077 王国に向けて
「一体何の真似だ! ギーク!」
「父上。王国への介入、あれは危険です」
「貴様父に歯向かうというのか!」
「聞けば下賤な民、その中でも更に下劣で過激な組織と手を組んでいるとか……」
民衆軍のことか。
「貴様……ああそうか。お前はあの王女を好いておったな」
「なっ!?」
カルム卿の言葉に動揺したギークが魔法人形との鍔迫り合いを解いて一瞬よろける。
「ここ数年はともかく、幼い頃は食事会にも連れ出してやったものだ。まさかその頃から……」
動揺するギークにカルム卿が続ける。
「ギーク、あの女は殺させぬ。むしろこのことを盾にとればお前のものにできるぞ? 悪い話ではなかろう」
カルム卿の言葉に一瞬ギークが立ち止まる。
ニヤリと笑うカルム卿に対して、ギークはこう言った。
「父上は魔法人形を過信していらっしゃる。あれを送り込んだのでは、もはや王女もあの連中も無事ではすみません」
「はっ。何を言うかと思えば……。あれは完璧だ。実戦に投入していないのはテストが済んでいないからではない。強すぎるからだ」
「父上……」
「ふんっ。今に思い知る。あの忌々しいグガインも、帝国の軍部もこの私を認めざるを得んようになるだろう」
カルム卿の余裕。
だが魔法人形に関する調査を考えると、ギークの言い分は正しいだろう。あの魔法人形は制御する人間が近くにいてこそ力を発揮する。そうでない場合は……。
「暴走してしまえば領土侵犯に問題が発展します。王国と勝手に戦争を始めたということになってしまいます!」
「ええいっやかましいわ! お前の意見など聞いてはおらぬ! まとめて片付けて――」
「おらぁっ!」
カルム卿の言葉を遮ったのはアウェンだった。
アウェンの加勢によりギークも体制を立て直す。
「よくわかんねえがやることがあるなら行けリルト! ここは俺がなんとかしてやらぁ!」
アウェンの言葉を受けその場を離れることを決める。
「逃がすと思うか?」
カルム卿が指示を飛ばし、俺のもとに再び魔法人形が襲いかかる。
だが──
「さっさと行け! アレリアの屋敷だ!」
再びギークがその魔法人形を弾き飛ばした。
「任せる……!」
二人に甘えるとしよう。
すぐに離脱する。
「待て! くそ……貴様ら! どうなっても知らんぞ!」
カルム卿の怒声を背に受けながら、森を駆け抜ける。
「今更追いかけたところでどうにもならんわ! あちらにはこいつらより性能の良いものを貸してやったのだからな!」
背中ごしに聞こえたカルム卿の言葉を受けてさらに速度を早めながら王国を目指した。
「姫様……」
間に合ってくれと祈りながら。