謝罪
ランドレース。
Aランクパーティー『アーセナル』のパーティーリーダーにして、俺をひたすらに使い倒してきた人物だ。
「お、おい、リック……何したんだよ、なぁ、おい」
縛られるランドレースが少し怯えた目をしていた。
パーティーはもはや壊滅。
俺を殺して得た保険金で購入した装備も、ほとんどがここにある。
もちろんランドレースの身ぐるみは全部剥いで追い返すつもりだ。
簡単に殺しはしない。
これから先、地獄の苦しみを味わってもらおうじゃないか。
そう思っている矢先、ランドレースは怖れるように口を開いた。
「悪かった、何でもする。あいつらどこにやったんだ……。俺をどうするつもりなんだ……!?」
既に魔法力は封じてある。それどころか侵蝕性の影の刃はランドレースの体力をも奪い尽くしていっている。
もはや何をするにも何も出来ない状況だ。
生かすも殺すも俺次第である。
全く、この闇魔法の能力には感謝しかない。
「何でもするなら、最初からやり直してみればどうかな。ほら、例えば――荷物持ちからとかさ」
――闇属性魔法、悪鬼遡行。
派生する闇属性魔法の中で、最も源流に位置する原初の魔法である。
かつて昔、この世に悪鬼が跋扈していた時代。
その悪鬼を正攻法で殲滅することを止め、能力値そのものの絶対値を極限までに落としていく。
その上で二度と抵抗の出来ないように老いと力を根こそぎ奪っていく。
そうすることによって少量の魔法力で大量の魔物を駆逐していったと言われる。
ランドレースの頭の上に手を翳せば、黒い塊がストンと身体の中に落ちていく。
体力:2300/2300 →100/100
筋力:300/1800 →100/100
魔法力:180/1400 →150/150
ランドレースの全てのステータスは下限を行き、筋骨隆々としていた体はしなび、黒髪と黒髭で整えられていたそれは白く変色し、艶すら無くしていく。
それは能力値の大幅低下と「老化」であった。
躊躇いは無かったし、自分でも分不相応な能力を得てしまったことは百も承知だ。
許さないと決めていた。俺を散々コケにしてきたコイツらを、メイリスを苦しめ続けてきたコイツらを許すことなど俺にはとうてい出来なかった。
「もう一回一からやり直してみなよ。まぁ、出来るなら――の話だけど」
――闇属性魔法、魔王の一撃。
装備は全て剥ぎ取った。
「お……んまえ……いて……!」
ランドレースは年老いた身体としなびた腕で俺の袖を掴む。
だがその腕に力は無い。よぼよぼで、握っているのもやっとの状態だ。
ざまぁみろ。ここに来ての俺の感情に、不思議と揺らぎは無かった。
これで俺の横には俺の保険金から手に入れた全ての装備がそっくりそのまま新品同然に戻ってきたことになる。
対してパーティー『アーセナル』は、そっくりそのまま保険金分の金を失ったことにもなる。
「次にお前等がここに辿り着けるのに、何年かかるか知らないけど……応援してるよ。地の底からね」
ランドレースの身体は消えていく。黒い渦に飲み込まれて。
最後に残るは――。
「……あ、あの、リック……さん? 本当にあの、リックさん……ですか?」
メイリス。
アーセナルの回復術師にして、俺と同じく長らくランドレースたちに煮え湯を飲まされ続けたパーティーメンバーの一人だ。
だがあの時と今では、あまりに差がありすぎるだろう。
どんな顔をして彼女の方を向けば良いのか分からない。こんな独りよがりの復讐までしている俺がどんな顔して彼女に顔向けできるというのか。
アイシャは「はやくこっちに引き入れなさいよ。はやく。はやく……!」のような勧誘オーラを存分に醸し出している。
こちとら全くそんな気分になれないんだけどな!?と目線で突っ込もうとしていた、その時だった。
「本当に、本当に……すみませんでした……! そして、ありがとうございました……!!」
彼女から出てきた返事は、意外なもので。
俺もアイシャも鳩が豆鉄砲を喰らったかのような素っ頓狂な表情になってしまっていたのだった。




