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2話

「はぁ、出費が……」


 下着やシャツなど後は予備のスーツも昨日の内にそろえたが朝になれば憂鬱になってきた。


「さて、行くか」




 会社は平常どおりだ。

 まぁ、当然だよな……ただ俺の家に空き巣が入ったとしても会社には何の影響もないんだから。


「穂乃儀さん。頼んでおいた資料出来てますか?」

「あ、はい。笠木(かさぎ)課長」


 出社してすぐに話しかけてきたのは笠木翔子(しょうこ)

 25歳で俺より年下なのにすでに課長で30歳平社員の俺の上司だ。


「確認させてもらいます」


 基本定時で帰るこの上司様に提出するために昨日は残業までしたのだ。


「こことこことの数字。おかしく有りませんか? 確認して昼までに再度提出してください」

「え? は、はい」


 ざっと資料を見てそういって資料をつき返してくる。

 確認するがおかしくは見えない、俺は一度席に戻り内容を確認しなおす。

 周りからは忍び笑い……くそがっ! わざわざ周りに聞こえるように言うことはないだろ!


 ……確かにあの上司様の言うとおりに数字が間違っていた。

 昨日帰る前に確認したはずなのに……はぁ、仕事やめようかなまじで。

 無能だし、年下上司には無能を見る目で見られるし、もう帰りたい。


「直しました」

「そこにおいておいてください、あとで確認しておきます。次はこれを見て○○社に提出するための資料をお願いします」

「はい」


 チラッとこちらを確認すると机の隅を指差した後に、こちらに次の仕事に使う資料を渡してくる。

 本当にどうでもいいって感じだな。

 仕事をどんどんと捌いていくのはさすが才媛様だ。


「とっ!? 地震っ!?」


 ドォンッと突き上げるような揺れが起こる。

 俺はその場でどうにかバランスを取るが立っていたものは大抵倒れ、イスに座っていたものもどうにか机にしがみついている。


「収まったか……?」

『余震の可能性もありますので安全を確保してから、落下物に注意して慌てず騒がず落ち着いて避難を開始してください。繰り返します──』


 社内アナウンスが流れる。

 何というか曖昧なアナウンスである。


「避難を開始しましょう! あせらずついてきて下さい! できれば頭を守れるカバンやクッションなどを持って出ましょう!」


 1分ほどして揺れが来ないことを確認した笠木課長がそういって机の下から出てフロアのドアを開けて出口を確保する。


「はぁ、でかい地震だったな」


 避難していくみんなについていく。

 避難先は近所にある大規模公園だったはずだ。

 他のビルからも結構な人数が出てき始めている。

 先頭のほうはもう見えないな。


「ん? なんだ? 戻ってくる?」


 公園のほうへ向かっていた集団が人を押しのけながら戻ってくる。

 それもかなり慌てているようで、怒声が混じる。


 巻き込まれたらたまらないと思い俺は近くのビルとビルの間へ避難する。

 一体何が起きてるんだ? 目の前でもみくちゃになり押しつぶしあいながら避難所とは別の方向へ逃げることになっている集団を眺める。

 そして、残ったのは倒れたことにより集団に踏まれて……死んでしまっている人だ。


 一体何から逃げていたのかと避難場所のほうを見るとそこにいたのは……大きな水の塊のようなものが蠢いていた……。


「なんだあれ……」

「きゃぁあああ!! いだぁぁああいいいいぃぃぃ!!」

「あれは……笠木課長!?」


 絶叫を上げているのは地面に倒れた笠木課長だった。

 水の塊から伸びる触手に足を掴まれて絶叫を上げている。


「や、やばくないかあれ!? くそっ! 何かないか!?」


 そして、俺の目に映ったのはドアを開けたまま放置された車だ……。


「どらぁ!」


 俺は車のドアを蹴り飛ばして壊す。

 そして強引に引きちぎりそれを持って水の塊へ走る。


「おらぁぁあ!」


 ばごんっ! と大きな音を立てて水の塊が吹き飛んでいく。


「い、いだぃ……いだいよぉぉお……」


 笠木課長のほうを見ればあの水の塊が接触してたと思われるところはまるで溶けたように抉れて一部炭化していた。

 それ以外も、全身いたるところに穴が……よく生きてるものだと思う。


「だ、大丈夫ですか?」

「ほ、穂乃儀さん……? 助けて、し、死にたくない、た、助けて……」


 弱弱しくこちらに手を伸ばしてくる笠木課長。

 その手すらも溶けた様に爛れている。


「あっ、えっ……くっ! これからやることは誰にもいわないでくださいね!」

「……?」

『ヒール』


 俺は笠木課長の手をとり治るか分からないが回復魔法を唱える。


「……治ったか?」

「痛く、ない……わたし、私助かったの?」

「っ! 掴まって!」


 良かったと息をつこうとしたところで俺と彼女を隠すように影ができる。

 俺はすぐに笠木課長の手を掴んでその場から逃げる。


「はぁ、ふぅ、課長は逃げてください。あ、上着あげるんでその格好は少しまずいですしね」

「ほ、穂乃儀さん?」


 服のいたるところに穴が開いている彼女に上着をかける

 手にあるのは車のドアだけ、それもどうやら溶けかけている。

 命を預けるには不安しかないな。

 しかし、ダメージを受けても回復できるなら新しくドアを手に入れてそれを犠牲にしつつ吹き飛ばして逃げることはできるだろう。


「早く!」

「た、立てなくて……ご、ごめんなさいっ!」


 地面にへたり込み震えながら課長はそういって涙を流す。


「ぐっ! おっ!?」


 どうしたものかと迷っていると水……いや、おそらく硫酸かなんかの塊なんだろう。

 それが触手で殴りつけてきた、どうにかドアを盾にしたがどんな力なのか吹き飛ばされてしまう。


「ほ、穂乃儀さん!? いや、こ、こないで……」


 スライムがズリズリと課長のほうへ近づいていく。


「くそったれがぁああ!」


 近くにあった石を全力で投げる。

 それは半ばほどまで酸の塊の化け物に埋まり、そしてたいしたダメージも与えられなかったのか石はそのまま押し出され地面に落ちる。

 しかし、少しだけあいつの動きは止まった。


 俺はその隙を見逃さずにドアを持って突撃する。

 触手のいくつかがこっちに向かってくるがかわしながら近づき、そして化け物を殴りつけてやる。


「はぁ、はぁ、逃げるぞ!」

「ひゃ、ひゃい!」


 そして、どうにか俺は笠木課長を抱えてその場を逃げ出すことに成功するのだった。


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