻したいと思うものなのだろうか?女子になる前の私ならどうだっただろうか?


「とりあえず、クレオスの状態はわかった。それより徳川を攻撃する魔法を、教えてくれぬか?徳川の先方隊がもうそこまで迫っておるのだ」


 さきほど見たときでは、三里もない位置にいた。どうやら、大坂城の南側 天王寺・岡山辺りに陣取るようだ。


 あそこに陣取られては城は二日ともたないだろう。今、先手を打って大損害を与える必要があるのだ。


『おお、そうじゃったな。そのために、天空まで飛んできたのじゃ。徳川軍を攻める方法を教えよう』


『眼に魔力を通し、やつらの部隊を意識するのじゃ。そして『おめめめ みえるみえ~』と唱えるがよい』


 相変わらず、可愛く少女っぽいのが気になるが、そんなことを気にしている場合でもないか。


 私は、『ステッキ』を構え、言われた通り目に『魔力』を通して、『おめめめ みえるみえ~』と唱えた。『~』のところは、ちゃんと伸ばさないといけないようだ。


 すると三里近く離れた徳川軍の先方隊が、まるで手元にあるかのように、はっきりと見えた。本当に魔法とは不思議なものだ。


『よし、目標が見えたなら攻撃じゃ。『きゅるきゅる くまくまりゃ~』と唱えるが良い』


 相変わらず呪文の可愛さは気になるが、今は一刻を争う。ともかく唱えてみよう。


 私は徳川軍に意識を向けたまま、言われた通りに呪文を唱えた。


『きゅるきゅる くまくまりゃ~』


 私が言われた通りの呪文を唱えると、徳川陣内で大きな爆発が起こった!


「おお!あれだけの爆発ならば、被害は相当のはず……」


 そう言いかけて私は、自分の目を疑った。


 爆発の煙が晴れた後、そこには無数の『動く熊のぬいぐるみ』がいたからだ。


「一体なぜ……?私の魔法で徳川兵が『ぬいぐるみ』になったのか?」


『もちろんじゃ。兵は殺すより役立たずで陣内にいた方が、軍にとっては迷惑じゃからの』


『兵としては役立たぬのに、飯を食い、その姿を見るだけで士気にも影響する。自分もこうされたらどうしよう とな』


 なるほど、突拍子もないことに思えていたが、そう考えると理にかなった部分もあるのか。


 それでも何故、熊のぬいぐるみなのか。という疑問は残るのだが。


「では、このまま撃ち続ければ良いのか?私の魔力で、どれだけの兵をぬいぐるみにできようか?」


『そうじゃの、小半時(30分)も続ければ二万ほどの兵をぬいぐるみにできよう。それ以上は魔力切れが怖いから、城に戻るのがいいじゃろう』


 なるほど、丁度 天守での会議が再開される頃に戻れるわけか。城内を探索していた時間分、少し遅刻することになるが、仕方あるまい。


 それに見合った戦果は持ち帰れそうじゃからのう。


「よし!ならば今から小半時!全力で『魔法』を打ち込んでくれよう!!」


 私はそう言ってステッキを構え、徳川軍を熊のぬいぐるみにし続けた。


 徳川軍がみるみるぬいぐるみになっていく。これは愉快だな。もっとも気の毒でもあるが、戦に出てきたのだから、何をされようと文句は言えまい。


 そうしてしばらく魔法を打ち込み、もうすぐ小半時になろうかというときだった。


「お主か。妙な魔法を撃ちこんでいるのは」


 私の前の前に長身の、髪の長い女子があらわれた。


 身長は5尺と3寸(161㎝)ほどもあるか。女子としては高いほうだ。髪は頭のてっぺんで束ねていて、その先が腰の辺りまで垂れている。


 胸はかなり大きい方だな。


 だが、それより何よりこの女子の衣装は……!


「魔法少女……!?」


 女子の衣装は私によく似たものだ。大きな違いと言えば、肩に炎をかたどった肩当てがついていることと、葵の紋がついた胸当てをしていることか。


 後は、下履きの『スカート』とやらが空気を纏ったように、大きく膨らんでいる。


 『可愛さ』も保ったまま、私よりカッコいい衣装だな。


 私が、女子の衣装に見とれていると、クレオスが騒ぎ始めた。


「な、何じゃ!お主は!?いや、それよりも!何故、秀頼ちゃん以外に魔法少女がいるのじゃ!?」


「我は、徳川魔法鬼士の『表』 魔法侍・忠勝!!」


 忠勝だと!?ま、まさか徳川四天王の本多平八郎忠勝か!?


 だ、だが言うまでもなく、本田忠勝は男のはず。いや、それどころか確か……!


「四年前に亡くなったんじゃあ……?」


『ま、まさかわらわ以外にも、現世に手を貸している魔皇族がいるのか!?そ、それにこの魔力は、わらわより!!』


 そう言って、クレオスは私以上に狼狽している。


 しかし、クレオスの言うことが本当なら、母上だけでなく家康も魔の者と契約していることになる。


 で、ではまさか、父上亡きあと、家康が天下の実権を握ったのも、魔の者の助けがあってのことなのか?


 私とクレオスが混乱し、何も手を打てないでいるのを見て、忠勝は私たちに向けて槍を構えた。あれが有名な蜻蛉切(とんぼきり)か!!


「とっぴょろぎばいた!!」


 その言葉に応じて、槍に魔力がこもっていくのがわかる。まさか、今のが魔法の呪文で、蜻蛉切が忠勝にとってのスティックということか!?


 慌てて私も呪文を唱えようとする。だが私が使えるのは、敵をぬいぐるみにする魔法だけだ。それで、蜻蛉切の魔法を相殺できるのか?


 私が迷い行動できないでいると、忠勝の持つ蜻蛉切の先端が白く輝き始めた!


「終わりだ!!」


 そう叫び、忠勝は豪快に蜻蛉切を振り下ろした!!


 私が『あっ』と思った瞬間、私の目の前に元の大きさに戻ったクレオスがいた。


「く、クレオ……!!」


『逃げるんじゃ!!わらわの体は消滅しても、明日には再生できる!本体は魔界にあるからの!幻影を作り直すだけじゃ』


 そ、そうか。だったら逃げるしかなかろう。クレオスがこんな策をとるのは自分の魔力では敵わないと思ったからのはずだ。


 そう考えて、私は『空を飛ぶ』魔法の呪文を唱えた!


『おねがい ステッキさん ふ~わふわ』


 それによって、私の魔力がステッキに吸い込まれていき、ものすごいスピードで飛び始めた!!


「くっ……、だがステッキを通じてなら制御できる!!」


 私は大坂城の天守をイメージして全力で飛び続けた!

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