第一話 猫娘とゲームと
「ねぇ、唯依お姉ちゃん。今日からFRD開始されるけど種族どうするの?」
「ん~、多分だけど、獣人系にすると思うよ?」
FRD正式サービス開始当日の朝。いつもの食卓にて妹の夏海が牛乳を片手に尻尾を立てて先を振りながら聞いてくる。
そんな妹を見て、同じように尻尾を振りながら食卓に着く。
「なんで獣人系なの?」
夏海は不思議そうな表情でこちらを見つめてくる。
「ん? 簡単、リアルでも尻尾があるでしょ私達。それが急になくなると逆に違和感がありそうで、獣人系を選ぼうかなと思ってね」
夏海の質問にFRDで獣人系でプレイする理由を、尻尾をユラユラと振りながら朝食のトーストを食べ始める。
そして、テレビからも今私達が話題にしているFRDを話題にした話が流れてくる。
「あぁ、なるほど。確かに言われてみると、尻尾がないと逆に落ち着かないかも・・・・・・」
「だから、私は獣人系で種族を狐にしようかなと思ってるよ。多分姉さんも狐選ぶだろうし」
「お姉ちゃん達が狐にするなら私も狐にしようかなぁ・・・・・・」
「そこはまぁ、夏海が好きな種族を選べばいいと思うよ?」
私の返答に夏海も私が獣人系の種族にしようと思っている理由に納得し、自分自身にも当てはめて考えたのか、尻尾をユラユラ振りながら考え込む。
で、私はFRDを一緒にやろうと言い出した姉の閑の事を考えながら、姉が獣人系を選択した場合選ぶであろう種族を考える。
「でも、FRDって種族固有のスキルは確か無いけど、補正ってあったよね?」
「そうね、狐獣人だと魔法職寄りになるわね。近接職も行けるけど、適正クラスって言われると魔法職よりね」
「そうなると、三人共に魔法職? それってバランス悪くない?」
「三人共に魔法職に偏らせちゃうとね。でも、夏海忘れてない? 私は近接職も出来るって事」
「あっそっか。でも、このFRDって近接魔法職ってオープンβテストであったっけ?」
「一応、βテストの終盤で発見されてるよ。魔法陣使いと剣士で魔法剣士のクラスになるんだって」
「魔法陣使いかぁ・・・・・・盲点だった」
今夏海が言った様に、FRDでは種族事に補正値があり、各種族事に適正クラスをある程度絞り込める。
人族ならオールラウンダーだが育成に時間が掛る。犬・猫獣人系なら近接職、狐獣人なら魔法職といった具合に。
そして、今までのゲームでも普段は三人でPTを組んで、必要に応じて他のプレイヤーを入れて攻略していくといった具合に、基本は三人で完結するPT編成をしていたので、夏海が適正クラスで行くとなるとバランスが悪いと気にする。
ただ、私が今まで近接職のプレイ経験があるという事を指摘する。すると夏海は、オープンβ中に近接魔法職が発見されているかどうか知らなかったようで尋ねてくる。
その質問にβテスト終盤での事を夏海に伝えると、夏海は項垂れる。
「まぁ、仕方ないわよ。あの燃費が悪い職業が近接魔法職のトリガーだからね」
「魔法陣使いって確か、通常の魔法使いと同じ魔法を使えるけど、使用するMPが二倍近くになるんだっけ?」
「んと確かそれぐらいだったと思うわよ。まぁ、魔法剣士になると消費MPは落ち着くらしいけど。威力は本職と比べるとやっぱり低いらしいけどね」
「まぁそこは仕方ないんじゃないかな唯依姉。でも、唯依姉って回避盾でしょ? 純粋なタンク居なくても大丈夫なのかな」
「ん~そこはまぁ追々考えればいいんじゃないかな。最悪、気が合いそうな人でタンクの人がいれば固定PTに誘ってもいいと思うし」
夏海の反応を見て苦笑いし、夏海と共にトリガーとなった職業の特徴を振り返る。
そして、夏海から実際にFRDをプレイする時にPT編成上で、三人共に純粋なタンク職を出来る種族ではないという事で、今後どうするのかを考える。
勿論の事、レベリングでは回避盾でも問題にはならないだろうけど、ボス戦闘において、回避盾の場合失敗した時のリスクの大きさからもタンク職をどうするかと思案する。
「は~い、二人共おはよう」
夏海と共にまだ始まってすらないFRDでのPT編成について相談していると、私達三姉妹の長女の閑が食卓に寝間着のまま姿を表す。
「あぁ、閑姉さん。おはようございます。姉さん、今日は珍しく起きるのが遅かったですね」
「あ~閑お姉ちゃん! おはよ~」
「ん~二人共元気ね~」
閑姉さんの挨拶に夏海と共に挨拶を返すと、閑姉さんはまだ眠いのか若干フラフラとした足取りで椅子に腰かける。
「で、二人共に朝からFRDの話?」
「ん、夏海がFRDの種族どうするの? って聞いてきたからね」
「そしたら、唯依お姉ちゃんが狐獣人にするって言ってたから私も狐獣人にしようかなってなって」
「あら、二人共に獣人系選ぶのね。でも、夏海も狐獣人にするのはちょっと意外かな?」
「多分夏海は最初別の種族にする心算だったんじゃないかな。私は尻尾がない種族選ぶと違和感が凄そうだったから」
「ん~確かに私は最初別の有翼種系にしようとしてたね。でも、唯依お姉ちゃんの話を聞いてると、確かにって思った所もあるから狐獣人にしようと思ったわけ」
「あぁ、そっか夏海って猫娘化してそんなに時間たってないものね」
閑姉さんは私達の話題がFRDであったと見抜いて微笑みながら話を振ってくる姉さんに先程話していた内容を私達二人が答える。
すると、私達二人の返答を聞き、苦笑いしながらも納得するが、夏海も獣人系にするのは意外だったとちょっと驚いた表情を見せると共に尻尾がボワッと太くなり毛も逆立つ。
姉さんの表情と尻尾を見て苦笑いしながらも私の考えを答え、夏海も私の考えに同意しながら、自分の答えを話す。そして、閑姉さんは夏海が猫娘になってから日が浅いという事で獣人系以外を選ぼうとしてたのに納得する。
「うん、正直二年前迄は普通だったけどお姉ちゃん達と同じく猫娘化しちゃった時は驚いたけど嬉しかったな」
「まぁ、三姉妹揃って猫娘だからねぇ。うちはお母さん含めて猫娘4人だもの」
「ま、お父さん達も娘三人共に猫娘になるのは予想外だったみたいで凄い慌ててたわよ」
「そうねぇ、幾ら母親が猫娘だったら、娘もなりやすいとはいえ三人共になるのは珍しいみたいだけどね」
「うんうん。でもなんで閑お姉ちゃんだけペルシャで、私と唯依お姉ちゃんがスコティッシュなんだろ」
「あぁ、それなら多分だけど理由分かるわよ? お父さんのお母さん、つまり私達から見るとおばあちゃんね。そのおばあちゃんがねペルシャらしいわよ。で、母さんがスコティッシュでしょ? だからだと思うわよ」
「そうなんだ、おばあちゃんも猫娘だったんだ・・・・・・」
私達の話題はFRDから猫娘の話題に変わり、夏海が当時の事を振り返りながらはにかんだ表情で話す。尻尾も大きくユッタリと振っていた。夏海の表情と尻尾を見て私と閑姉さんは顔を見合わせる。
そして、閑姉さんと私は夏海が猫娘化した時の両親の事を笑いながらも夏海に話、三人が同じ猫の猫娘にならなかった理由を閑姉さんが夏海に教える。
今、話題に上がった私達のおばあちゃん。この人もペルシャの猫娘だった人で夏海が生まれる前に亡くなってしまったので、夏海はおばあちゃんが猫娘だったのを初めて知る。
「さてと、FRDのサービス開始って何時からだったかしら」
「んと、十二時から開始だった筈よ閑姉さん」
「じゃあ、朝食食べ終わったら準備しないといけないわね」
「さんせ~い!でも、準備と言ってもそこまでやる事ないんじゃないの? お姉ちゃん達」
「そうね。でも、キャラクタークリエイトのみなら十一時から開始されてるの。だから、キャラクタークリエイトを凝りたいなら朝食を食べ終わったら始めた方がいいわよ」
「因みに、閑お姉ちゃんも狐獣人?」
「一応はその心算よ。ただ、キャラクタークリエイトはそこまで凝った物にはしない心算。精々髪の毛の色を変えたり瞳の色を変えたりとリアルバレしない程度にしか弄らないわ」
「なんだ、閑姉さんもその心算だったんだ」
「私もって事は唯依も弄る気ないのね」
「え~二人共弄らないの?」
閑姉さんが、チラリと居間の柱にかかっている柱時計を見ながら、FRDのサービス開始時間を訪ねてくる。私はその質問にサービス開始時間を思い出しながら答え、その答えを聞いた閑姉さんが一つ手を叩き、手早く食器を片付け始める。
元気よく夏海が賛同するが、直ぐにハタと思い当たったのか、首を傾げる。その夏海の疑問に私が答える。私の答えを聞き、食器を台所に持って行っている閑姉さんに夏海が種族を問いかける。
閑姉さんの答えに私も同意し、閑姉さんも苦笑いをこぼす。私達の反応を見て夏海は驚きながら訪ねてくる。
「まぁね、変に弄ると違和感が出そうだからね」
「姉さんと同じく」
「あ~なるほど・・・・・・二人共弄らないなら私もそれぐらいにしとこうかなぁ」
「ま、そうしときなさい」
閑姉さんの返答に私も同意し、夏海も以前のゲームで弄ったせいで違和感があったのか思案顔で私達の答えに同調する。
そして、閑姉さんも短く夏海に声をかける。