11.闇魔法は生活魔法?
四畳半ほどの小さな岩部屋からは、もくもくと焚かれたたき火の煙が上がっていた。
「闇魔法って、昼間でも使えるんだ。てっきり夜だけかと思ってたけど」
近くの森に闇魔法の影を伸ばし始めてからたった数分。
闇魔法の影縫いでウサギの影をその場で縛り、ダンジョンの入り口まで持ってきてナイフで止めを刺す。
そうして狩ってきた子ウサギを調理しながら俺は自分の能力に驚嘆していた。
「生活魔法いらずで汎用性高いよな、この魔法……。外に出られないのは不便だけど」
「そうね。全智全能たる古代魔王が使っていたとされる魔法だもの。人間が使う基本属性である火、風、土、水よりかは使い勝手は良いかもしれないわ。まぁ、人間のままで扱える代物でもないのだけど」
「さながら俺は人の形したバケモノってトコか」
「ある程度の力を持つ魔物までなら、あなたがそこにいるだけで逃げたり隠れたりするほどには、リックはもとからバケモノよ。覚え、あるんじゃない?」
――そういえば……。
アーセナルに所属してた時は、ランクに見合った魔獣が出てこないことも良くあったなぁ。
そのおかげでランドレースやヨークシャーが増長してしまってああなった部分はあったんだけど……俺のせいだったとまでは思わなかった。
ってことはあれ、俺のせいだったってことかよ!
「それにダンジョンのレベルを上げればダンジョンマスターのリックの使える魔法幅も増えるし、私も外へ出られるようになるわ。最初のうちの辛抱よ」
飄々と言っているが、ダンジョン核のアイシャは、まだダンジョンから完全なる外へは出たことがないらしい。
曰く、ある程度ダンジョンレベルが上がらないと、分身である紅水晶とのリンクが切れてしまうのだという。
「はむっ、はむ……。ん、これは美味しいわ、リック。でもいまいちね」
ウサギの骨付き肉にむしゃぶりつきながらグーサインを出してくれるアイシャ。
本当は世の中にはもっと美味いものがたくさんあるし、俺は調理特化の魔法やスキルは何一つ習得してないから、いつかはちゃんとした美味しいものを食べさせてやりたいものだ。ホント、ダンジョンの核ってのは不都合不便しかないんだな……。
なおさら、アイシャのためにも――俺自身のためにも、ダンジョンレベルを上げるってのは急務だって事だ。
「で、アイシャの言ってた多く魔物が集いだしているポイントってのはどこだ?」
俺が問えば、アイシャは幼い容姿で表情を変えずに何もない虚空を指さした。
「向こうの方角よ。そう遠くはない。あなたも影を潜ませてみれば映像が見えてくるはずよ」
「闇魔法ってそんな雑で便利なのかよ! 何なんだこの能力。何なんだ昔の魔王って! ……あ、これか」
アイシャの指さす方角を向き、若干魔法力の籠もってそうな部分に魔法力を流してみれば、すぐにその場所は判明した。
人間だった時より、明らかに魔法力を感知する力が上がっている気がする。
それはそれでとても便利なんだが……。
「ここは――キュウルル村じゃないか」
そこは、俺も冒険者の時によく依頼をもらっていた思い入れのある場所だ。
キュウルル村のリンリーおばあちゃんがくれる野菜は、ここの土地の中では一番美味しい。それは俺が一番知っているんだ――と、物思いに耽っていたのも束の間。
――ゾクリ。
キュウルル村の周囲に、嫌な雰囲気を感じた。
アイシャは言う。
「随分濃い魔素ね。近々、大型ダンジョンが出現する予兆かしら」
大型ダンジョン……!
俺たちみたいに、レベル1から少しずつ大きくしていくのではなく、出現した時点である程度のレベルと強度を誇るものだ。
「このレベルだとそうね。この村は近く……今晩辺りかしら。土壌からして丸ごと飲み込まれるかもしれないわ。近くにそんな大きなダンジョンが出来たらたまったものじゃない。リック。……リック?」
――あれは、まさか……?
俺の放った影が映し出してくる映像は、見知った少女を映し出していた。
『どうもこんにちは。実地調査で冒険者ギルドから派遣されてきました、ディーナと申します!』
それはまさに、最悪のタイミングと言うに他ならなかった。