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2.みんなあなたに怯えてる

 ダンジョンとは、人を喰らい養分とする一つの巨大な生き物である。

 コアとなるボスを打ち倒した恩恵として、溢れんばかりの金銀財宝や武器防具の素材が手に入り、多大なる名誉を受け取ることとなる。


 俺たち冒険者はそんなダンジョンに魅入られ、命を賭して冒険しに行くのだ。


「おい、リック! さっさと進めよお前が進まねぇと後がつっかえんだろうが! 盾としても無能なのか、テメェはよ!」


 ドンッと後ろからランドレースが蹴りを入れてくる。


 っていうか、流石に自分の身長の2倍もある大きさのバッグを背負っているのだから少しは猶予をくれたっていいだろうに……。

 それに索敵しながらのルート探索なんてただでさえやることが多いのだ。


 周囲に超微弱な魔法力を張る。

 これ以上魔法力を動かせば、ランドレースたちの魔法力を喰らい、いらぬ魔獣を呼び寄せてしまう。

 ここまで出来るようになるのも相当苦労したんだけど……。


「この迷路通りを二回曲がった所にBランク相当の魔獣が4体、群れてるね」


「ふんっ。じゃさっさと別の道探して行けば良いだけだ。いちいち言わないでいいからさっさと進めよ」


 俺以外のパーティーは後衛で、罠警戒や伏兵部屋などの隠しルートの心配など何一つせずに悠々と歩いている。

 最近の攻略はずっとこの調子だ。


 後ろからは、「きゅぴっ!」「きゅぷっ!」「きゅるるるるるっ……」と、小さな魔物の断末魔が聞こえてくる。

 道すがらスライムを魔法で焼き殺しながら進むヨークシャーと、大剣一振りで四散させるデュロックだ。

 

「君が死んでも代わりはいくらでも買える。今度は攻撃に加わってくれる優秀な前衛が欲しいね」


「一応目星はついてるんだがな。ほれ、こないだ奴隷商人が獣人持ってきてただろ。あれは上玉だぞ」


 それを聞いたランドレースはカラカラと笑いながら俺の肩を叩いてくる。


「かっ! そりゃいいぜ。リックが死んだら代わりはそれだな。ヨークシャー、キープしておけ」


「了解だ。それにぼくらに靡かずゴミの肩を持つ中途半端な奴隷の治癒術師も、上位互換が見つかり次第さっさと捨ててしまえば良い。こうなりたくなかったらしっかり働くことだね、メイリス」


「は、はい……」


 メイリスもすっかり怯えてしまって、もはや何も口答えすらしなくなった。

 Sランクにさえ上がってしまえば、様々な権限がパーティーには付与される。

 奴隷の身から抜け出せないメイリスも何をされるか分かったものではないしな……。


 これ以上不必要に俺を庇って自分の立場が危うくなるなんてことはやめておいた方が良いし、寂しいけども彼女の判断は妥当かもしれない。


「――ん?」


 その時だった。ぴくりと。

 俺の目線の先で何か小さな生き物がうごめいた。


 迷路状になった狭い通路は、魔物が隠れるに打って付けの場所だった。


 そんな通路の先に見えた銀色の光に、ヨークシャーは魔法力を溜めながら呟いた。


「Dランクモンスターのゴブリンみたいだね。さっさと焼き切ってしまおう。えいっ」


 ヨークシャーの一瞬の火力でゴブリンはいとも簡単に霧散していく。

 その様子を見て、メイリスはぱちぱちぱちと拍手を送る。


「……す、すごい、です。ここまでの道すがら、強い魔物も、ほとんどいなかったですし……」


 それは心底驚いたようなメイリスの純粋な反応だった。

 褒められることは満更悪い気でもないらしく、三人も少しだけにやけている。


「そりゃオレ達の力にビビってるんだろうよ」

「ぼく達三人にかかれば、多分どのくらいの敵が来ても相手にならないんじゃないかな? 何せ、もうすぐSランクなんだし」

「意外なほど順調だからな、俺たちのパーティーは」


 三人が妙に余裕があるのも仕方のないことだろう。


 現にこのパーティーが今まで活動してきて、なぜか最高でもBランク――群れで行動する筋肉狼(マッスルウルフ)程度までしか遭遇したことがない。

 言い換えれば、俺たちのパーティーはAランク相当の魔物を倒したこともないし、何なら遭遇したことさえないのだ。

 そんな状態でもSランクに入れるというのも、どうにも不思議な話だ。


 それに行くダンジョン行くダンジョンにボスが不在で俺たちは苦労もせずにボス部屋の宝を持ち逃げし、結果ダンジョン攻略――なんてのは一度や二度の話ではない。

 ダンジョンランクが上がれば上がるほど、それは顕著に表れていた。


 俺たちのパーティーは、本当に不気味なほどに運が良いパーティーだった。


 魔法を使えば魔物を下手に誘き寄せてしまう俺が、不思議な魔法の力をセーブ出来ている証拠でもある。

 誰も俺のことなど気に留めてくれるわけでもないが、それが上手く働いていることは少しだけ誇らしかった。


 いつものように罠を避け、強そうな魔獣の雰囲気があるルートを避け、安全にボス部屋へと進んでいた――その時だった。


『――珍しい匂いね』


 ふと、声がした。

 女の子のものだった。


「……? 誰だ?」


 俺が辺りを見回すも、忌々しそうにランドレースは剣の柄で俺の背中を小突いた。


「何言ってんだリック、さっさと進めよ。もうすぐボス部屋だろうが」


「今回も、驚くほど何もなかったねぇ。まだ消耗品だって少しも使ってないみたいだし」


「こんな楽な稼業があるとはな……。Sランクになったら、とりあえず王都の上玉抱きに行くか?」


 余裕の三人に、メイリスは緊張しながら告げる。


「も、目撃情報によるとこのダンジョンにはボス部屋を支配するAランク魔獣、氷属性魔法を駆使する魔熊マグマの他に特Sランクの岩石魔獣、ゴーレムが潜んでいるとのことです……とはいえゴーレムは乱入魔獣として何らかの原因でこの地帯に彷徨って入っている可能性が高く、遭遇率はほとんどないとのことですが――」


「どうせいやしねぇよ。ボスでもねぇ乱入魔獣が姿を現すことなんか滅多にあったもんじゃねぇ。さっさとボス部屋の宝奪ってトンズラするぜ。リック、荷物持ち(ポーター)の領分は忘れるんじゃねぇぞ」


 パーティーの誰も、女の子の声に気付いていないのか……?

 俺には聞こえる。先ほどから鮮明に。

 風に乗って届いてくる声は、更に近付いてくる。


『――みんなあなたに、怯えてる』


 ひゅぅと冷たい風が狭いダンジョンを突き抜けて、唐突にそれ(・・)は現れた。


「グゴォォォォォォオオオオオオオオ!!!」


 ボゴォォォォォォンッッ!!!


 もうすぐボス部屋というところ直前に巨大な破砕音と共に、ダンジョンの壁に孔が空いた。

 ボス部屋を飛び出して出てきたのは、ダンジョンの迷路いっぱいに広がる魔獣。

 

 バリボリボリガリン。


 魔獣の口には、ここのダンジョンボスであるはずの魔熊(マグマ)が咥えられている!


 い、一瞬でここのボスを食った……!?


 俺たちが呆然と目の前の惨劇を眺めていると、全身を岩で覆われた超大型魔獣はぎろりとこちらに体を向ける。


 それは体長おおよそ3メートルはあろう特Sランクモンスター、ゴーレムだった。

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