20.告白
「そうだったんですね。だから、リックさんが魔法を……」
眩く輝く紅水晶の核を前に、ディーナさんはゆっくりと頷いてくれた。
ディーナさんの隣では、アイシャがぎゅっと手を握ってちょこんと座っている。
何だかここから見ると親子のようだ。
俺は、持ち帰った魔素結晶を手に核の前に立つ。
「アイシャ、これ三つで支配範囲はどれくらいに出来る?」
俺の問いに、アイシャは続いた。
「オークから二つ、および氷結蜘蛛一つの魔素結晶があれば……そうね。あの村を丸ごと支配領域に組み込むのに何ら支障はないわ。異形の魔物や敵意のある存在を感知次第、こちらの領域に転送できる。キュウルル村は、あなたの支配区域になるわ」
俺とアイシャの会話を聞いて、ディーナさんはふと微笑んだ。
「そうだったのですね。どんな所にいっても、リックさんはお優しいんですね。安心しました」
ーアルテミスーのダンジョン核に採取した魔素結晶を近付けると、黒と緑で覆われた結晶が、徐々にダンジョンの核と融合を果たす。
台座に置かれたーアルテミスーの核が淡く光り輝き、ドクンと三度脈打ってその大きさを倍にする。
同時にアイシャの身体も少しだけ光り始める。
ゾクゾクッと、アイシャが身体を震わせれば、表情も少しだけ和らいだ気がした。
「来たわ。レベルアップよ」
ディーナさんは、アイシャの変化に目を細めていた。
不安そうにこちらを見るディーナさんに向けて、俺は遂に口を開いた。
「それでさ。ディーナさんに頼みがあるんだ」
「……はい」
ディーナさんは俺の雰囲気を悟ったのか、居住まいを正した。
「知っての通り、俺は冒険者としては無能だった。でも、アイシャと出会えて変わることができた。俺がアイシャに闇魔法をもらえたのは、チャンスだと思ってるんだ。世界中の女の子とを助けられる! 田舎に仕送りができる! そんでもって、このダンジョンの力で征服した箇所には、誰にも手出しはさせない。……誰からでも、どんな奴からでも俺が護る。そんな未来を目指して、俺は戦うことにした」
ディーナさんは黙って聞き続けてくれた。
俺は、意を決して彼女に本心を伝える。
「そのために、俺はディーナさんが欲しい。ディーナさんの力があれば世界征服への足がかりはもっとスムーズに行く。一緒にアイシャと、キュウルル村のみんなと、世界中の困っている女の子たちを助けるために。俺に力を貸してほしいんだ、ディーナさん」
「……困っている女の子たちのために、だけですか?」
試すような口振りでぷいっとそっぽを向くディーナさん。
その仕草があまりにも可愛すぎて、俺は後先考えずにディーナさんを抱え込んでいた。
「もう二度と離したくない。ディーナさんの笑顔をずっと横で見ていたい。あなたの笑顔をずっと護りたい。もう二度とあなたの泣くところなんて見たくないんだ。だから、俺についてきてくれ。絶対、世界一幸せにしてみせる!」
ディーナさんは、俺の手を振りほどかなかった。
ぎゅっと背中に手を回してきてくれて、「言ったじゃないですか」と、彼女は俺の耳元で囁いた。
「どこまでも付いていきますよ。リックさんの行くところならば、全て――と」
『ダンジョン ーアルテミスー
ダンジョンレベル:3/100
ダンジョン階層数:2
支配下モンスター:無
マザーコア :アイシャ
ダンジョンボス :リック・クルーガー
一階層フロアボス:ディーナ・マリルーシャ 』
こうして、ディーナ・マリルーシャは俺たちのダンジョンに加わることとなった。
「よろしくお願いしますね、リックさん!」
ちゅっと、唇に触れた彼女の不意打ちを俺は生涯忘れることはないだろう――。




