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第14話:秀頼、破滅の冥女と遊ぶ

【慶長20年(1615年)五月一日 秀頼 23歳 混沌界 ぬいぐるみハウス】


 私はまず部屋の内装に驚いた。混沌界(かおすえりあ)という名前からも、世界の結末を決める場であることからも、もっと様々なものが乱雑に混ざり合った場所だと予想していたのだが……。


 この部屋には、整然と棚にぬいぐるみが並べてある。床には西洋の絨毯が引いてあるな。


 それにしても何故ぬいぐるみなのだ?破滅の冥女はぬいぐるみ好きなのか?


 あるいは、私と破滅の冥女が仲良くなる上で、ぬいぐるみが役に立つということだろうか?共通の趣味というやつだ。


 私は警戒しながら、やつの『楽しい遊びの時間の始まり』という言葉に答えた。


「ああ、じっくり楽しもうではないか。時間はたっぷりありそうだからな」


 私はそう言って、まずは何から始めようかと考えた。仲良くなるには、まずは自己紹介からだろうか?


「私は、太閤・豊臣秀吉の息子、豊臣秀頼だ。いや、今は救世の聖女だったな。破滅の聖女よ。私はそなたと仲良くなるため、やってきたのだ」


「うん、話は大体聞いてるよ。あたしも、あなたのこと知りたいって思ってたの」


 破滅の冥女が私のことを知りたがっていた?どういうことだ?やつはこちらの状況を知りながら手を出してこなかったということか?


 それも不可解だが、世界を暗黒魔力に染めようとしている破滅の冥女が、救世の聖女のことを、いや私自身のことを知りたいなんておかしい。


「私の事をか?それは救世の聖女としてではなく、この豊臣秀頼のことが知りたいのか?」


 そう口にして、少し気恥ずかしさを感じた。私達は仲良くなるためにお互いを知りたがっている。目の前にいるのは美少女だ。嬉しくないはずもない。


 元々私は男だし、女子だとしても可愛い女子と仲良くなれるなら嬉しくて当然だろう。


「ええ、もちろんあなたの事をよ。あたし産まれてからずっと、お友達が欲しいって思ってたの!だから、あなたのことたくさん知って、あたしのことも知ってもらって、すごく仲良しになりたいわ!!」


 目の前の破滅の聖女は、ここに入ってくる前に想像していた、世界を滅ぼすおどろおどろしい存在とは似ても似つかぬ、好奇心旺盛で人懐っこい少女だった。


 油断はできぬが、ともかくこの調子なら意外と簡単に仲良くなれるかも知れぬ。


 さて、私のことを聞かれたのだから答えねばなるまい。何のことを話すかな?


 共通の話題がぬいぐるみのことならば、幸村の時にも話した子供の頃のことを話してみるか。


 ぬいぐるみ好きとしては興味をそそられる話のはずだ。


「あれはまだ私が5つの時だ……」


 私は、南蛮人からくまのぬいぐるみが献上されたこと、そのぬいぐるみが徳川軍を倒してくれる夢を見たこと。


 ぬいぐるみを持って江戸へ向かおうとしたこと、盗賊に襲われてぬいぐるみに助けを求めたが助けてくれなかったこと。


 その時はぬいぐるみへの興味を失ったが、魔法少女になってからはまた可愛いと思えるようになったことを話した。


「という訳で、相手をくまのぬいぐるみに変える私の魔法は、今では悪くないなと思っているのだ」


 破滅の冥女は、私の話を真剣に聞き入っていた。


 私の話に合わせて大げさに頷いたり、声を上げて喜んだり悲しんだりしていた。


 そして、話が終わると立ち上がって私の手を握って言った。


「素晴らしいわ!!」


「ふふ、あなたは心の底からぬいぐるみが好きなのね。だから一度は興味を失ってもまた好きになったんだわ」


 確かにぬいぐるみは好きだが、そこまでのめり込むほどでもないと思う。


 だが、体が女子になったためか、可愛いものに強く惹かれる気はしている。男の頃から興味があったぬいぐるみなら尚更だ。


「恐らくはそうなのだろうな。そうでなければ、相手をぬいぐるみにする魔法などに目覚めぬだろう」


 そこまで言って思い出した。ツクヨミの記憶によると、この破滅の冥女は高天原を丸ごと猫のぬいぐるみに変える魔法を使ったらしい。


 ぬいぐるみが好きでなければ、ぬいぐるみに変える魔法を覚えないのだとすると、破滅の冥女もまた、私以上にぬいぐるみが好きなはずだ。


「そうね。あたしもぬいぐるみが大好きよ。ぬいぐるみは消えたりしない。ずっと一緒にいてくれるもの」


 言葉に反して、破滅の冥女は悲しそうな顔をしている。何かぬいぐるみに関して辛い思い出でもあるのだろうか?


 立ち入った質問をして、話がこじれても困る。だが踏み入らないと深い友達になれないという気もするな。


「……答えたくなければ答えなくて良いのだが、その、何か……ぬいぐるみ以外の、誰かが消えたりしたことがあるのか?」


「あたしがさわったものはみんな、暗黒魔力になって消えちゃうの。数百年もしたら、また生き物に生まれ変わることもあるんだけど、あたしのことは覚えてないのよ」


 触った生き物が消える……?


 私はその話を聞いて絶望と憐れみを感じた。触れた相手が消えてしまったら、どんな思いになるか、想像もしたくない。


「産まれてすぐの頃はね。触った相手が消えちゃっても、何とも思わなかったの。でも、高天原を食べてからはね。すっごく寂しく感じるようになっちゃった」


 そうか。体内に暗黒魔力しかない内は、恨み・憎しみしか知らないせいで誰が死のうが当たり前にしか感じなかった訳か。


 それが光の魔力を取り入れたせいで、喜びや幸せという感情を理解できるようになった。


 生き物の死を憐れむ優しい気持ちも生まれたわけだ。


「だからね。すっごく考えたの。どうしたら、あたしが触っても消えちゃわないか。それで色々試したんだけど、魔法でぬいぐるみに変えちゃえば、あたしが触っても消えないってわかったの!」


 なるほど、それでぬいぐるみにする魔法を作ったのか?いや違うな。相手が消えるのを寂しいと感じ始めたのは高天原を食った後だと言っていた。


 ツクヨミの記憶では高天原を食う時も、猫のぬいぐるみにする魔法を使ったはずだ。


 つまり元々、ぬいぐるみにする魔法は知っていて、相手が消えない方法を試すうちに、その一環としてぬいぐるみにする魔法も試してみたというところか。


「じゃあ、ぬいぐるみにすることで、友達を作れたということか?」


「ううん、ぬいぐるみにしちゃうと、相手は動いたり喋ったりできない、ただのぬいぐるみになっちゃうの。ちゃんと生きてはいるんだけど、あたしが一方的にお話するだけじゃ、お友達とは言えないわよね」


 破滅の冥女の魔法では、ぬいぐるみになったものは動けないのか。ならば、この方法では友達を作ることはできぬな。


「でも、見たの!あなたの魔法は、ぬいぐるみにした人達がちゃんと、動いて話してたでしょ!あの魔法なら、消えないお友達を作れるんじゃないかしら?」


 確かに私の魔法なら、ぬいぐるみになったものが動けるはずだ。私の魔法でぬいぐるみになった徳川軍や私自身は自我を持って活動していたからな。


 だが、問題は私の魔法でぬいぐるみになった者が、触っても暗黒魔力に汚染されないかどうかだ。この混沌空間には、私と破滅の冥女しか生き物がいないので、試してみるという訳にもいかない。


「うーん、私の魔法でぬいぐるみにした者が動けるのは確かだが、触って消えぬとは言い切れぬな。特にお主の方が私より強いなら尚更だ」


 破滅の冥女の方が私より魔力が高いなら、私の光の魔力を帯びたぬいぐるみが、破滅の冥女の暗黒魔力で霧散してもおかしくはないだろう。


「やっぱりそうなのね……。じゃあ、決めた!あなたにずっとここにいてもらって、たった一人のお友達になってもらうしかないわ!」


 破滅の冥女の性格を考えれば、そうするのもやぶさかではない。この子とずっと一緒にいられたらきっと楽しいだろう。


 だが、この子を幸せにすると考えた場合、やはり私以外にも友達がいて欲しいと思ってしまう。触れれば相手が消えるなど、不幸でしかないからな。


 彼女がこれまで抱えてきた辛い気持ちを、何とかして無くしてやりたいのだ。


 だが、どうすれば触れても消えないようにできるだろう?


 そうだな……。触れられる相手が暗黒魔力を一切受け付けないようにすることができれば、消えぬかも知れぬが……そんなことができるだろうか?


「お主の体は暗黒魔力を常に帯びているのだな?相手に触る時、外に漏れ出ない様にはできないのか?」


「あたしも色々試してみたけど、どうコントロールしても、相手が消えちゃわないようにするのは無理みたい」


 何万年も試してみて無理なら、できる可能性は低いか。


 魔力を受け付けない方法……魔力を受け付けない方法……ん?


 今、私達がいるこの『混沌空間』は魔力を受け付けないのではなかったか?


 だとすれば、光と闇 二つが混ざった第三の魔力とやらを意図的に作ることができれば、暗黒魔力を無効化できるかも知れぬ。


 そのためには……話は最初に戻るわけだな。


 光の魔力と暗黒魔力を融合するのに必要なのは、私と破滅の冥女の友情という訳だ。


「破滅の冥女よ。そなたには名前があるのか?」


「えっ?急に何?もちろんあるよ。あたしの名前は……」


「『メイ』だよ!破滅の冥女のメイ!!」


 メイか。漢字で書けば『冥』だろうな。名前を知ることは仲良くなる上で必要だ。


「メイよ。私達は友情の力によって、お主が他人に触れても相手を消さずに済む方法を編み出さねばならぬ。その方法を共に考えよう」


「それなら簡単よ!仲良くなるには、一緒に遊べばいいのよ!」


 遊ぶ、という言葉に一瞬呆気にとられるが、そう言えば会って最初の言葉は『楽しい遊びの時間の始まり』だったな。


 メイは最初から私と遊ぶつもりで話していたのだ。


「あ、遊ぶ?ふ、ふむそれは一理ありそうだが何をして遊ぶのだ?」


「あたし達は二人共、ぬいぐるみが大好きなのよ!だったら、お人形遊びしかないでしょう!」


 人形遊びか。しかし人形遊びと言うのは、人形を抱いたり動かしたり話しかけたりして遊ぶものではないのか?二人でできるのだろうか?


「人形遊びとは具体的に何をするのだ?二人でするなら、人形を愛でるだけではあるまい」


「それはもちろん、ちゃんとお話を作ってお人形劇をするのよ。これまで時間があったから、いくつか台本を作ってあるわ!」


 そう言って、メイはぬいぐるみの棚から劇の台本を出してきた。


「これこれ!この通りに、ぬいぐるみを動かして台詞を喋るのよ!」


 ちょっと読んだ限り、内容はめちゃくちゃだが中々面白そうだ。


 こちらに遊びの案があるわけではないのだし、一度やってみるべきだろう。


 私達は棚からひよこや羊、ペンギンなどのぬいぐるみをかき集めてきて、さっそく劇を始めた。


「昔々、あるところに羊の国ウールランドという国がありました。ある日、ひよこの王『ピヨン』がウールランド『モコモ』姫を誘拐しました……」


 そうして二人で台本を元に話を進めて行き、ストーリーは佳境に突入した。


「ペンギンの勇者『アレクペンドリア』よ!よくぞここまで来た。だが、モコモ姫は渡さぬぞ!」


「僕はここまで四天王を倒し成長して来た!邪悪を倒す聖なる技を食らえ!」


「聖・ホーリー斬!」


「うう~!ダメだよ、魔王 負けちゃダメぇ!!」


 急にメイは台本にない台詞を叫んで、私の持っているペンギンのぬいぐるみを掴んだ。


「合体!!スーパーモード!!」


 メイはそう言ってひよこのぬいぐるみの上に、ペンギンのぬいぐるみを乗せた。


「勇者と魔王が合体すれば、絶対誰にも負けないよ!」


「勇者と魔王が合体したら、姫を助ける人がいなくなってしまうぞ?」


 世界を滅ぼす者もいなくなるのであれば良いが、魔王と勇者どちらの性格が強くでるかによって分かれるかも知れない。


「うーん、そっか。でも魔王と勇者が友達になれたらいいね!」


「ああ、それはそうだな。戦などなければその方がいいのだ」


 もし魔王と勇者が合体することができたら……。光の魔力と暗黒の魔力を混ぜる(すべ)があれば……。


 そう思っていた私はひよこのぬいぐるみの上に乗る、ペンギンのぬいぐるみを見て思いついた。


 合体、そうか!魔法でぬいぐるみを合体させることができれば!!


「メイよ。思いついたぞ!そなたが誰かを触っても、消さずに済む方法が!!」


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