19.交わる
「ここ、は……ダンジョンの中? それにしては、凄く殺風景ですね……?」
「殺風景で悪かったわね。ところでリック、あなた何しているの? そんな入り口付近で寝っ転がって」
「…………魔法力切れ、デス…………」
四畳半の岩壁に囲まれた殺風景なダンジョンーアルテミスー。
アイシャは少しだけ不快そうな目つきで辺りを見回すディーナさんを指さした。
「この女が私の核に傷をつけない保障がどこにあるのかしら。私の力はスライム以下なのよ」
「おぅっ!? おぅぅ……っ!?」
ツンツンと、的確に痛いところを突いてくるアイシャ。
こいつ……! 俺とある程度リンクしてるから、俺の痛いところを分かっててつっついて来てやがる……!!
顔すら上げられない俺の前に、コツンと靴を鳴らしながら歩み寄ってくる影があった。
「そんなことするわけないじゃないですか。ここが例えダンジョンであったとしても……ね」
「ギルド職員と聞いていたのに、中の知識まで把握しているとはね」
「私もかつては冒険者だった身です。あまりにも向かなくて数ヶ月で引退して裏方にまわりましたけどね。リックさん、これ食べておいてください。ツユユの実です。ある程度の魔法力回復効果がありますよ」
「……アリガトウゴザイマス……」
ディーナさんから受け取った果実は、とても酸っぱかった……。
やっぱり、ちょっとだけ調子に乗る癖は直していった方が良いかもしれないな……――。
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俺の魔法力が最低限回復してきたところで目を覚ませば、どこからかふんわりと甘い匂いが漂ってくる。
目線の先では、アイシャが目を輝かせてしゃっくしゃっくと何かを必死で食んでいる。
「リック。美味しいわ。とても美味しいの。ディーナは優秀よ。料理の天才よ」
「アイシャちゃんが美味しそうに食べてくれるからですよ。お腹、空いていたんでしょう? まだ干し兎肉とカラルフルーツがありますから、ゆっくり食べても大丈夫ですよ~」
「ふ、ふん。餌ごときで……あむはむ、私から籠絡しようとしても甘いのよ……しゃっくしゃっく」
「はいはい、ゆっくりちゃんと噛んで食べましょうね、アイシャちゃん」
アイシャは、ディーナさんの膝の上でひょいぱくひょいぱくと餌付けをされていた。
「やっと目覚めたようね。全く、ディーナが核の魔素結晶を持ち去ろうとする冒険者だったらどうするつもりだったの」
「自分の核を灯り代わりにしてる無防備な奴には言われたくねぇよ。というか心開くの早すぎないか」
「だってリックの作る料理は案外味も無ければ臭みも残ってて食べられたものじゃなかったもの。その点アイシャは優秀よ。下処理というものを教えてもらったわ」
「アイシャちゃん、凄く物覚えが良いんですよ~。包丁の使い方も、初めてなのにとっても上手なんです。将来とっても賢い子になるかもしれません!」
なでなでなでと頭を撫で回すディーナさんに、アイシャ本人も満更ではないようだ。
どうして、こうなった。