000 優雅な朝
連載版スタートです。
本編は2話から。
加筆修正を加えた短編同様のシナリオを数話挟んで連載版オリジナルストーリーを展開します。
「リィト」
「こちらに」
早朝。日が昇るか昇らないかというところで、アスレリタ王国第一王女キリクは気まぐれに従者を呼びつける。
もちろんそんな予定などなかった。いつもならまだ数時間は眠っているはずのキリクがたまたま目を覚ました。だというのに、その執事はいつの間にか準備を整え王女の側に立っていた。
「今朝はお早いお目覚めですね。お嬢様」
「ええ。この時間に呼んでもちゃんと来るなんて偉いじゃない」
「私はお嬢様の執事ですので」
「良い心がけね。遠乗りに出るわ」
「すでに馬の準備は整えてあります」
「あら。今日はキャサリンで行こうと思っているけれど」
「もちろん準備してございます」
リィトはすでに外に五頭の馬を用意していた。その中の一頭がキリクの指名したキャサリンだ。すぐに合図を送り他の馬を下げさせつつ、キリクの着替えを手伝う。
「ふうん。でも気が変わったかも」
「お食事になさいますか?」
「そうね……いえいいわ。狩りの準備を」
「この時間なら釣りも良いかもしれませんね」
「いいえ。狩りよ」
「かしこまりました。それでは馬と装備を変えましょう」
「そうね……狩りなら馬は……」
「ビロー号はいかがですか?」
「調子が良いならそれでいいわ」
「かしこまりました」
わがままの限りを尽くす王女キリクを、それとなく誘導することで満足のいく結果を常にもたらすリィト。
涼しげな顔で準備を整える二人だが、他の従者たちは必死だった。
それでもやることが最も多いのはリィト。リィトがここで涼しげにキリクと会話を楽しめているのは、その並外れた洞察力と用意周到な準備によって成し遂げているもの。それを知る使用人たちに、リィトを責める材料はなかった。
二人だけが、時間の流れが異なるかのようにゆったりと、優雅な朝を迎えていた。
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