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6.世界を征服しつくすまでに

  Sランクダンジョンを踏破して一夜が経った。

 俺たちはどうやらこのダンジョンの最深部まで落ちていっていたらしい。


 新しく出来たダンジョン―アルテミス―は四畳半ほどの小さな広さの一室だった。

 ごつごつとした岩の広場。その中央に置かれた水晶玉が、俺たちのダンジョンの《核》だった。


 ダンジョンの入り口はすぐ側だ。

 もし外から狙い撃ちされれば出来たばかりのこのダンジョンは一瞬にして破壊される。


 

 そんな中、俺はたき火を焚きながら呑気にぼーっとゴーレムの肉を捌いていた。


 ゴーレムは堅い装甲で覆われているものの、それさえ取り払えば上質な肉が手に入るという。

 そもそもゴーレムに遭遇したこともないので見よう見まねではあるけども、二人分くらいは手に入るだろう。


 裸一貫だったアイシャには俺の上着を着せているが、さすがにサイズが合わずにダボダボだ。

 せっかくあの黒水晶から出ることが出来たんだから、何か地上に出れば着るものくらいは調達できるだろうが……。


 興味深そうにしながら俺の周りで手伝いをしてくれる様子が、その無表情さからは特に新鮮に見えてくる。

 頑張ってとてとてと歩く姿は、どこか村に残してきた小さな女の子のようで可愛らしく思えた。

まぁ、1000年ぶりに出てきたってことで歩き方やら何やらを忘れているってのもあるんだろうけど。


 そんな俺のほのぼのとした目線に気付いたのか、アイシャは少しだけ頬をぷくっと膨らませる。


「見世物じゃないのだけれど」


「分かってるって、そんな突っかかって来なくてもいいから。というか、アイシャこそいい加減警戒解いてくれよ。いきなり食って掛かろうなんて考えてないしさ」


「冒険者の道を捨ててまで助けられたのだから、私は何の抵抗をする権利もないわ。あなたに今ここで襲われたとしても、私は何も文句が言えないもの」


「そんなみみっちいこと考えて動くわけが――」


 感情の乏しいアイシャの卑屈な物言いがあまりにも面白くて、笑いながら否定しようと振り向いた俺だったのだが。


「……っ」


 振り向くと、ぐっと拳を握りしめているアイシャがそこにいた。


 本当に、アイシャを助けることに何の躊躇も疑問も持たなかったんだけどな。


 アイシャが言うには、彼女自身はもう諦めかけていたそうだ。

 1000年間もずっと囚われ続け、最後の最後に「史上最強の可能性を持った闇魔法の使い手」である俺が目の前に現れた。

 助けられたからには、体を求められても奴隷のように扱われようともそれに答えようと思っていたという。


 だが俺は彼女に触れもしなかったし、奴隷のように扱おうなんて微塵も思っていなかった。

 それがどうやらアイシャにとっては不思議で不思議で仕方が無かったらしい。


「俺は、超一流の冒険者になろうと思って王都にやって来た。でもそれは、手段の一つであって本当の目的は別にあるんだよ」


「目的……?」


 俺は田舎から上がって、王都までやって来た経緯を道すがら語っていった。


 俺は貧乏な田舎出身だった。

 俺が生まれた時から魔物が至る所に跋扈していたから、親父は村を守るために魔物と戦って戦死した。

 他の男達も大体がそうだった。

 唯一頼れる先は冒険者だったが、冒険者に頼むには相応な依頼料がいる。

 本来冒険者ってのは、「困っている弱い者の代わりに魔物を討伐する」ために出来た職業ではあるが、利益至上主義が跋扈する現在においてわざわざ安い賃金で危険な魔物に立ち向かってくれる正義の冒険者なんてほとんどいないに等しかった。


「……そう。だからダンジョンに来る人間が、昔に比べると随分多くなっていったのね」


 昔はダンジョンも人間と共生関係にあったという。

 が、今はもはや冒険者の食い扶持の一つでしかない。

 いかに速く、いかに多くのダンジョンを屠ってその宝を奪い、金にするか。

 多分今の冒険者は、大体がダンジョン攻略を主軸に置いているだろう。


「そんな時にさ、俺の村にオークとゴブリンの軍勢が攻めてきたんだ」


 あれは、12歳の時。俺が上京を決意するきっかけになった事件だった。


「冒険者はたくさんいた。でも俺たちにはそれを頼る金がなかったんだ。結果は無残だったよ。戦える男はほとんどいなくなって、村は蹂躙された。あいつらは女の子たちに手を出しやがった。攫って行きやがった」


 今でも考えるだけであの時の光景が脳裏に浮かんでくる。

 焼ける家、次々連れ去られていく女の子達。

 俺の幼馴染みも、オークとゴブリンの軍勢に連れて行かれた。

 そうやって、俺の村から――女の子たちが消えてしまったんだ。

 その時俺は、何も出来なかった。怖くて剣を握ることも、怒りであいつらに一矢報いることも出来なかった。


「あいつらの襲撃からおおよそ2年が経ってから、俺は決めたんだよ。この世の中は金と力が全てなんだって。俺が強くなって帰って村を守ることも考えた。でもそれだけじゃダメなんだ。こんな世の中冒険者を恨むことはお門違いなら。冒険者を雇えるだけの――村を丸ごと一個守れるだけの金を仕送って、俺自身も誰にも負けないほど強くなる。それでもってあの頃護れなかった女の子達を、今度は俺自身の手で護るんだって。そう決めてるんだ」


 「だから――」と、俺はアイシャの頭に手をポンと置いて、言ってやった。


「困ってる女の子を――アイシャを見殺しにすることなんて出来なかったんだ。あそこでアイシャを見殺しにしていたら、あの頃と何にも変わっちゃいなかった。だから俺は満足してるんだよ。あの時の俺が見たら、今の俺は結構尊敬されてると思うぜ」


 そこまで言い切って、アイシャの顔を見ると。


「……そう」


 少しだけ安心したように優しい目をしていた。


 なんだ、年相応のような表情も出来るんだな。


「まぁ、冒険者の道がなくなった以上は金の稼ぎ方も分からないんだけどな。まぁ、何とかなるだろ。素材さえあれば買い取ってくれる輩なんていくらでもいるもんだ」


「もっと簡単な方法がある」


 ふと、ゴーレム肉の焼き加減なんかを確認しているとアイシャはぽつりと言う。


「――このダンジョンを大きくしていっていけばいい。それこそ、世界を征服しつくすまでに」

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