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082 覚悟【後半キリク視点】

「って、意外と早いぞ?!」


 姫様の気配を探知魔法で追いかけながら俺も庭を目指す。

 だが思った以上に姫様の移動は早かった。


 ギリギリのタイミング。

 こちらがようやく外に出てバルコニーを見上げられる位置に着いたところで、姫様が現れる。


 一瞬あっけに取られた民衆軍レジスタンス

 民衆軍レジスタンスが動き出すよりも早く、姫様の声が庭園に響き渡った。


「お聞きなさい。私の名はキリク。キリク=ヴィ=アスレリタあなた達の探し求める存在はここよ!」


 ◇キリク視点


 唯一の光明であった逃走ルートは、それを知る人間が消えたことで潰えた。

 馬があっても逃げ場がない。

 これまでろくに野外での活動などしていない自分では、闇雲に馬に乗って逃げてもただ野垂れ死ぬだけであることは容易に想像ができた。


「だったら……」


 どうせ死ぬのだ。

 だったらこの命に価値があるうちに使ったほうがよっぽど有意義だ。


 民衆軍レジスタンスの狙いは私。

 冷静な判断をするなら、国王との交渉カードにするのだろうが、外の気配を見て察してしまったのだ。

 私を殺すことが目的になっている人間が、その中に少なからず存在していることを。


「逃げれば死ぬだけ……だったらもう、やるしかない」


 それはかなり、無茶苦茶でどうしようもない覚悟だった。

 もしかすると退路が完全に防がれたことで何かが吹っ切れたのかもしれないし、あるいは……。


「さっきの一瞬、ちょっと思い出しただけで……」


 そう。

 失って気付いた大きすぎる存在。

 何よりも求めたあの万能執事のことを思うだけで、勇気のようなものをもらったのかもしれない。


「蛮勇になるかどうかは、私次第」


 一世一代の大勝負だ。

 民衆軍レジスタンスの思惑はバラバラ。

 私を見て、私を利用したい側と、殺したい側、どちらが先に動くか。


「利用価値を、しっかりと知らしめる!」


 かつての自分では考えもしなかったことだった。

 私は存在するだけで価値のある存在だった。そうやって生まれてきたし、そうやって育てられてきたのだ。

 なにがあろうと、なにもなかろうと、ただそこにいるだけで価値を持つ。それが王家の人間だと教わってきたのだ。


 だが価値というのは、生まれだけで決まるはずもなかった。

 気付いてはいたのだ。リィトが活躍するたびに私に言い寄る人間が増えるのを見て、あるいはリィトに直接媚を売り、仕事を押し付け始めた者たちを見て。


 それでもあの頃は、自分の価値は不変であると信じて疑わなかった。

 その幻想が崩れ去ったのは、リィトを失ってからだ。

 リィトがいなくなった分、その不足を補うため、価値のある自分のために皆が必死になると思っていた。

 実際のところ、最初のうちはそうだったのだと思う。


 だが今はどうだ。

 私のために動く人間はもういない。

 私に価値を感じる人間ももういない。

 私を守る人間などどこにもいなくなったのだ。


「この状況を招いたのは私……」


 それでも私は王家の人間。生きて価値を知らしめるのだ。

 その先のことなどもはやどうでも良かった。

 もうこの先、自分の一番の願いは叶えられることがないのだから。


「最後に気配だけでも感じたのが、幸せだったかもしれないわね」


 感傷に浸りながらも足取りはどこか軽かった。

 バルコニーは目の前。

 なにもない私にできるのは、名を名乗ることだけだ。


「お聞きなさい。私の名はキリク。キリク=ヴィ=アスレリタあなた達の探し求める存在はここよ!」

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