第0話 プロローグ
一話4000文字前後で、ゆっくりマイペースで更新していく予定です。
粗だらけの完全見切り発車ですが、どうかよろしくお願いいたします。
本気になる。それがどういうことかは、言葉として知っている。
けれどもそれを、実感したことはなかった。
勉強は、好きじゃなかった。
友人との遊びは、どこか生暖かいモノだった。
仕事は、生活のために必要な作業だった。
恋なんて、一度もしたことが無かった。
だから俺には、本気になれる何かと言うものは、存在しなかった。
――あの日までは。
ただただ、その世界に憧れた。
ただただ、その世界に見入った。
広大で、自由で、愉快なそれに魅せられた俺は、その時初めて「本気になる」と言うことを知れたのだ。
上を目指した。
欲しいものを求めた。
仲間と一緒に、バカ騒ぎした。
諍いに心の底から憤った。
そうして気づけば、俺の生活はその世界と密接に結びつくようになっていた。
ひたむきに強さを求めて。
時には自分の理想を突き詰めて。
たくさんの仲間と出会い、別れて。
目的を果たせなかったことに嘆いて。
長い、長い時を、その世界で過ごして。
ずっとずっと、この世界が続いていく。それを俺は、信じて疑っていなかった。
――――だけど結局、その世界はまやかしで。
無機質な機械と、打ちこまれたプログラムで構成された幻で。
それは所詮、0と1がひしめき合う電子の中に生じた、小さな幻想でしかなかった。
***
「…………はぁー……」
深い、深いため息をつきながら、俺は一人、自室で静かにパソコンに向かい合う。画面には現在起動しているゲームの画面が表示されており、今の俺はそのゲームをプレイしている最中だった。
だけど、それももうじき終わる。ちらりと時計を見れば、その時間になるまでそう長い猶予は存在しなかった。
「……はぁぁー…………」
もう一度、深い深いため息。けれどそれで何かが変わることはなく、今の俺にはただただ現実を受け入れる以外の道はなかった。
とりあえず、その前にやることがある。ずっしりと沈んだ心持ちのまま、俺は再びパソコンに向かい合い、握っていたゲームパッドを握り直した。