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第10話:秀頼とクレオス、絆によって天道を開く

【慶長20年(1615年)五月一日 秀頼 23歳 大坂城 地下室『降魔大神宮』】


 クレカオスが現世に現れた。感じられる魔力は忠勝や半蔵の比ではない。


 まさに、この世自体を飲み込めそうなほど巨大なものだ。私がどう逆立ちしても勝てるとは思えぬ。


 それにしても妙なことを言ったな。『ようやく現世に戻れた』?


 こやつは元々現世にいて、何らかの原因で魔界に行っていたということか?


「さぁて、貴様が聖女だな。さっそく殺させてもらうぜ」


「聖女だと?それは私の事か?そもそも魔皇族や魔法少女とは何なのだ?」


「なぁに、これから死ぬ奴に教える義理もねえさ」


 クレオカオスが手をかざすと、影・秀頼と影・又兵衛の体がどんどん黒く染まっていき、どろどろと溶けて、地面に染みこんでいった。


「ふ、二人に何をした!?」


「あの二人は影さ。影は光があって初めて生まれる。全てが暗黒に覆われれば影などできねえからな」


 家康が、あの二人は私の魔力から生まれたと言っていた。


 つまり、クレカオスは暗黒魔力で覆うことで、私の魔力を押しつぶし、二人を消したということか。


 二人は完全に死んでしまったのだろうか?もしかしたら、もう一度聖杯に触れれば出てくるかも知れないが……。


 それにはクレカオスを倒さねばなるまい。私がここで死んでは、影二人の復活もない。


 また一つ、勝たなければいけない理由ができたというわけだな。


「次はお前だ。光の聖女よ、数千年の屈辱を果たし、今こそ俺が世界の王になる時が来たのだ!!」


『闇太陽』



【闇太陽】

 全世界をあまねく暗黒光で照らす闇の太陽。暗黒光を浴びた生き物は魔物となる。人間は魔族となる。大地や水を暗黒魔力で汚染し、汚染が地球のコアまで達すると、地球は新たな闇太陽となり周辺の星を暗黒光で照らすことになる。



「世界よ!暗黒に染まれ、この俺を否定する者共など消えてしまえ!」


『秀頼ちゃん!』


 目の前にクレオスが出てきて、私を庇った。確かこの姿は化身であって、本体は魔界にあると言っていたな。


『ひ、秀頼ちゃん。こ、このまま世界が暗黒に染まったら、わらわは世界に干渉できなくなるのじゃ』


『そ、その前にわらわとの絆を……天照紋を覚醒させて、天道を開けば……』


「出てきたな、アマテラス!俺は貴様を倒す日を、ずっと夢見てきたのだ!」


『ツクヨミよ。そんな連れないことを言うではない。わらわ達は仲良し姉弟ではないか』


「ちょ、ちょっと待て!話についていけぬ!ゆっくり話してくれ!!」


 クレオスが天照大御神だと!?それにクレカオスは弟の月読?だとすれば素戔嗚(スサノオ)もどこかにいるのか?


 い、いやそもそも神話の神々が実際にいるなど……いや、魔法少女の力を考えれば、いたとしても不思議ではないが……。


「ならば聞かせてくれ、ツクヨミ(のみこと)はどうして世界を暗黒に染めようとしているのだ。そして天照大御神……いや、クレオスでいいか。クレオスは我らをどう利用してそれを防ごうとしている?」


「決まってるだろう!俺から夜の世界を取り上げた、アマテラスへの復讐だ!そして、俺を受け入れる世界を創る必要がある!」


「魔界ではダメなのか?」


 ツクヨミは魔界の皇帝なのだ。力づくにしろ魔界の代表になったのであれば、魔界の者達がツクヨミを受け入れたと言っても良いのではないだろうか?


「元々、夜の世界は俺のものなんだ。それをスサノオやアマテラスが奪った!だから、俺は元通り奪い返しに来ただけだ」


 なるほど。イザナギ命から託された土地を、姉や弟に奪われたので奪い返しに来た……。


 それだとアマテラスの領域である昼の世界まで侵略する名分にならぬと思うが、まあいいだろう。


「と言ってるが、クレオスは夜の世界を奪ったのか?」


『スサノオのやつが、ツクヨミを魔界に封じ込めた後、めんどくさいと言って夜の世界を放棄したのじゃ!仕方ないからわらわが管理しているに過ぎん!』


 だとすれば、恨むべきはスサノオという気がするが……。スサノオはどうなったんだ?


「スサノオはやつの使った術式を応用して、家康が魔界に封印した。そして魔界に来てしまえばこちらのものだ。きちんと、暗黒魔力によって吸収させてもらったぞ」


『なんじゃと!自分の弟まで手にかけたのか!』


 スサノオが吸収されたことをクレオスは知らなかったのか。しかし吸収ということはつまり、今のツクヨミはイザナギの子である三貴子(さんきし)の内、二柱(ふたはしら)の力を得ていると言うことか!


 こちらはクレオスの力を完全には引き出せていないというのに……。


「さあ!今こそ三貴子全ての力を俺に集める時だ。アマテラスさえ吸収すれば、俺は過去にも未来にも存在しない究極の神になる!」


「そうなれば、誰も俺を侮ることも無視することもできんだろう!」


 侮る……?ツクヨミは侮られることを恐れているのか?確かに古事記や日本書紀でツクヨミの出番は少ないが……。


「いくぞ、これで止めだ!暗黒魔力の真骨頂『吸収』能力を見せてやる」


「魔食!!」



【魔食】


 暗黒魔力を巨大な口の形にして、相手を食らう。相手の魔力と肉体を暗黒魔力に変えて自らに取り込む。



 クレカオスの膨大な暗黒魔力が、どす黒い口を作り出しクレオスに向かってきた。今でも暗黒魔力に取り込まれないように必死だというのに、新たな攻撃がくれば対処のしようがないぞ!


『ひ、秀頼ちゃん!我らは共に戦ってきた!すでに我らの間に絆はある!だからここですべきは確認じゃ!』


『すでに秀頼ちゃんの中にわらわに対する絆が芽生えている、秀頼ちゃんがそれを自覚すれば、天道が開く!』


 私の中にある、クレオスへの絆を自覚する?


 そう言われて、私はこれまでの戦いに想いを馳せる。徳川軍と戦う時も、幸村達と試練を越える時も、いつもいつでも、この戦いの中ではいつも隣にクレオスがいた。


 最初は奇妙な女だと思った。私を女にして変な呪文を唱えさせ喜んでいたのだからな。


 だが、忠勝との戦いで私を守ってくれたし、幸村達との試練では、我等を見守りながら本当に行き詰まった時には助言をくれた。


 そして今また、私を庇って暗黒魔力に耐えている。


 そうかと思えば、折を見て私をからかう。恥ずかしい言葉も言わせる。だが、それも悪くない。


 そうか、いうなれば、クレオスは姉のような存在なのか。時に可愛がり時にいがみあい、側で弟を見守る姉のような存在だ。


 恥ずかしがらせて喜んでいる姿もいかにも姉らしい。


 確かに私は、クレオスとずっと側にいて、共に戦うことでやつに姉弟や家族のような安心感と信頼を感じていたのか


 だが、クレオスはどうなのだ?私のことをどう思っている?


 強い信頼があるのは確かだが、私はいまいちやつの想いに触れてこなかった。


 信頼されてはいる……と思う。だが聞きたい、確認したいのだ。やつの口から言葉として!


「クレオス!聞かせてくれ!お前は私のことをどう思っているのだ!」


「お前の想いを私にぶつけ、絆を感じとらせてくれ!」


「お前と私の想いをぶつけ合い、絆を完全なものにするのだ!」


 私の言葉に答えて、クレオスは私の方を振り向き、にっこりと笑って言った。


『わ、わらわは、可愛いものが好きな癖に恥ずかしがって認めない秀頼ちゃんが……』


『どんな苦難に遭っても、皆との絆を深めて戦う秀頼ちゃんが……』


『変な呪文を、恥ずかしがりながらも唱えてくれる秀頼ちゃんが……』


『本当に、本当に!大好きなんじゃ!!』


『そんな秀頼ちゃんと、一緒に入れて共に戦えることが、とてつもなく楽しいんじゃああああ!!!』


 クレオスの言葉が私の心に響く。やっぱり私を恥ずかしがらせて面白がっていたのかと思わないでもないが、やはり私の感じていた姉弟のような安心感、信頼をクレオスも感じていたのだ!


 私はクレオスを後ろから抱きしめた。


「クレオス!見えたぞ、私たちの絆が!今こそ暗黒魔力とやらを押し返そう!」


 その言葉と共に、私の胸元で天照紋が輝き始める。


 そしてクレカオスの開いた魔道と同じように、天照紋から白い円が出てきた。


 その中から大量の魔力が私に流れ込む!


 円が大きく広がり、中から背中に光り輝く鏡を背負った、巫女服の女性が出てきた。


「待たせたの!天照大御神、現世に完全復活じゃ!!」


 その言葉と同時に私が抱きしめていたクレオスが消えていく。本体が現れると、幻影は消えるらしいな。


「秀頼ちゃん!これを使うのじゃ!!」


 そう言ってクレオスは、長い槍のようなものを投げてきた。


 私は慌てて受け取る。危ない、刺さったらどうするんだ。


「それは、かつて父上と母上が混沌をかき混ぜ、日本列島を作り出した天沼矛(あめのぬぼこ)じゃ!」


「それを使って、黄昏の混沌、『暮・混沌(クレ・カオス)』をかき混ぜ、暗黒魔力と元のツクヨミを分離するのじゃ!」


 そ、そうか!ツクヨミは悪に魅入られたことで暗黒魔力を手に入れた。その暗黒魔力を分離してしまえば、元のツクヨミが残る!


 もちろん性格は悪のままかも知れぬが、力を削ぐことはできるはずだ。


「力を失えば、いくらわらわに恨みがあっても戦えまい!」


 理屈は分かるのだが、クレカオスは形を持った生き物だぞ?水をかき混ぜるのとは訳が違うだろう。


 この矛を突き刺したとして、本当にかき混ぜることなどできるのか?


「早くするのじゃ!今はわらわが抑えておるが、世界そのものが暗黒に飲み込まれれば、取り返しがつかなくなるのじゃぞ!」


 そうだったな。クレオスは私との絆によって、神話での天照大御神より強くなっているのだろうが、そもそもツクヨミには二柱分の力があるのだ。


 確かにモタモタしていては、世界が暗黒に覆われてしまうだろう。


 クレオスがクレカオスに飛びかかり、後ろから歯がいじめにした!


「これならば、狙いやすいじゃろう!早くせえ!」


「だ、だがその状態ではクレオスの体も貫いてしまうだろう!」


「心配するでないわ!光の武器である天沼矛は、太陽神であるわらわを貫けぬ!安心して攻撃するのじゃ!」


「分かった!行くぞーー!」


 ずぶっ!


 天沼矛は、ほとんど抵抗なくクレカオスに突き刺さった!


 確かに、生き物というよりまるで水に矛を突き刺したような感触だ。


「よし!突き刺したら、ゆっくりかき混ぜるのじゃ。そして暗黒魔力をかき分け、月詠の本体を探してくれ」


 そうは言われても、どうすればいいのかわからぬのだが……。


 そう思っていたが、しばらくかき混ぜる内に、私が使っている魔力と異なる波長のものが暗黒魔力で、逆に私に近いものがツクヨミの魔力なのだろうと分かった。


 本来のツクヨミの魔力は私に、つまり天照大御神であるクレオスに近い波長なのだろう。


 暗黒魔力をより分け、クレカオスの体の中心へと矛を進めていく……。


 中心に強い光を感じる!これが太陽(あまてらす)と対をなす月の貴子、ツクヨミの魔力か。


 天沼矛がツクヨミの魔力に触れた瞬間、クレオスの背中の鏡が大きく輝きを増した!!


「映し出せ!ツクヨミの想い!その葛藤を」


 クレオスのその言葉と共に、クレカオスの中にあったツクヨミの魔力が強く発光した。


 そして私とクレオスは、その光の中に吸い込まれた。


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