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079 アレリアの屋敷②

「念の為戦える人間を集めて、それから馬の準備を」

「はっ……」


 頼りない執事代理に一応の指示は飛ばす。

 援軍が来るとすれば国王が気を回してはやくに騎士団なりを警護として派遣してきた場合くらい。

 いやそんな希望的観測に頼るわけにもいかないだろう。奇跡のようなものだ、援軍が来るなどというのは。


「自力で戦う……いえ、逃げなくては……」


 だがキリクの頭は整理が追いつかないでいる。

 逃げるにしても当てがないのだ。

 王国の最西の街であるアレリア。この地を治める辺境伯領は遠く、山岳越えを考えるととてもではないがキリク自身が移動に耐えられない。

 アレリアに拠点を置く貴族もいないことはないが、数百にまで膨れ上がった暴徒から匿ってもらうような余裕はない。


「王都は……無理でしょうね」


 唯一街道が続く王都への道は当然塞がれているだろう。


「降伏も視野に……父様には面倒をかけるわね……」


 傍若無人な姫の姿はもはやそこにはなかった。

 キリクは自分自身の価値をよく理解していた。

 冷静に考えるならば、暴徒たちにとってキリクは生かして使うべき有力なカードなのだ。

 それがこんな辺境の地にぽつんと一人孤立した状況など、襲うなという方が難しいのだ。


「本来は軍が動いたんでしょうけど……」


 もはや軍が王都以外の場所で機能しているとはキリクも思っていない。

 リィトの影響で、地方の軍は何もすることがなくなっていたのだ。その堕落した生活に慣らされてきたものたちが今更しっかり働くのは難しいことはキリクにも理解できた。


 そうなるともう、キリクに助かる道はない。

 いや厳密には今回生命を奪われることはないにしても、どの道キリクにとってここで捕まることは人生の終了を意味しているのだ。


「ちょっと戦って私の身柄を……ってところかしら」


 だが現実的な解決策はそれしかないだろう。

 戦う戦力も逃げる当てもないのだ。

 捕まれば父である国王が動く。

 民衆軍レジスタンスに一時的な飴を与えて、自分は王城で自由のない生活を強いられる。

 場合によってはこれによって結婚相手を決められるかもしれないし、もっとひどい場合は教会あたりに送られて余生を過ごすことになる。


「いずれにしてももう、会えないわね……」


 王女キリクは最期を覚悟する。

 最期に思い浮かべるのはあの有能すぎる執事のこと。


「馬鹿ね……考えても仕方ないのに」


 役に立たない後悔の念を胸に、キリクはボルテージの上がる民衆軍レジスタンスの方を見つめていた。

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