014 入学試験編⑥
「おっ! お待ち下さい姫様!」
スッとメリリアの視線がバードラに向けられる。
それだけで背筋が凍るような、冷たく、近寄りがたい表情をしていた。
声をかけたバードラとその取り巻きの発汗が増えていた。
「ひっ……」
「なんでしょう。バードラさん」
バードラはなんとか表情を作り直してこう続けた。
「お名前を覚えていただいていただなんて光栄の極み……それよりもその男、不正を働いておりました。それは私、ミルト家五男であるバードラが──」
バードラの言葉は最後まで紡がれることはなく、メリリア殿下の言葉に遮られた。
「その言葉は先程も聞いております。その上で私は言ったのです」
「そんな……どうして……?」
バードラにとってみれば俺の不正が認められなければ家の名に傷をつける事態。
その調査すら姫様の一言で出来ないと言われれば、絶望するのも無理のない話かもしれない。
「良かったじゃねえかリルト」
アウェンが肩を叩くが、俺はメリリア殿下へ向けて頭を下げながらこういった。
「恐れながらメリリア殿下。私の潔白がギルン殿の調査で明らかになるのであれば、そのようにしていただいて構いません」
出過ぎた真似かと少し焦るが、メリリア殿下の口から出た言葉は予想外のものだった。
「あら、さっきみたいにお嬢様と呼んでくれないのですね」
「あっ……あれは……」
「ふふ。良いのです。それに気を使う必要もありません。そちらの三名こそ、不正行為を働いていましたからね」
「それは本当ですか⁉」
反応したのはギルン少将だった。
三人を見るとたしかに、その表情、発汗、態度のどれをとっても黒だった。
「はい。記憶共有魔法により、三人で試験を受けていましたから」
あ、それダメだったのか……。なるほど。
「お待ち下さい! そのような証拠はどこにも……」
「やはりこのようなことをする方々は頭がまわらないようですね……」
メリリア殿下の辛辣な言葉に絶句するバードラ含む三人組。
「貴方方のほかに、貴族の子弟が少ないことに疑問を持ちませんでしたか?」
「それは……」
「貴族家の中ですでに優秀な結果を残す者たちは、この試験が免除されています」
「ぐっ……」
そうだったのか。
バードラの表情を見ると、知ってはいた様子はある。
「そこに皇族である私が来たこと、私がただの無能に見えましたか?」
「そのようなことは決して!」
「では、もう少し頭を働かせるべきでしたね……」
静かに一呼吸おいて、メリリア殿下が続けた。
「私はこの試験会場において、どちらかというとギルン少将に近い立場として参加していたのですよ」
「なっ……」
バードラが固まる。
驚いた。そんなパターンもあるんだな。
いや、まあわからないでもない話か……。そんな役割を担う皇女様は相当優秀なんだろうけど。
「試験中、私だけは魔法の使用が自由です。不正を働くあなた達の魔力を記録することも、容易いのです」
そう言いながら証拠になる記録紙を見せるメリリア殿下。
「あなた方の試験資格を、剥奪します。また各家への処罰も追って沙汰がくだされますので、お早めにご実家にご説明に戻られたほうがよろしいのでは?」
遺されたのは顔面蒼白で何も言えなくなったバードラと、あまりの出来事に固まる取り巻きの二人だけだった。
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