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黒騎士、異世界に行く  作者: 矢代大介
プロローグ
2/17

第1話 ETERNAL FRONTIER


ETERNAL(エターナル) FRONTIER(フロンティア)」、略称エタフロ。それが、俺がハマったオンラインゲームの名前である。


 現代とは全く異なる時空の上に成り立った世界である「ヴァントリア」を舞台にして、その世界に召喚された主人公を取り巻く様々な物語を体感するとともに、広大なヴァントリアを自由に旅する……と言うのが、このゲームの基本的な骨子だ。


 世界観は、剣と魔法の世界を下地に、魔力を媒体にした技術が発展している、近年よく見るようになった創作ファンタジー風の世界。

 プレイヤーは、ヴァントリアを取り巻く数々の異変に立ち向かうため召喚された「異世界の戦士(エトランジェ)」として、ヴァントリアでの日々を過ごしていく……という、これまたよくある王道な展開を踏襲していた。



 そんなエタフロに俺が足を踏み入れるきっかけとなったのは、ネットサーフィン中に何気なく目に留まった小さなバナーが始まりである。

 元から細々とオンラインゲームを続けており、丁度面白いオンゲはないかな、と考えていた時期に見つけたのが、このエタフロなのだ。サービスインからそれほど日にちが経っておらず、良くも悪くも未知数な段階だったのも、一つのきっかけだっただろう。


 このゲームの魅力を語るならば、ひとえに「オリジナリティを極限まで追求できる」というところにあった。


 まず、キャラクターメイキング。

 用意された種族やモデルをいじくって、自由に外見を変更することはもちろん、豊富に用意された各種アクセサリを使えば、その自由度はさらに増す。

 これだけでもそこそこの話題性はあったが、ある日ネットにぽんと放流されたスクリーンショットが――そこに映っていた「某変身ベルトを腰に巻いた仮面のライダー」を再現したキャラクターを映した画像が、瞬く間に一世を風靡。

 それからは機動戦士な人型ロボットだの、映画が始まる前によく出てくるビデオカメラ頭の男だの、クエックエッと鳴くスナック菓子のマスコットキャラだの、それこそありとあらゆるキャラクターを生成できる自由度の高さで、ひと際注目を浴びたこともあった。


 次に、キャラクターに着せる装備。

 キャラクリゲーとして注目される前から、高品質なモデリングと無駄に凝りまくったデザインの装備が数多く存在していたが、それは言ってみれば「運営から用意されたプリセット」に過ぎない。このゲームには、外見を変更するための装備品を自分でモデリングして、それを運営に送ることで、正式にゲーム内で装備品として使用できるという仕様が存在したのだ。

 この仕様は当然、オリジナルの何かを作りたいというプレイヤーたちのクリエイト魂を刺激する。俗にいう神職人の登場だったり、大手企業などがPRの為に作成したりなど、クリエイター側がやりたい放題やらかした結果、公認の攻略情報サイトはもちろん、運営側でも正確な装備品の総数が追いきれないという、世にも珍しい珍現象が起こっていた。


 そして、キャラクターの役割を決める職業。

 このゲームでは「クラス」と呼称されるそれにもまた、運営側からの頭がおかしいとしか思えない熱が込められていた。

 端的に言うならば、「プレイヤーの手で新たなクラスが作成できる」とでも言うべきだろう。プレイヤーが起こしたアクションに対応して、システムが様々なリアクションを返し、色々な職業を誕生させていくのだ。

 戦士が集中して刀剣を扱えば、それは新たなるクラス「剣士」となる。逆に盾を用いた守りを重視する戦いをすれば、それは「シールドバトラー」という、一味違うクラスに変化した。

 魔法使いが炎魔法を極めれば、それは「フレイムメイジ」になる。逆に、一部の魔物を使役する召喚魔法を極めれば、それは「サモナー」という全く別のクラスに変化した。

 言葉だけで追いきることは、とてもではないができないだろう。なにせ、プレイヤーから募られた有志が検証しただけでも、クラスの総数は500を超えるという驚きの結果がはじき出されたほどなのだ。


 さらに、各クラスが覚える技能。

 戦闘用に使う技能を「戦技(アーツ)」。キャラクターが覚える技術や、習得することで効果を発揮する技能を「能力(スキル)」と呼称されるそれもまた、クラスと共に膨大な量を備えていた。

 習得のためにはレベルアップのほか、特定の行動を繰り返したり既定のアイテムを手に入れることで習得できるものも多い。それらを組み合わせ、500を超えるクラスの中から、さらに細かく自分好みのプレイスタイルを追求できた。



 そうして、ある種暴力的なほどの自由度で構成されたキャラクターたちを待ち受けるのは、ゲームの限界を投げ捨てたかのような広大な世界。

 5つの大陸と多様な景観で構成されたヴァントリアは、それぞれが一つのゲームの舞台として機能するレベルの広大さだ。あんまりにも広すぎるので、辺境に行くと自分以外のプレイヤーに遭遇しませんでした、ということもたまにあった。

 ともかく、ヴァントリアはそれほどに広大だった。




 俺自身、最初はよくあるオンゲだとタカを括っていたのだが、しかしその認識は一瞬で覆される。

 どこをとっても文句のつけようがない、圧倒的な自由度とコンテンツの充実ぶりによって、ライトゲーマーだったはずの俺はすっかり魅了されてしまい――結果、サービス開始からの今日に至るまで、俺はこのゲームを長くプレイするベテランになっていた。


 勿論、そんな完成度の高いゲームがユーザーから着目されないわけもない。

 余り公式からも宣伝されないゲームであったにもかかわらず、口コミやネットの評価によってちまちまと人は集まっていき、そのたびに世界は活気づいた。

 運営からの手厚いサービス体制や、そのボリュームに見あわない良心的な課金体制もあり、エタフロは「MMORPGの最高傑作」という呼び声の元、長きに渡って君臨していた。





 ――そう、君臨「していた」のだ。





《お知らせ……本日24:00を持ちまして、ETERNAL FRONTIERはすべてのサービスを終了させていただきます。終了30分前には、運営からプレイヤーの皆様へのご挨拶がありますので、ぜひ始まりの街「アンファング」へとお越しください。ETERNAL FRONTIERをご愛顧頂き、本当にありがとうございました》


 ふと、画面の上部にウィンドウが出現し、ゆっくりとテロップがスクロールし始める。1週間ほど前から出現し始め、今やすっかり見慣れてしまったそれは、紛れもないこの世界の終焉を告げる、造物主たちからのメッセージだった。



 そう、エタフロは今日……具体的には後数時間ほどで、全てのサービスを終了し、ゲームとして終わりを迎える。それこそが、俺がさきほどからバカでかいため息を生産し続ける機械になっている、唯一にして最大の理由だった。

 エタフロが生まれ落ちてからのここ数年の間に、ゲームの水準はどんどん上がっていった。もちろん、小手先の技術ではエタフロに太刀打ちできるはずもないのだが、チリも積もればなんとやら。日々進化する業界の中では、如何に長く続いたゲームと言えど、終焉は避けて通れない物だった。

 世界各地にひしめくプレイヤーたちが別の世界に旅立って行き、少しずつ、本当に少しずつ活気を失っていくこの世界を見て、俺は胸に穴が開くような、強い寂寥感を覚える。そんな日々が続いてしばらくの後、今から半年ほど前、ついに運営から「サービス終了」が告知されたのだ。



***



「到着っと」

 そんなサービス終了が差し迫った頃、俺――というかゲーム内で俺が駆るアバターは、一人絶海の孤島へとやってきていた。黒い岩肌とうねる荒波が支配する絶海の孤島に降り立ったアバターは、島の中心にひっそりとそびえる小さな石造りの祠へと向かう。

 ここは、いわばこのゲームの本筋であるグランドクエスト(ストーリーモード)最後の地であり、エタフロ全体を通したラスボスが鎮座する地だ。「ヨノハテ島」と銘打たれたこの島には、プレイヤーキャラが召喚された時に使われたものと良く似通った設備が備わっており、プレイヤーはそれを使って「神界」と呼ばれる異次元へと向かい、ラスボスと真の決着をつける――と言うのが、グランドクエストのあらすじだった。


 祠の中へと入り、そこにあった魔方陣を起動する。画面いっぱいに広がるまばゆいエフェクトが収まると、そこは虚無一色に彩られた、円形のバトルステージ。その中央には、白と金に染め抜かれた、神々しくも禍々しい凶悪な鎧を身に着け、背に巨大な後光を背負った男の姿があった。

 奴の名は「創造神ヴァルトライア」。グランドクエストで起こったもろもろの大事件を扇動した黒幕にして、このエタフロの舞台であるヴァントリアを手掛けた、本物の神……と言う設定を持つ、正真正銘のラスボス。

 そして、俺がここに来た唯一にして最大の目的だった。


 俺の目的はただ一つ、コイツを討伐すること。

 それも、本来想定されている4人パーティではなく、俺単独での討伐を目指すのだ。


「っしゃ、やるか」


 ぱしんと両頬を挟むように叩いて、俺は自分の中のスイッチを切り替える。

 ココからは、俺のエタフロ人生の中でも一番の長丁場になるのだ。少しの気の緩みが、即座に失敗につながると考えることを心掛けながら、俺は自身のアバターを操作し、音高らかに愛用の武器を抜刀した。



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