7.笑顔を護るために
「――このダンジョンを大きくしていって、世界征服すればいい」
「世界征服? また荒唐無稽な話だな」
「そんなことはない。私たちダンジョンが行き着く先は、結局そこ。ダンジョンをどれだけ大きく拡張して、どれだけ強い配下を手中に置くか。でないと強いダンジョンに飲み込まれるか、冒険者に殺されて私たちは終わる」
淡々と言うアイシャ。
「私たちは、さっきのダンジョンが落ちたと同時に名実共に『ダンジョンの核』と『ダンジョンメーカー』になった」
ダンジョンメーカー。
冒険者側にいた時は、聞いたことすらなかったな。
特に上位のダンジョンになればなるほど知的生命体によるダンジョン創成と拡張が行われているというらしいが、自分がそれになるなんて思いも寄らなかった。
「生きるために、拡張する……か」
「拡張して、領土を支配下に置いたらそこは全てあなたのもの。何をしても許される。どんなことをしようと、全てがあなたの自由。それがダンジョンの全て。領地を増やせば増やすほど、ダンジョン内はこの世界の全てを凝縮した『小さな世界』が形成される。希少な鉱石や生態系も出てくるって聞いたことがあるわ」
「なかなかの強権力だな、それ」
……ってことは、いわばダンジョンの中が一つの国みたいに機能し始めるのか。
それはまた、管理がとても面倒臭そうだ。
「ダンジョンにはフロアボスも必要。ダンジョンメーカーはダンジョンの強さによって『魅了』の効果が出てくる。それによって忠実な配下が向こうから寄ってくるようになる」
自分で呟きながら、ふと考えが巡る。
――ってことはだ。
「俺がダンジョンを大きくすればするほど、金もヒトも大きく入ってくるかもしれないってことか?」
俺の村は金もなく、冒険者を雇う間もなく崩壊してしまった。
それは俺の村に限った話ではないはずだ。
腐った冒険者と害悪ダンジョンが蔓延るこの世で、もはや安住の地などないに等しい。
つまり、本来ならば笑って生まれ笑って死ぬはずの大勢の人達が、日々を恐怖に怯えて暮らしているということになる。
その悲しさは、俺が一番知っている。
その辛さは、幼馴染みを目の前で救えなかった俺が一番知っている。
思考がめまぐるしくまわっていく。
冒険者になっても誰一人救えなかった俺。
だけども、まだチャンスが残されている。
俺が俺自身のダンジョンを拡張していけば、そんな侵略者の魔の手から世界中の女の子達を護れる可能性がある……!?
「……あなたの方がよっぽど荒唐無稽なことを考えていそうだけど」
こちらをジト目で見るアイシャ。
俺の決意は固まった。
世界中の全ての女の子を幸せにする! そして寂れまくった俺の村に仕送りをする!
その二つさえ出来れば冒険者だろうがダンジョンメーカーだろうが、何だってしてやるさ!
「決まりね。私はあなたのダンジョンの核。あなたが望む道を、あなたが示す道を共に歩いて行く核よ。よろしく、リック」
アイシャが差し出してきた手を、俺は迷わず掴んだ。
「よろしく頼むよ、アイシャ。そこらへんの害悪撒き散らして女の子泣かせるようなダンジョンなんてクソ喰らえだ……」
俺はダンジョンの地底で大いに宣言してやった。
「俺は、世界の女の子たちが笑顔で生まれ笑顔で死ねる環境を守る!そんなダンジョンを作る。世界一やさしい世界征服だ!」
これはひょんなことから魔王の如き力を手に入れた俺が世界中の女の子たちの笑顔を守るために始めた、世界一やさしい世界征服のお話だ。