034 戦略訓練⑧
「引っかかった」
敵別働隊が本陣に引きつけられる。
当然魔法使いの部隊を変な位置に見せておいたのは、囮だ。
「伏兵を発動して……あとは……」
地の利があるというのは本当に強い。
どこから敵が来るか、ほとんど分かるような状況だった。
これが逆だったらと思うとなかなか厳しかったのではないだろうか。
「そろそろ勝負を決めるか」
この盤上の駒達は本当によくできている。
通常士気が下がるような場面に出くわすと、実際に戦力が大幅に減少する。場合によってはその兵が正規兵ではなく農兵等の場合は、逃亡も始まるのだ。
予め敵陣近くに配置していたこちらの軍の最強の部隊──魔法使いの部隊を動かして、ほとんどもぬけの殻になっていた本陣を攻め落とした。
「よし、中央も崩れたな」
あとは時間の問題だ。
と、対面にいたギークが顔を赤くしてこちらに叫んでいた。
「貴様!? 一体何をした!? こんなことが……」
ギークにこの戦いがどう見えていたのかわからないが、本陣が落ちたことは致命的で想定外の出来事だったようだ。
「最初からうちの一番強い部隊をそちらの本陣近くに忍ばせておいただけだよ」
「馬鹿な……そんなことをすればお前の本陣や中央の軍では持ちこたえられるはずがない」
「そうかな?」
「そうだ! そもそも魔法使いがいなければ大したことのない軍で、最強の部隊を予め戦線から外しておくなど……待て……お前はまさか……」
そこでようやく気づいたらしい。
「こちらの最強の部隊は──」
「魔法使い……」
始めから俺は魔法使いの部隊を本陣で守ることなど考えていなかった。
魔法使いたちを敵陣付近に配置したほうがこの勝負は有利だからだ。
「切り札を敵地に送るなど……そんな博打で……ましてや天候に恵まれていなければ魔法使いによる防御が不十分なお前の本陣など落ちていたのだぞ?!」
「いや、魔法使いがそこにいたからこそ、この状況が作れたんだよ」
「何を……いや待て……」
ギークの本陣はこちらの山岳地帯に比べればほとんど平野と言っていい状況。
だがそこに拠点を構えた理由は、湖があったからだ。
物資の運搬や水、食料の確保において、水路は絶大な効果を発揮する。
だがその水源は、こちらにとっても大きな意味を持つ場所だった。
「まさかこの雷雨も、偶然ではなくお前が作り出したのか……!」
ギークの言葉にうなずく。
魔法使いの純粋な魔力だけでは不十分な天候操作も、水源があれば話が変わる。
「くそ……」
ギークがそうつぶやくと盤上で光っていた駒たちが消えた。
「俺の負けだ……」
面白くなさそうにそう告げた。
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