表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

87/88

086 事後処理②

「そんなことはどうでも良いのだ! 今は――」


 カルム卿が叫ぶが、またもグガイン中将の重く響く声にかき消される。


「ほう? どうでも良いと。想定外の敵国の同盟によって我が帝国が散々煮え湯を飲まされたケルン戦線の勝利を、どうでも良いと貴殿はおっしゃるのかな?」

「うぐ……それとこれとは……」

「関係ないかね? いいや、関係あるのだ。大いに関係あるのだよ」


 グガイン中将が再びたっぷりと溜めを作ってから、静かにこう言った。


「その男は、セレスティア共和国の四将を一人で全て屠ったのだぞ?」

「なっ⁉」

「いや報告は上がっていたぞ」

「だがグガイン中将直々に認められるなど……!」

「それほどまでなのか、この逸材は……」


 周囲の貴族たちの空気が一気に変わった。

 当然ながら俺の二階級昇格の件は帝都にまで伝わってはいる。その理由も一緒にだ。

 だが多くの人間はその功績を懐疑的に見ていたのだ。戦況不利のケルン戦線をもり立てるための方便とすら疑う声があった。

 それを今、ケルン戦線の司令官であるグガイン中将が自ら名指しで認めた。この意味は貴族たちにとって大きかったのだろう。


「ぐ……だが! 帝国の掟を……」

「ふむ……それを破ったのは私の知る限りこの男だけではなかろう。なぁ? カルム卿よ」

「なっ……」


 グガイン中将の脅し。

 それがブラフであったとしても、これほどまでに大きな効果を持つ言葉はこの場になかっただろう。

 バレたくないことがあるのはカルム卿もまた、同じなのだ。

 皇帝に黙って王国と繋がり、戦争の火種を持ち込んでいたという事実はカルム卿にとってどうしてもバレてはならないことだった。

 俺が相手ならばよかっただろう。俺自身バレてはいけない敵国への手助けがあったのだ。

 こうしてグガイン中将がこなければ俺は帝国軍人としての身分を剥奪はされただろうが、命までは取られなかっただろう。

 だが、グガイン中将が現れたことでカルム卿はその矛を収めなければならなくなる。

 俺が軍人を続けられる範囲で……。


「だが……無罪放免では示しがつかんぞ」


 カルム卿のその言葉は、事実上の敗北宣言だった。


「ふむ。ではこれでどうかな? この男はいきなり二階級も特進したのだ。生意気なことだ。今回の一件を受けて降格、もう一度やり直させれば良いだろう」


 グガイン中将もこの落とし所を予め用意していたのであろう。


 結局グガイン中将の言う通り、俺は降格処分のみで済まされることになる。

 むしろグガイン中将が直々に認めた軍人として、降格しながら注目度を高める結果になったかもしれない。

 一方カルム卿はその場でこそ何か追求されることはなかったものの、含みのあるグガイン中将のブラフのせいでその火消しに大いに時間と金を割かざるを得なくなった。


 礼を告げようとしたグガイン中将は俺が自由になった頃にはすでに、別の戦場へ旅立った後だった。


これで一章完結

WEB版は結構危なっかしい矛盾点とか色々あったんですが書籍版は諸々修正しております

引き続きよろしくおねがいしますー!


広告の下の☆☆☆☆☆からぜひ応援お願いします

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 再開してくれて良かったです。 書籍版も楽しみです。
[良い点] グガイン中将、あんた…良い奴だな!(๑•̀⌄ー́๑)bグッ
[一言] ありがとう中将!また会う日まで!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ