第12話:ツクヨミ、兄弟愛を思い出し覚醒する!
【紀元前一万四千年 五月二十四日日 秀頼 23歳 魔界】
[クレオス視点]
そう、わらわ達は仲良しだった。今でもホントは仲良しなのだ。
楽しかったあの頃と何も変わらぬ。
そうじゃ。昔 子供の頃は楽しかった。
今でも思い出す。あのスケールの大きいかくれんぼを。
わらわはツクヨミの心を開かせるため、全魔力を持って空中にわらわ達兄弟の思い出を映し出した!
【クレオス達の思い出:かくれんぼ】
スサノオが鬼となり、わらわとツクヨミを探すことになった。
太陽の神であるわらわが、下手なところに隠れるとこの世から光が消えてしまう。
そうなると、隠れた場所を教えているようなものじゃ。じゃから、わらわは闇でなく光の中に身を隠すことを考えた。
木を隠すなら森と言うからな。
そう考えて、わらわは空に登り天の川の中に隠れた。
しかし、寂しがったツクヨミがわらわについてきてしまった。
それから何年かの時が過ぎ、いつまでもスサノオが探しに来ぬので、飽きたのと不安でツクヨミが泣き出してしまった。
その声は高天原まで響き渡り、すぐさまスサノオが探しにきた。
結局、わらわ達は見つかってしまったが、とても楽しいひと時であったな。
【クレオス達の思い出:かくれんぼ 終わり】
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
【クレオス達の思い出:魔界襲来】
そんな日々を幾千年続けた後、あの事件が起きた。
あの日、高天原は闇に包まれた。
世の中の神々は、わらわが岩戸に隠れたから世界に光が失われたと考えておるだろう。
じゃが、それはわらわが皆に真実を伝えぬため、スサノオと打った芝居にすぎぬ。
あの日、魔界に何かが起こった。そして魔界そのものが、高天原の1/3程を食った。
あの領域には天之御中主神様や高皇産霊神、神産巣日神といった原初の神が住まわれていた。
そして父上もあそこに住んでいた。
高天原の中でも特に強い光の魔力を持った神々が食われたことで、高天原の光の魔力は大きく失われて、魔界の暗黒魔力が高まった。
わらわ達、三貴士は高天原を守るため、かの存在を倒すべく話し合うことにした。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「良いか、あの存在はとてつもない暗黒魔力を持っておる。わらわ達が力を合わせねば、とても叶うまい」
「いや敵が力で来るっていうなら、こっちはそれ以上の力をぶつけるしかねえ!お前たちの力を俺に預けるんだ。そうすりゃ、あんなやつ一ひねりだぜ」
我ら兄弟の中で最も戦闘慣れしておるのはスサノオじゃ。こやつに力を集めること自体は賛成じゃが、あの存在を舐めてかかっているのが問題じゃな。
ここはツクヨミの頭を借りた方が良さそうじゃ。
「そうじゃのう、ツクヨミよ。スサノオに力を集めるとして何かやつを倒す策はないかの?」
「ええと、あの存在の情報が全くないからわからないけど、あいつは『世界そのもの』だと思う。だから『礎』があるはずだよ。それを光の魔力で染めなおすことができれば……」
世界には、その世界のエネルギー全てを統括する『礎』がある。それを魔力で染め上げることができれば、その世界のエネルギー全てを統括できるわけじゃ。
この高天原や現世の世界にも礎がある。
問題はあの膨大な暗黒魔力から、どうやって礎を見つけ出すかじゃが……。
「俺なら、二人の力を与えてもらえれば、天沼矛で暗黒魔力を弾きながら、礎に突貫できるはずだ」
そうじゃな。わらわやツクヨミではスピードとパワーが足りず、礎に辿り着く前に暗黒魔力に飲み込まれてしまうじゃろう。
相手が強大なだけに、他に打つ手はなさそうじゃ。
「わかった。それでは、二人の案をとるとしよう。スサノオよ、そなたにわらわとツクヨミの魔力を託す。何とか世界を救ってくれ、わらわは岩戸にこもり、この状況をごまかしておくからの」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
【魔界と戦いに行ったスサノオ】
[スサノオ視点]
俺は天沼矛を振り回し、暗黒魔力をかき分けて、魔界の礎を目指した。
外から見たやつは少女の姿だったが、中は四次元空間のようになっていて、その広さは宇宙や高天原より広そうだ。
それでも俺は、持ち前のスピードとパワーを活かして突き進み、ついに礎にたどり着いた!
その瞬間!
『ごろごろ ねこねこにゃ〜』
謎の呪文が聞こえたかと思うと、やつから黒く光る光線が発せられた。
避ける間も無く、迫ってくる光線に俺は何もできなかった。
だが突然目の前に惑星かと思うほど大きな岩が現れ、光線のほとんどはそれに当たった。
それでも光線の勢いは殺しきれず、俺はやつの中から弾き出された。
【岩戸にこもったクレオス】
[クレオス視点]
スサノオを送り出した後、わらわは世界が暗くなった原因を誤魔化すため、岩戸に籠っていた。
じゃが、違和感があった。岩戸の中の光の魔力が多いのじゃ。岩戸の中は本来真っ暗じゃから、ここにある光の魔力はわらわのものだけであるはずなのに?
「そなた、着いてきたのか。まるであの日のかくれんぼのようじゃな」
「姉さん、僕はもうそんなに子供じゃないよ。僕が着いてきたのは、スサノオが失敗した時の策を講じるためさ」
失敗した時の策か。そうじゃの、正直スサノオ一人で何とかなる可能性は低いじゃろうて、もしもの時の対策は必要じゃ。
この高天原全てが滅びてしまわぬためにはの。
「しかしスサノオが敗れては、もはやあの存在を倒せるものなどおらぬぞ?どう対策するのじゃ?」
「この岩戸を閉じている岩を、スサノオに向かって投げてもらうんだ。射角の細かい調整は僕がレーザーでする。そうすれば、スサノオがまともに暗黒魔力を浴びるのを防げるはずだ」
そう言えば、わらわがここに籠る前にタヂカラオに声をかけていたようじゃの。わらわが二度と籠れぬよう、岩を指示する方へ投げてくれと言っておったか。
「なるほど、巨大岩を壁にしてスサノオを庇うか。じゃが、やつはスサノオだけを攻撃するわけではあるまい?少なくとも、そなたとわらわには同時に攻撃を仕掛けてくるのではないか?」
「それは……」
「僕の残った魔力を全て姉さんに預けて、八咫鏡で攻撃を跳ね返すしかないね」
確かにそれをやれば、わらわとツクヨミは助かるじゃろうが……。
「いくら八咫鏡でも、相手はわらわ達の数千倍の魔力があるのじゃぞ!ほとんどの暗黒魔力は跳ね返せず周囲に四散してしまうじゃろう!!」
そうすれば鏡の側にいるわらわ達は助かっても、高天原そのものが暗黒魔力に覆われてしまう。
「でも、それしか僕達が生き残る方法はないよ。そして僕達が生き残らないと、汚染された高天原を再生できる神がいなくなっちゃうでしょ?」
「じゃが、攻撃をしのいだあとはどうするのじゃ?もう高天原に住むことはできまい」
「三種の神器に宿って、地上に降りるんだ。そして、地上に繋がる天道を閉じれば、やつは僕達に手を出せなくなる」
なるほど、いくらやつでも閉じた天道を開くことはできぬはずじゃ。それに、魔界から新たに地上への道を開こうと思えば、地上側からしか開けないはず。
いずれは、地上へ侵攻してくることもあろうが、かなりの時間が稼げそうじゃな。
それができるなら、あの方法を使えばやつを倒せるかもしれぬぞ。
わらわがそう思ったとき、スサノオの近くの暗黒魔力に大きな変化が起きたのを感じた!
わらわは岩戸から飛び出す!それに応じてタヂカラオが天に向かって大岩を投げた!!
「ここだ!」
そう叫んでツクヨミは3発のレーザーを出して、大岩の方向を調整する。
同じタイミングでわらわ達の方にも、暗黒の光線が飛んできた。
わらわは背中の鏡を外して、盾のようにして前に構えた!
光線のごく一部が光の魔力に変えられて、反射される!じゃがほとんどの暗黒魔力は飛び散って高天原を汚染していく……。
わらわが自分の力のなさを不甲斐なく思っていると、魔界の方からスサノオが飛ばされてきた。
どっしゃーーーん!!
近くの地面に墜落したスサノオには、猫耳と尻尾が生えておった!
「お、おぬし、なんじゃ!その耳と尻尾は!!」
「あ、ああ。どうやらやつの魔法らしいぜ。周りを見て見ろ」
そう言われて周囲を見ると高天原の神々や大地、木々がすべて黒い猫のぬいぐるみに変えられておる。
浄化すれば元に戻るのかも知れぬが、わらわではやつの強大な暗黒魔力にはまるで敵わぬ。やはり、あの方法しかあるまい。
「スサノオよ。ツクヨミよ。わらわにはやつを倒す秘策があるぞ」
「やつを倒す秘策?だってやつは僕達の数千倍の魔力を持ってるんだよ?どんな秘策があるっていうの?」
「やつが数千倍の力を持っているなら、こちらは数千年かけてエネルギーを溜めれば良いのじゃ」
「幸い、ツクヨミが提案してくれた三種の神器はエネルギーを溜めることに長けておる。神器に宿り、数千年間 神器にエネルギーを溜め続けるのじゃ」
「だが、それじゃ一発勝負になっちまうんじゃねえか?数千年かけて溜めたエネルギーをあっさり避けられちまうかも知れねえ」
確かにエネルギーを使って攻撃するのなら、その懸念があるじゃろうな。
「そこは計算済みじゃ。わらわ達、高天原の神が最も得意とする技術『神産み』を、使えば良い」
「神産みを?じゃあ、数千年かけて溜めたエネルギーで、新たな神を生み出すの?」
わらわ達は、剣や勾玉といった神器を口に含むことで神を産む能力がある。
我らが宿った三つの神器と、神を産む誰かがいれば世界を救う最強の神『救世の聖女』を生み出せるじゃろう。
問題は我らが神器の中にいては、生み出す者がいないことじゃな。
生き残った神を地上に下ろすにしても、数千年後の状況がまるでわからぬのでは頼りようがない。
つまり神でなくとも救世の聖女を生み出せる工夫が必要か。
とりあえず、わらわの孫であるニニギを地上に降ろすとして、数千年のうちに薄れるであろう血を、神器のエネルギーと特殊な祝詞で補うしかあるまい。
1.ニニギの血を引いていること
2.神器を全て集める
3.ニニギに伝えた祝詞を読み上げる
エネルギーが十分で、この3つの条件が揃えば『救世の聖女』が産まれるよう、神器に魔法をかければいい訳じゃな。
肝心の1や3がちょっと不安じゃが、我らは神器の中にいてもテレパシーで地上の人間と話せるからの。
数千年後のニニギの子孫に直接連絡を取ればなんとかしてくれるじゃろう。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
わらわは、『救世の聖女』を産み出すための計画を二人に説明した。
「それなら多分、やつを倒せる聖女を生み出すことができるだろうね。それに僕達も加勢できる」
「それしかねえようだな。数千年も神器の中にいたら体が鈍りそうだが」
「よし!決定じゃ!さっそくニニギとも連絡を取り、一緒に地上に降りるぞ!」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
【ツクヨミの精神世界】
[秀頼視点]
俺達三人の前に浮かんでいた、ツクヨミの思い出の映像が消えた。
「ツクヨミよ!思い出したか!あの日の兄弟愛を!三人力を合わせ、『魔界』を倒し世界を救うと誓ったじゃろう!」
「あ、あ……ああーーーーっ!」
「僕は……僕は何に囚われていたんだ?いや、そうだ。だがスサノオが僕を殺そうと……!!」
「違うぞ!!」
その時、魔界全体にスサノオの声が響き渡った。
「よく思い出してみろ!あの日のことを!俺達は何を話し合った!どうやって魔界を倒すことにしたんだ!」
ここはツクヨミの精神世界だ。ツクヨミに吸収されたというスサノオがいたとしても不思議ではない。
それとも兄弟愛を思い出したツクヨミが、仮想のスサノオをイメージしているのだろうか?
「た、魂は……暗黒魔力に染められない……」
「ま、魔界の中に光の魔力を持った魂がいれば……魔界の暗黒魔力はわずかに弱体化する……」
「そうだ!救世の聖女が生まれた後、俺たちに出来ることはそれだけだと考えて、お前を魔界に送り込んだんだろ!」
「そして俺が再び魔道を開き、俺もそちらに行くことで、さらに魔界を弱体化させるはずだった」
その言葉を聞いて、クレオスが重々しく呟いた。
「じゃが、魂以外を完全に暗黒魔力に飲まれていたツクヨミは怒りに任せてスサノオを吸収した」
二つの光の魂が融合したわけだから、魔界の弱体化という目的は果たしているとも言えるのだろうが……。
ツクヨミが家康を使役して魔道を開かせ、現世に戻ってきてしまったことで、二人の企みは完全に破れてしまったわけか。
「今からでも遅くねえ!正気を取り戻すんだ!俺を吸収した今のお前なら、少しは聖女の戦いの役に立つだろう!」
「正気を……姉さんもスサノオも僕に悪意は無かった。守り、共に戦おうとしていた」
周りの暗黒魔力が、光の魔力に変わっていく!
ツクヨミの心の闇が晴れることで、魂の持つ光の魔力が、体を覆う暗黒魔力を浄化し始めたのか!
そのまま周囲の光の魔力は広がっていき、浄化が完了すると俺達は精神世界からはじき出された。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
【慶長20年(1615年)五月一日 秀頼 23歳 大坂城 地下室『降魔大神宮』】
どうやら元の大坂城に戻って来たようだな。
目の前ではツクヨミ……魔皇帝クレカオスが今も発光を続けている。
そして、発光が止むとそこには頭に輝く輪っかを乗せ、白い翼の生えた男が立っていた。
「我が名は聖皇帝『アケカオス』!混沌を切り開き、秩序を作り出す新時代の神だ!!」