奴隷紋の返却
「次はヨークシャー。魔法力自慢のキミから魔法を取っ払ってしまったら、何が残るんだろうね」
影に縛られたヨークシャーに近付きつつ、俺はメイリスの肩を見つめる。
黒い奴隷紋。これはかつてヨークシャーが施したものだ。
ヨークシャーが証を付け、ランドレースが魔法力を流せばメイリスに電撃痛が加わる仕組みになったそれは、本人でないと外せないものらしいが……。
「なぁ、メイリス。今からキミの奴隷紋を5秒で開放出来るって言ったら、どうしたい?」
俺は今まで一言も発してこなかったメイリスに問う。
ピクリと肩をふるわせたメイリスは、ぽつり、ぽつりとランドレースを伺う形で口を開く。
「えっと、その、ランドレースさんが良いっていうなら、ぜひとも――」
「ランドレースの意向なんて聞いてないさ。メイリスがどうしたいか言えばいい。俺には今、キミの奴隷紋を開放する力がある。こんな奴等のご機嫌を伺わなくともね」
「……っ」
メイリスは唇を噛んだ。
ランドレースが叫ぶ。
「メイリス! そんな奴の言うことなんざ宛てにするんじゃねぇ! これ以上そいつの戯れ言に耳を傾けるなら――!」
ランドレースは縛られながらもメイリスに魔法力を向けた。
ビクッと。メイリスが怯む。幾度となくやられてきた彼女への制裁なのだろう。
メイリスの肩に刻まれた奴隷紋が光り輝く。
円を描いて紋章が魔法力に彩られる、その間に。
「闇属性魔法、魔封の吸収」
奴隷紋の輝きが失われた。
思わず瞑ったメイリスが自分に何の痛みも来ないことに気付き始めた。
「……リ、リック……さん?」
「悪いな、メイリス。勝手に取っちまった」
俺の手の平にふわふわと浮かんでいるのは、メイリスから剥がされたばかりの奴隷紋だ。
「せっかくランドレースが限界まで魔法力溜めてくれてるみたいだし、使わなきゃもったいないよな」
俺はヨークシャーを見つめた。
この奴隷紋は、元はと言えばヨークシャーが練り上げて作ったモノだ。
「持ち主に返すのが一番良いだろ」
「おい、おい待て、待ってくれ、頼む……リック……リック!!」
バチバチバチ……ッ!
影縫いは、慣れた様子でヨークシャーから杖と装備を剥ぎ取っていく。
上裸になったヨークシャーの下腹部に、俺はそっと奴隷紋を返してやった。
その瞬間。
「ンギャァァアアアアアアア!!??」
「これまで奴隷紋が蓄えてきた全ての電激流がそのまま跳ね返るようにしておいたんだ。つまり、お前等が今までメイリスに宛がった全電流をこれから一回分として喰らうように……って全然聞いてないな」
ぶすぶすと焦げたようなヨークシャー。
「そういえば、これからアンタが一回魔法を使う度にその電流が奴隷紋を通して身体を流れるようになってるから、気をつけといた方がいいよ。まぁ、もう聞こえないだろうけど」
俺は魔王の一撃で気絶してしまったヨークシャーを外に放り投げた。
そして最後に残るはランドレースだ。




