用語
○時代
西暦二〇三〇年、この小説が書かれた年から数えて、ちょうど百年後の未来の話である。
○フローチング合金
浮力を発生させる流体が周囲に無しに、自らに内在する浮力により空間中に浮かぶ特殊合金。
この合金の発明により、巨大空中浮遊都市の建設が可能になった。
○空中都市国家
増え過ぎた人類は、ついに面積の限られた地上を捨て、高度一万数千メートルの空中に浮遊する巨大な人口の島への移住を決意した。
空中浮遊人工島は、全世界の空に無数に浮かんでいる。
基本的には個々の人工島それぞれが独立した都市国家である。都市国家どうしが同盟を結び、連合を形成している場合もある。
○空中都市国家の都市部と農村部
空に浮かぶ巨大な人工の島である空中都市国家は、いずれも島単独での自給自足を基本としている。そのため、都市国家と言いながら、島の上面面積全体に対する人口密集地域(いわゆる都市部)の割合は案外小さい。
人工が密集する都市中枢部へ食料その他の農作物を供給する必要から、上部面積の大部分は水田、畑、牧草地、農村部、そして森である。
○空中都市国家ハチドリ市
世界中に無数にある空中都市国家の一つである。
○空中都市国家ハチドリ市の気候
冬には年に何日か雪が降る。しかし降っても数日で溶ける場合がほとんどで、道路を除雪しなければ通行できなくなるほど積もることは滅多にない。(滅多にないが、ゼロでは無い。その年の気候によっては有りうる)
○岬の赤レンガ屋敷
空中都市国家ハチドリの市街地から舗装幹線道を自動車で一時間半、そこからさらに未舗装の道を三十分走った岬の先端に、その名のとおり赤レンガ壁に黒い日本瓦を載せた和洋折衷二階建ての館がある。
『岬』と言っても空中都市国家なので、突き出た崖の下は『海』ではなく高度一万数千メートルの『空』である。
館の女主人・美園三音子が、女中の耳原富喜子、運転手兼ボディーガードの黒目鏡壱と暮らしている。
敷地内に別棟で建てられたギャレージは、美園三音子所有のセダン、トラック、そして愛人の泥渕錠太郎が所有するコンバーチブルの合計三台を格納し、さらに自動車一台分の空間が余るほどの広さがある。
母屋の全ての窓には頑丈な鋳鉄製の鎧戸が嵌められ、全ての出入り口の扉は、頑丈な鉄板を木の飾り板で挟んだ構造になっている。扉の覗き窓には、鋼鉄製の格子を埋め込んだ《《ぶ》》厚いガラス板を嵌め込んであり、至近距離から拳銃弾を撃っても貫通しない。
いざまさかの時には籠城も可能な小型要塞のようである。
地下の倉庫の一角は武器庫になっていて、各種拳銃、ライフル、大量の弾薬が保管されている。
○岬の赤レンガ屋敷の通信
人里離れた岬の先端に位置するため、電話線、上下水道、電力線は整備されていない。
外部との連絡は最寄りの馬田久村まで自動車で行って、手紙あるいは電報でやり取りするしかない。
ただし、警察および一部の限られた人間とは〈特殊電波通信器〉を使って直接やり取りできる。
頑丈な鋼鉄製の棒が地面から母屋の煙突に沿って立ち上がり、煙突の最上部からさらに二メートル程上まで伸びている。これが〈特殊電波通信器〉のアンテナである。アンテナが捕捉した無線信号は、いったん地下の通信室に設置された巨大な信号増幅復号装置に掛けられ、各部屋に置いてあるラジオ受信器ほどの大きさの端末に組み込まれたスピーカーによって音声に変換される。これらは全て多数の真空管を使った複雑な回路によって動作している。
○赤レンガ屋敷の電力
電力は、敷地内にある機械小屋の発電機から得る。機械小屋は母屋と同じく赤レンガ積み日本瓦の建物で、窓は無く、頑丈な鉄の扉が一つだけある。
機械小屋と母屋は地下道で繋がっていて、外に出なくても行き来できる。
発電機から発生する余熱は冬場の暖房に使われる。機械小屋は動力室、蓄電室、燃料タンクに分かれていて、蓄電室には大型蓄電池が幾つも設置されている。発電機の出力に余剰があった場合は、こちらの蓄電池に溜める。
発電機は二基設置されていて、一方は比較的大型、一方は小型である。必要に応じて、小型だけ駆動、大型だけ駆動、両方駆動、と使い分ける。
○赤レンガ屋敷の水道
上水に関しては、岬の根元(ここも敷地内である)の隠し井戸から電気ポンプで汲み上げ、地下に埋設された水道管で館まで引き込んでいる。もちろん、生のまま飲めるほど清涼であり、冬場でも凍ることはない。
下水は崖の中間に穿たれた穴から一万数千メートルの空へ垂れ流している。
○馬田久村
『岬の赤レンガ屋敷』から一番近い村。それでも自動車で四十分かかる。
○オートバイ・タクシー
オートバイの後部に、乗員二名ないし四名の客室を架装したリヤカーを接続し、牽引する簡易式のタクシーである。
本物のタクシーより乗り心地は悪いが、その分料金も安い。
○空中浮遊都市国家ハチドリ市警視庁
警官の標準装備拳銃はミリタリー&ポリス(38SP/6発)リボルバーである。
○ハチドリ市の道路
自動車は左側通行である。
従って、ほとんどの自動車は右ハンドルである。
○蛇目髑髏党
世界の優秀な科学者たちを買収し、脅迫し、時には拉致監禁して、犯罪に利用する秘密結社である。
額中央から一匹、両目それぞれの眼窩から二匹ずつ、合計五匹の蛇が生えた髑髏をシンボル・マークにしている。
首領は〈蝮ドクロ〉と名乗っている。
〈白銅パイソン〉〈青銅メヂューサ〉〈黄銅コブラ〉〈黒鉄タイパン〉と名乗る四人の幹部がいて、彼ら四人を総称して「四天毒蛇」という。
首領と四人の幹部は、アジトの中では全員仮面を被り、また、犯罪活動のため一般人に紛れる時は、特殊ゴムなどを使い入念に変装をするため、彼らの素顔を見たものは党員の中にさえ殆どいない。
○蛇目髑髏党の党本部
どこかにある。
○蛇目髑髏党の移動アジト
空中浮遊貨物船や、空中浮遊高級ヨットなど、主に小型〜中型の空中浮遊船をアジト代りに使っている。
○蛇目髑髏党の武器
買収し、脅迫し、拉致した科学者たちに様々な武器を作らせ、犯罪計画ごとに使い分けている。
党員全員が持つ標準装備として〈毒針発射器〉がある。これは圧縮空気の圧力を利用して毒を含んだ短い針を射出する小型拳銃ほどの大きさの武器で、殆ど発射音が聞こえない。また、針に含ませる薬液の種類を変えることで「相手を毒殺する」「気絶させる」「意識を保ったまま体だけを麻痺させる」などの効果を使い分けることができる。
○伸縮性蛇頭鞭
首領〈蝮ドクロ〉と四人の幹部のみ所持し使用することが許された武器として〈伸縮性蛇頭鞭〉がある。これは先端に蛇の頭が付いた鞭の事で、最短三十センチから最長三十メートルまで伸び縮みして敵に絡みつく。
先端の蛇の頭は単なる飾りではなく、生きた蛇の頭部が移植されている。鞭それ自体が「生きている」とも言える。調教する事で自在に動くようになる。
強い束縛力で敵の骨がバラバラに砕けるまで締め上げたり、先端に付いた生きた毒蛇の頭が敵に噛みついたりして攻撃する。
蛇目髑髏党の科学力によって産み出された奇怪な武器ではあるが、党が開発し所有する武器の中で最強という訳ではない。
〈伸縮性蛇頭鞭〉を使う主な目的は、下級の党員や、金で雇われた臨時の手下に対し、幹部たちへの恐怖と忠誠を植え付けるための象徴的な意味合いが強い。
○蛇目髑髏党のシンボル・マーク(入れ墨)
額中央から一匹、両目それぞれの眼窩から二匹ずつ、合計五匹の蛇が生えた髑髏をシンボル・マークにしている。
党員は、必ず体のどこかにこの入れ墨をしている。しかし特殊インキで彫られた入れ墨は、普段は皮膚の下に隠れて発色しない。
シンボル・マークが体に表れるのは、
党員が死んだ後か、あるいは党員どうしが互いに仲間であることを確認するために照射する秘密の特殊光線を当てられた時か、『特殊党員』と呼ばれる一種の超能力者らがその能力を発揮する時だけである。
○蛇目髑髏党の特殊党員
一部の党員は超能力を持っている。彼らは〈特殊党員〉と呼ばれている。
能力の種類はさまざまである。
一般党員の場合、体に彫られた髑髏のシンボル・マークは死なない限り浮き出て来ないが、〈特殊党員〉の場合は、超能力を使うとき体のシンボル・マークが赤く光る。
○蛇目髑髏党の平党員
鱗状の文様が入った深緑色の戦闘服で、頭の天辺から爪先までをすっぽり包み込んでいる。
戦闘服は伸縮性で体の線にピッタリと張り付く。
全身を包む戦闘服は、顔の部分だけ生地が無く露出しているが、通常、党員は顔の上半分すなわち額から両目にかけてを緑色の蛇を模ったマスクで隠している。
さらに、両手に深緑色の革手袋をはめ、腰に黒ベルトを巻き、両足に深緑色のブーツを履いている。
腰のベルトには、〈毒針発射器〉のホルスターと、予備弾倉を複数収納できるポーチが付いている。
○蛇目髑髏党の特殊変装ゴム
人間の皮膚によく似た質感の特殊ゴム。これを別人の顔そっくり成形して顔に貼り付ける事により、他の人間に成りすます事ができる。
爪などで引っ掻くことで簡単に剥がれ落ちる。
○蛇目髑髏党の目的
「絶対正義が支配する完全なる理想世界の建設」
○貨幣価値
貨幣価値は、読者の皆さんが住んでいる「もう一つの西暦二〇二〇年前後の日本」に比して、およそ千倍である。
つまり、この物語世界における一銭=読者の皆さんの世界における十円である。