新たな仲間へ
『リックさん。そちらの方に侵入者が向かいました。後はお任せしますね。多分、今のリックさんならワンパンで終わるかと!』
ディーナさんの最後の通信から20分後。
再び水晶核に伝令が入ったと思えば、目をらんらんと輝かせるディーナさんの姿がそこにはあった。
「お、おぉ……ワンパン……」
『それで――一つだけ、気がかりなことがあります』
そう言って、ディーナさんが映し出したのはメイリスの姿だった。
「彼女だけは、このパーティーで異質な存在であることに変わりはないようです。彼女だけは今まで通りの通常装備を貫き通しているみたいですね。見たところ、肩に刻まれた奴隷紋にも幾ばくか魔力の残滓が見られます。恐らく、新装備の供給を頑なに断った結果でしょうが……」
メイリスは、パーティーアーセナルでも唯一俺の味方をしてくれた女の子だった。
見れば、奴隷紋はずいぶんと傷付いているようだ。
恐らくランドレースたちに脅されでもしたのだろう。
それでもなお、彼女だけは俺の死んだ金で装備を新調しなかったのだ。
「一応、彼女の処遇だけはこちらでは判断致しかねましたので、リックさんにお任せします。アーセナルで体力・魔力共に完全状態を保っているのはメイリスさんだけですので……。敵パーティーの壊滅を担う一フロアの仕事としては不完全かも知れませんが――」
「いや、良くやってくれた。さすがだよ、ディーナさん。で、一ついいかな」
「? なんでしょうか」
「フロアボスに入ってきてもらったばっかのところ申し訳ないんだけども、メイリスをウチのダンジョンに引き入れたいんだ。……大丈夫かな? 彼女の回復力は今後絶対に必要になる」
「大丈夫も何も、ダンジョンメーカーはリックさんでしょう。リックさんの決めたことがこのダンジョンの方針になるのですから、私はそれに従うまでですが」
ブツンッと荒々しく映像が途切れるその様子を見たアイシャは、「バカね」と小さく呟いていた。
メイリスにはいくつもの借りがある。
あの肩に刻まれた奴隷紋だって今の俺なら剥がせるだろう。
それに、アーセナルの面々は気付いていないだろうがメイリスの回復力は奴隷の域を超えているものがある。
俺の持っている闇魔法とは対を為しているのが回復魔法だ。
この力を持ってみてからこそ分かったものがある。
俺の天敵とも言える回復術を持つメイリスが加入すれば向かうところに敵はない。
「まぁいいわ。私はダンジョンが大きくなればそれでいいもの。ダンジョンメーカー様はどうやらけっこうなおバカさんのようだけども」
「ダンジョンメーカーとしての役割は果たしてるはずだけど」
「……ソウネ」
いまいち同意が得られない。
ジト目で見てくるダンジョンコアを余所に、ディーナさんから送られてきた刺客が第二フロアに降りてくる。
明らかに体力の大部分を削られたランドレース。
魔法力切れを起こし掛けて杖の光が消えかけているヨークシャー。
腰が完全にひけてしまっているデュロック。持った大剣がもはや杖と化している。
そして――神妙な面持ちでこちらを見つめている、唯一元気そうなメイリス。
話によれば四人はそれぞれ上階で分断されつつここまでやってきたようだ。
確かにこの様子だとワンパンだな……。
煌びやかで豪勢な装備が揃っていても、ここまでくれば弱い者いじめのような気もしてくる。
まぁ、微塵も容赦することはないのだろうが。
ぶつ切りになってしまいましてすみません……。
遅い進行にはなりますが、見守っていただけると幸いです。




