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22.復讐への第一歩

「リックさーん、アイシャちゃーん」


 階上(第一フロア)から優しい声が聞こえてくる。


「ごはんね。行くわよ、リック」


「あぁ、もうそんな時間か」


「今日のご飯は何かしら。いえ、何でもいいわ。ディーナの作るご飯は全てが天才的だもの」


「びっくりするほど一瞬で胃袋捕まれたよな、俺たち。一階層、どうなってたっけ?」


「二階層へと誘き寄せる簡易迷路が半分。ディーナのお料理キッチンが半分の面積よ」


「無茶苦茶な設計のダンジョンだな何度考えても」


「いいじゃない。彼女は彼女の仕事をしてもらえれば」


「まぁ、そうだけど……やばいな。めっちゃ良い匂いするなこれ」


 鼻をくんくんと鳴らせば、ディーナさんがポニーテールをふわりと揺らして俺たちを向く。


「アルファしめじのバター炒めです! ほら、さっきリックさんが採ってくれた山菜を組み合わせてみたんですよ。はい、あ~ん」


 一心不乱にもくもくと咀嚼するアイシャをよそに、俺はディーナさんの「あーん」をそのまま受け取っている。


 うん。噛めば噛むほど甘みのある出汁が口の中に広がっていく。

 バターもディーナさん手作りのようで、市販品とは違って少しだけもちっとしているのも良い。

 しめじとの相性は抜群だ。

 元来、俺たちが野営をする時なんかは焼いて塩振って食べる、くらいの粗末なものしかないが、ディーナさんによって幻のような主菜に生まれ変わっている!


 もっきゅ、もっきゅ、もっきゅ。


 そんな可愛らしい音を立てながら茸嫌いのアイシャもほっぺたを落としている。


 まさかダンジョンの中でこんな幸せな空間が作れるとは……。

 一生このフロアで過ごしていたいなぁ、なんて思っていた俺の元に外部から一羽の鳥が入ってくる。


 その鳥を見て、アイシャは言う。


野鳩ノバトね。今朝ディーナが遣わしたものが帰って来たのかしら」


「おかしいですね……。一応元同僚のアスカに離脱を伝える文言だっただけのはずなんですが……」


「っていうかダンジョンってそんな簡単に鳩とか入ってこれるんだ!? そんなに存在ガバガバなものだったっけ!?」


「ディーナの魔法力が入ったものは全て素通りするシステムにしただけよ。私がダンジョンのコアなんだから、どれを入れてどれを弾くかも私のさじ加減一つよ」


 いけしゃあしゃあと言ってのけるアイシャ。

 ディーナさんに懐ききったのは良いもののもう少し危機管理を覚えてもらいたいのだが。


 その野鳩ノバトの足には伝言書が結ばれてあった。

 ディーナさんはそれを「どれどれ」と読み上げる。


「私の元同僚、アスカからのようですね。えーっと……どうやら冒険者パーティー《アーセナル》に関してのようです」


「リックを裏切った、あの弱々パーティーね」


 アイシャは無表情で言う。

 ディーナさんは伝えるかどうか悩むような眼で俺を見ていた。


「続けてくれ」


「分かりました……。Aランクパーティー《アーセナル》は現在、Sランク昇格権を失い、それどころかBランクのダンジョン攻略にも立て続けに失敗しているようです。そのため、パーティーメンバー全員がSSランククラスの装備強化をしたそうです。……その、リックさんの死亡したことによって発生した冒険者保険を、使うことで……。新調した装備を持ってして、このダンジョンに侵攻する可能性が高い……!」


「ほう」


 アイシャは眼を丸くしていた。


「リックさんにかけられていた冒険者保険はおおよそ3000万ベル。皆さんの防具を揃えるには充分ではありましたが、これは酷すぎますよ。だってリックさんは……!」


 悲壮な目つきで言うディーナさん。

 だが、アイシャだけは違った。


「いい資金源が見つかったわね。リック、全部ぶんどってやりなさい」


 淡々と呟くアイシャ。

 まぁ、俺も思いは一緒だ。

 こんな境遇にさせられたことは、今となっては感謝しているがアーセナルへの思いとはまた別の話だ。


「そうだな。元は俺から出来た金なんだから、回収しても文句は言われんだろ」


「第一フロアも出来たことだし、ちょうどいいわ。リック」


 そう言って、アイシャはピシッと俺とディーナさんに指を突きつけた。


「ダンジョンーアルテミスー、初めてのダンジョン防衛戦よ。完膚なきまでに叩きのめしてやりなさい」


 ふだんあんまり感情を出さないアイシャだが、少しだけ怒っているように見えた。


 ダンジョンコアの意志は決まった、そうなればダンジョンマスターである俺がやることはただ一つだ。


「仰せのままに、ダンジョンコア様」


 こうして、俺の復讐は意図せぬ形で始まったのだった。

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