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046 交錯【キリク視点】

「ケルン戦線⁉ どこよそれ! 情報を揃えてみせなさい!」


 アスレリタ王国、残されたキリク王女の怒声が今日も屋敷に響いていた。

 王女の居住は城から離れた広大な屋敷。ここにはキリクより偉いものが来ることはない。


「こちらです。帝国軍が最も苦戦している地域の一つでして……」

「苦戦……? なるほど、リィトの実力をわかっているやつが帝国にもいるということかしら」


 キリク王女のこの言葉に、周囲の人間は呆れることしかできない。

 帝国軍にとってもはやこの地は救いようのない死地だ。そこに新兵を送り込んだということはつまり、事実上の処刑にも等しい。

 王国とのつながりを疑われ、問題を起こす前に戦場で散らせようという魂胆を、王女に仕えるものたちはひしひしと感じ取っている。


「それで、どうして手紙の一つも返ってこないのかしら。あいつのことなんだからどれだけ忙しくてもそのくらいのことは造作なく行うでしょう?」


 キリクの中で、リィトの所在が判明した時点で、おおよそその心中は安心感が占めるようになっていたのだ。

 例えるなら飼い犬が少し遠くで遊んでいるだけ。リードはつないであるのだから、いつでも連れ戻せる。

 そんな心持ちで動向を観察していた。


「戦地へ赴くとなればなかなか連絡手段も限られてくるかと……」

「そのくらいあいつならなんとかするでしょう! あんたたちがサボってるから来ないのよ!」

「失礼いたしました……」


 従者たちからすればリィトなど見つからずにどこかで死んでいてくれたほうがいくらかマシだった。

 リィトがいなくなってしばらくは姫様もすっかりおとなしくなっていたというのに、発見の報告を聞くなり激昂しその時点でとばっちりを受けた何人もの人間が職を追われた。

 明日は我が身とびくびくしながらここにいるのだ。


「まったく使えない……はやくリィトに帰ってきてもらわないといけないのに……」


 王女の奔放さにいよいよついていけなくなりつつある従者たちは願った。

 この状況を打開するなにかを。

 だがそれをもたらしていたのはいつだっていまここにいないリィトだったことも、それぞれの従者たちはよく理解していた。


「早く帰ってきてほしい」


 この一点に限って姫と従者の心は一体となっているといえるかもしれなかった。


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[一言] 姫様はもういいよ
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